昨年1月の合同自主トレ初日、1人の打撃投手が、選手、スタッフの前で「ドラゴンズは暗い!」と苦言を呈する一幕があった…

 昨年1月の合同自主トレ初日、1人の打撃投手が、選手、スタッフの前で「ドラゴンズは暗い!」と苦言を呈する一幕があった。4年ぶりに裏方として古巣に舞い戻ったばかりの男から、いきなり飛び出したこの大胆な発言は驚きをもって受け止められ、スポーツ新聞などメディアでも大きく報道された。

 発言の主は、久本祐一。

 以来、彼は”モノ言う打撃投手”として一目置かれ、その熱い想いがファンの共感を呼んでいる。あの発言から、約1年が経過した今、果たしてドラゴンズ改革は進んだのだろうか? 新シーズンに向けての意気込みとともに、本人に話を聞いてみた。



ドラゴンズを明るくしたい、と熱く語る久本祐一打撃投手

──あのインパクトのある発言から1年が経ちました。2017年シーズンを終えてここまで、ドラゴンズ改革の手応えはありますか?

久本 あの発言をしたときは、チームのため、そして自分にプレッシャーをかける意味で自らを鼓舞したい気持ちもありました。自分の立場としては、声を出して選手の先頭に立ってというわけにはいきませんが、常に元気を出していこうという目標に関しては、まぁまぁ満足できたと思います。とはいえ、チームはBクラスですからね。説得力に欠けますよね。すみません。

──昨季のドラゴンズは連敗からスタートして、復調した時期もありましたが再び失速するなど波の大きいシーズンでした。

久本 大きかったですね。7月には3試合で32失点ということもありました。今までは考えられなかったことが実際に起きてしまった。僕がドラゴンズを抜けてから4年ぶりに戻ったんですけど、かつては味わったことのないことばかりでショックでした。同時に、自分がグラウンドに立てない悔しさもありました。

──なぜ調子が上がらなかったのでしょう。

久本 最大の原因は中心となるピッチャーがいなかったことですね。こいつが投げれば大丈夫、まず負けないだろうという存在。以前であれば川上憲伸さんや、絶好調時の吉見一起がいました。そういう存在が今はおらず、その責任を吉見や大野雄大が強く感じてしまっている部分があって空回りしちゃったのかなと。とくに吉見には負担がかかっていましたから。

──それが野手にも連鎖したのでしょうか。

久本 まだ若いチームなので勝つ喜びも、苦しさも知らない。負けに慣れてしまっているのかな、とも感じます。

──久本さんから見て、参考になるというか、うらやましいと感じたチームはありますか。

久本 何と言ってもDeNAですね。ピッチャーが揃ってきて、しかも先発に左が多いのが魅力です。今季のドラ1も左腕ですしね。そこにあの打線とファンの声援が噛み合えば、いくところまでいく可能性もあるんじゃないかな。

──先頃亡くなった中日OBの星野仙一さんが生前に、地元ラジオ番組でドラゴンズについて「サラリーマン野球じゃダメ」と言いました。これについてはどう思いますか。

久本 「言われたことをすればいい」みたいな雰囲気を星野さんも感じたのでしょう。確かに、そんな気がします。選手個々にプラスアルファがないんです。やっぱり自分から進んで何が足りないのかを把握しようとすることが大事です。その上で、こちらも精一杯のアシストをしたいですね。

──ファンサービスについて、契約更改時に又吉克樹投手は、チームが勝った試合はヒーローを追いかけてSNSに写真を上げるなど、自身も広報の一員となって盛り上げたいと発言しました。藤井淳志選手もグッズについて言及しています。

久本 お客さんに喜んでもらおうと選手が意識するのはいいことですが、逆に会社(球団)は選手にそういうことを言わせたらダメだろう……と。選手には100%グラウンドで力を発揮してもらわないといけないですからね。球団側が選手のその気持ちを汲んでくれると、ありがたいと思います。

──久本さんご自身はグラウンド外で活動しているのですか。

久本 月に1回、施設訪問をさせてもらっています。きっかけは知人から相談されたことなんですが、現役時代は練習に割いていた時間を、裏方として触れ合いの場に変えてみようと思ったのです。そこで、ダメもとで西山和夫球団代表に直訴しました。そうしたら快く了承してくださり、グッズ提供までしてくれました。

──慰問に行かれての感想は?

