蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.6 2017-2018シーズンの後半戦、各地で最高峰の戦いが繰…

蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.6

 2017-2018シーズンの後半戦、各地で最高峰の戦いが繰り広げられる欧州各国のサッカーリーグ。この企画では、その世界トップの魅力、そして観戦術を目利きたちが語り合います。

 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎──。

 今回のテーマは、リーガ・エスパニョーラ(ラ・リーガ)のビッグクラブ、バルセロナ(バルサ)。今シーズン、新指揮官を迎え、ネイマールがパリ・サンジェルマンへ移籍。それでも絶好調を維持している理由を分析しました。

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今季のラ・リーガで首位を快走するバルセロナ

――大不振のレアル・マドリード(マドリー)とは対照的に、バルセロナはまだリーグ戦で無敗を続けるなど絶好調です。お三方はシーズン前半戦を振り返って、バルサの強さの秘密はどこにあると見ていますか?

小澤 僕は、評価が難しい、ある意味で微妙なサッカーだと見ています。あえてアンバランスを作って、リオネル・メッシをトップ下、あるいは4-4-2の2トップでルイス・スアレスと組ませている。

 ここに来てパウリーニョをトップ下に置く4-4-2が機能し始めていますけれど、前提としては開幕直前にネイマールが抜けてMSNが解体、前線のバランスが崩れたことによって、そういうアンバランスなシステムや戦術を選択せざるを得なかったというのはあります。メッシも30歳になって、なかなか守備に貢献できない。それはスアレスも同じで、そこをカバーするためにパウリーニョを補強しました。

 ただ、エルネスト・バルベルデの功績として大きいと思うのは、ルイス・エンリケ前監督時代と違って、間延びした中でカウンターの応酬を挑んで決定力で勝つというのではなく、全体的にボール保持率を高めて相手を押し込みながら、トランジッション(攻守の切り替え)で相手に圧力をかけて、高い位置でボールを奪い返すというスタイルを取り戻したことだと思います。

 実際、セルヒオ・ブスケッツのプレーエリアは昨季よりも確実に高くなっていますし、よいポジションでボールを奪えている。それが、インターセプトの回数がリーグトップというデータにも表れていると思います。昨季までは戻りながら守備をすることが多かったので、そういう部分もバルベルデのスタイルを象徴していると思います。

中山 今季のバルサは、手堅いサッカーできっちり勝ち点を稼いでいますよね。わかりやすく言えば、危なげないサッカー。今季はバルベルデ監督が就任して、守備を強化することによって見事にチームを立て直しました。確かに開幕前にネイマールがパリ・サンジェルマンに引き抜かれた時は混乱も見えましたが、そこをパウリーニョの獲得で見事に修正した。プレーエリアが広く、攻守両面で貢献できる彼の加入で、新しいバルサの形が完成した印象がありますね。

倉敷 GKテア・シュテーゲンのセーブ率が驚異的なこともバルサ独走に相当寄与していますね。攻撃力が高いゆえに見どころが少なく感じる1―0の試合などでも、テア・シュテーゲンが主役となってゲームの価値を高めている印象です。

 昨季より守備が安定していても、バルサはバルサ。時にあっさりと裏を取られるバルサらしい弱点は相変わらずなので、テア・シュテーゲンが素晴らしいプレーで失点を免れるシーンも多い。今季は、枠内シュートを9割近く防いでいるという驚異的なデータもあるそうです。

 だからワールドカップも楽しみですね。ドイツ代表はマヌエル・ノイアーが絶対的な正GKですが、ケガで戦列を離れているとなれば、ロシア大会ではテア・シュテーゲンがヨアヒム・レーヴ監督のファーストチョイスとなる可能性も高いでしょう。

中山 結局、そういった個人のパフォーマンスの部分でも、今季マドリーとバルサの違いが成績に表れていると思うんです。テア・シュテーゲンやパウリーニョ以外にも、イヴァン・ラキティッチもすごく調子がよいですし、現在ケガで離脱しているサミュエル・ウンティティも欠かせないセンターバックに成長した。ジョルディ・アルバ、セルジ・ロベルト、そしてスアレスも調子を上げてきて、ようやくゴール量産態勢に入ってきました。

 クリスティアーノ・ロナウド、カリム・ベンゼマ、ガレス・ベイル、セルヒオ・ラモス、ルカ・モドリッチなど、昨季と違ってトップフォームに戻れていない主力が多いマドリーとは、そこが大きく違っていますね。

小澤 そういった個人のパフォーマンスのよさに加えて、今季のバルサの特徴として挙げておきたいのは、左サイドバックのジョルディ・アルバとメッシのコンビネーションが素晴らしく良くなっている点ですね。ネイマールがいなくなったこともありますが、バルベルデが4-3-3のエストレーモ(ウイング)を置くシステムにこだわらない中で、ジョルディ・アルバの攻撃参加が目立つようになっている。