久本 僕が行っているところは病気や障がいを持つ子供たちの施設なんですけど、一見すると「なんでこの子が施設に入らなきゃいけないのかな?」という子もいました。いろいろな病気で、いろいろなケースがある現状を知りました。野球のルールがわかる子もいますし、野球のうまい子もたくさんいます。徐々にですが、子供たちも心も開いてくれて本当に楽しい。代表に直訴して本当によかったです。

 それともうひとつ、この活動でうれしかったのは、ナゴヤドームのバイトの人たちが賛同してくれたことです。みんな大学生なんですが、就職活動をする上でもいい勉強になりますと言ってくれて、今では毎回一緒に手伝ってもらっています。



昨季から独自に子供たちの施設訪問の活動を始めた

──久本さんはファンサービスにも意見がありましたよね。

久本 はい。ドアラと頻繁に企画会議をしています。現役時代は中継ぎが多かったので、ほとんど接することはなかったのですが、今ではゲーム開始前の空き時間などを利用して、ロッカールームで毎試合のようにやっていますよ。

──なんと、ドアラと企画会議ですか! その内容とは?

久本 グッズの品評会やアトラクションの企画などが多いですね。「この商品は売れる」「このアトラクションは動員につながる」などと活発に話し合っています。提案が通ることもあるし、カープでは通った企画が中日ではNGなこともあります。スポンサーがらみの事情で仕方ない部分もあるのでしょう。

 いずれにしても、僕はドアラのファンに対するコミュニケーション力を見習っています。だって、高級ホテルでディナーショーまで開催するんですから、とても参考になりますよね。今の僕にとって、チーム一番の手強いライバルでもありますが(笑)。

──今後、ドラゴンズを魅力あるチームにするためのキーマンはいますか。

久本 筆頭は京田陽太です。ものすごく、まじめな考え方をしていて向上心もある。先ほどの話でいえば「自分に今何が足りないか」を把握している選手です。そのためにどんな練習をすればいいかという知識も備わっているのが話していてもわかります。

 他では、遠藤一星、石岡諒太、阿部寿樹あたりがあと数パーセント力を上げてくれれば、立派な戦力になると思います。それは、打撃練習でボールを投げていて伝わってくるんですよ。自然と「勝ちたい」「優勝したい」というのが声に出せるようになってきている。頼もしいです。カープ時代、キクマルたちがそうでした。期待してください。

──久本さんご自身も自主トレを続けていると聞いています。

久本 久本塾と称して、カープの菊池涼介たちと年明け早々から行なっています。当然、キャンプ前の体作りという目的もありますが、忘れてはいけないのは、野球に対する勉強ですね。心技体の向上をテーマに、数人の仲間たちと寝食を共にして意見交換することが、きっと野球の未来につながると信じています。物事をじっくり考えるのに、1月はもってこいの時期なのです。

──ところで、久本さんが中日に戻るきっかけになった落合博満前GMには報告しましたか。

久本 実は昨年末にお電話を頂戴しました。突然、「元気にやってるか?」「選手ではなく違う形で野球やチームを見てどうだったか?」と聞かれ、ビックリしました。

──そこで、どう答えたのですか?

久本 一番にお伝えしたのは、ナゴヤ球場で自主トレする人数が多すぎること。かつては山本昌さん、立浪和義さん、谷繫元信さんなど、海外や国内のあちらこちらで個人のレベルアップを図っていました。カープでも今では、ほとんどの選手が広島以外でキャンプに向けて準備をしています。

 どうしても、球団施設での練習では仕上がり具合がまったく違う感じがするのです。甘えとまでは言いませんが、オフシーズンは、自分に投資をすることが必要だと思います。体のキレやスタミナ面などハッキリと違いが出るなぁと、昨年のキャンプ初日で確信しました。ですから、前GMには始動の大切さを真っ先にお話しさせていただきました。

──落合前GMの反応は?

久本 やはり1つのチームではなく外に出たからそういうことも見えるようになるんだ、カープに行って正解だったな、と言われました。しかもなんと、お前も人間的に成長したな、とも言ってもらえたんですよ。

──めったに褒めないことで有名な人なのに。

久本 やはり、選手として極め、指導者としても極めた方にそう言ってもらえると、それはもう、自分の野球人生は本当によかったなって思った瞬間でした。ますます頑張ろうと元気が出ました。励みになります。ちなみに、メディア的には残念でしょうが、松坂大輔投手の話題は一切なかったです(笑)。

──最後に久本打撃投手の今季の目標をお願いします。

久本 はい。やはり何かの意味があって、落合さんが僕をドラゴンズに呼んでくれたと思っています。その役割に応えられるように、引き続き元気を出して、できる限り選手たちに話しかけ、考え方を聞いて、さまざまな要望にトライします。”継続”は一番しんどいですが、それが自分の目標です。どうぞ今年もよろしくお願いします!