 これは右サイドバックや中盤の右でプレーするセルジ・ロベルトにも言えることですが、前線のサイドエリアにスペースがあるので、そこに積極的に上がって攻撃参加をしています。

中山 確かにジョルディ・アルバがメッシのゴールをアシストして、セルジ・ロベルトがスアレスのゴールをアシストするというパターンができあがっていますよね。先日のレバンテ戦(第18節)でも、そのパターンでメッシとスアレスがゴールを決めました。

小澤 セルジ・ロベルトに関して言うと、12月のエル・クラシコの現地取材で彼のプレーを見て、ものすごくスピードのある選手だと感じました。特にドリブルでボールを運ぶ時のスピードは映像から入ってくるイメージ以上のスピード感があって、あれだけスムースに速くボールを運べて、相手を剥がすことができる選手はなかなかいないと思うんです。そういう点も含めて、彼はまだ過小評価されていると思いますね。

――これだけチームがうまく回っている中で、バルサは冬のマーケットでコウチーニョを獲得しました。ボーナスなどを含めると、移籍金総額は1億6000万ユーロ(約217億円)とも言われていますが、これだけの大金を使って獲得したコウチーニョの加入によって、シーズン後半戦のバルサはどのように変わるのでしょう?

中山 まず今季に関しては、コウチーニョは(前所属のリバプールで今季のチャンピオンズリーグに出場しているため)チャンピオンズリーグでは起用できませんので、リーグ戦と国王杯のみでプレーします。ラ・リーガでは首位を独走しているので優勝できるとは思いますが、優勝を確実なものとするという意味においても大きな補強だと思います。

 それと、僕が最も注目しているのは、コウチーニョの加入によってバルベルデが3トップにするのかどうかという点です。コウチーニョは両サイドウイング、トップ下、4-4-2の両サイドハーフなど、いくつものポジションでプレーできるので、チャンピオンズリーグは従来通りのシステムで戦うとして、コウチーニョがプレーするリーグ戦や国王杯でバルベルデが4-3-3にトライするのか、そこを楽しみにしています。

小澤 チームが好調ななかでのこのビッグディールですから、またチーム周辺に漂う雰囲気は良くなりますよね。今夏からあれだけ失態を重ねてきたフロントに対する風向きもすっかり変わっていますし、結局プロは結果が全てということがよくわかるバルサの前半戦です。

 中山さんの説明どおり、コウチーニョをCLで使えないのは痛いですし、正直ラ・リーガは独走状態なので、後半戦に向けてより重要度と難易度が高まるのはCLです。なのでCLにこそコウチーニョを使いたいところですが、それができないということで、戦術的にはコウチーニョ加入によってバルベルデ監督がシステムも含めて大きく変えることはないだろうと見ています。

 ポジション適性としては左エストレーモでしょうが、今のバルサにおいてはジョルディ・アルバが攻撃時にはエストレーモとして機能していますのでインテリオール(インサイドハーフ)やパウリーニョがやっているトップ下と右サイドハーフの兼務のようなタスクを担うイメージを持っています。

 いずれにせよ、バルベルデ監督はコウチーニョのゲームメイクやラストパス以上にゴール、決定力に魅力を感じているようなので、インテリオールでの起用となってもよりボックスに近いプレーをさせることになるでしょう。

倉敷 コウチーニョとバルサは相思相愛の関係だと考えます。リバプールでは突出したスピードを持つマネ、サラー、そして柔軟なターゲットであるフィルミーノを巧みに動かしていたコウチーニョですから、多くのアイデアをバルサにもたらすことが期待できる。たくさんの連係を完成させるために早くメッシに認められることが重要でしょうね。

 ポテンシャルは疑いなし。止める、蹴るの技術はバルサのレベルにある。スペースを見つけられるし密集を苦にしない。バルベルデは代えの効かなかったイニエスタをラ・リーガで休ませながら欧州のコンペティションで上手に起用できるようにもなるでしょう。夏に移籍が噂された時よりも、今の方がバルサにフィットするように感じられますから、ずっと移籍を意識していたんでしょう。ワールドカップへ向けた準備も意識するセレソンですから、浮かれるわけもない。大きな戦力になると思います。

中山 それと、バルサはこの冬にコロンビア代表のジェリー・ミナを獲得して、懸案とされていたセンターバックの駒不足の問題にも手を打ちました。ヨーロッパ初挑戦ではありますが、23歳で代表選手、しかもボール扱いがうまい身長195cmのセンターバックとなれば、将来性も含めて期待できそうです。

 その一方で僕が気になっているのが、今季のバルサが戦力補強に莫大なお金を費やしていることです。開幕前に獲得したウスマン・デンベレに1億500万ユーロ(約136億円)、パウリーニョに4000万ユーロ(約52億円)も使っていながら、今回のコウチーニョにはそのふたりを合わせた以上の金額を投資した。

 ファイナンシャル・フェアプレー(ヨーロッパサッカー連盟が定めるクラブ経営に関する財務ルール)に抵触するかどうかもそうですが、近年のバルサはカンテラ(下部組織)を重視していた以前のポリシーとは違って、銀河系軍団を形成したマドリーがやっていた経営戦略になってきました。

倉敷 バルサフロント陣の仕事は高く評価できません。特に夏はバタバタでした。パウリーニョの活躍で結果オーライと見えそうですが、たとえば、ジェラール・デウロフェウの件はどうでしょう。自分たちで育てた選手をエバートンに売ったと思ったら、今季になって買い戻した。チャビも批判していましたが、一度バルサを出て行った選手を買い戻すことはクラブの歴史上あまりなかったことです。しかも、そのデウロフェウはまた放出濃厚と言われています。フロントの失策と言っていいでしょう。

小澤 僕も同感ですね。最近のバルサを見ていると、いわゆるバルサが長年積み上げてきたプレーモデル、スタイルというものが徐々に消滅しつつあると感じます。実際、トップチームの影響もあるとは思いますが、現在のバルサの育成を見ても縦に速いサッカーをやっています。現代サッカーのトレンドもある程度追うことは重要だと思いますし、バルサほどのクラブでも時代に応じて変わるべき部分はあるのでしょうが、逆にそれをやりすぎて、本質を失っているような気はします。

 昨年11月にバルサのカンテラ(下部組織)の練習や試合を見に行った時も、かなり中盤を省略した縦に速いサッカーをやっていたので、今後はチャビ・エルナンデスやイニエスタに代表されるようなバルサのモデルを継承するような選手はなかなか育ってこないでしょう。バルサファンにとっては、ネガティブな話になってしまいますけど。

倉敷 ただ、可能性はあるんじゃないですか。たとえばミツバチの話ですが、女王バチになるハチも、もともとは普通の働きバチと変わらなくて、ローヤルゼリーをたくさん与えられたハチだけが、やがてただ一匹だけの女王バチになるんですね。つまり、特殊な存在になりえる資格者が良き指導者と出会い、バルサイズムという名のローヤルゼリーをたっぷりと与えられるかどうかという話です。

 そのためにはカンテラーノ(下部組織でプレーする選手)の環境が重要です。集められる選手も、指導者も、選ばれた者である必要があり、フロントが正しく機能する必要もあります。バルサのロイヤルゼリーはバルサのカンテラにしかない、それが”クレ”(バルサ・サポーターの愛称)にとってはロマンですね。育成に関してはいずれ小澤さんを中心に、詳しくこの場で語ってみたいと思っています。

中山 バルサのスタイルを築き上げたヨハン・クライフがこの世を去ってしまっただけに、この流れを食い止めるのは一体誰なのか。まだ実現するには時間がかかるでしょうけど、たとえばチャビが監督になってバルサに戻ってきたら、きっと流れが大きく変わるのかもしれませんね。

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倉敷保雄(くらしき・やすお)

1961年生まれ、大阪府出身。ラジオ福島アナウンサー、文化放送記者を経て、フリーに。現在はスカパー!やJ SPORTSでサッカー中継の実況として活動中。愛称はポルトガル語で「名手」を意味する「クラッキ」と苗字の倉敷をかけた「クラッキー」。番組司会、CM、ナレーション業務の他にゴジラ作品DVDのオーディオコメンタリーを数多く担当し、ディズニーアニメ研究のテキストも発表している。著作は「ことの次第」(ソル・メディア)など。

中山淳(なかやま・あつし)

1970年生まれ、山梨県出身。月刊「ワールドサッカーグラフィック」誌の編集部勤務、同誌編集長を経て独立。以降、スポーツ関連の出版物やデジタルコンテンツの企画制作を行なうほか、サッカージャーナリストとしてサッカーおよびスポーツメディアに執筆。また、CS放送のサッカー関連番組に出演し、現在スポナビライブでラ・リーガ中継の解説も務めている。出版物やデジタルコンテンツの企画制作を行う有限会社アルマンド代表。

小澤一郎(おざわ・いちろう)

1977年生まれ、京都府出身。サッカージャーナリスト。早稲田大学卒業後、社会人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年 に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。多数の媒体に執筆する傍ら、スポナビライブにてラ・リーガ(スペインリーグ)、スカパー!にてUEFAチャンピオンズリーグなどの試合解説もこなす。これまでに著書7冊、構成書4冊、訳書5冊を刊行。株式会社アレナトーレ所属。