“山の神”はいなかったと思う。 だが、今回の箱根駅伝も山上りの5区で大きく順位が動いた。法政大が14位から5位、城西大が10位から6位、順天堂大が15位から8位、中央学院大が16位から11位にジャンプアップ。逆…

 “山の神”はいなかったと思う。

 だが、今回の箱根駅伝も山上りの5区で大きく順位が動いた。

法政大が14位から5位、城西大が10位から6位、順天堂大が15位から8位、中央学院大が16位から11位にジャンプアップ。逆に、神奈川大が3位から15位、駒澤大が7位から13位、國學院大が9位から14位と急降下した大学もある。



5区区間賞を獲得した法政大の青木涼真

 花の2区でも同じような大幅な順位変動があったが、2区への中継時でトップから20位までが1分39秒差という僅差のなかで起きた現象だ。それに対して5区は、4区終了時でトップと最下位との差は12分11秒。これだけの開きがあるなかで順位が動いたのだから、コースが短くなったとはいえ、5区の重要性は依然として大きい。

 往路のアンカーとなる5区は、標高約40mの小田原中継所から、国道1号線最高地点(標高874m)まで一気に駆け上がる険しいコースだ。第82回大会(2006年)から最長区間となったこともあり、”山の神”と呼ばれるようなスーパースターが降臨した。

 前回大会(2017年)から往路の小田原中継所が元の位置に戻り、5区の距離が23.2kmから20.8kmに短縮された。前回は山頂付近が向かい風になったことで好タイムは出なかったが、今回は絶好のコンディション。駒大・大塚祥平(現・九電工)が同コースで出した区間記録(1時間12分46秒)を4人が上回った。

 そのなかで最速タイムをマークしたのが、14位でスタートした法大・青木涼真(2年)だ。青木は、「前の走者を抜くたびに頭のなかでカウントしていたが、途中でわからなくなるくらい集中した」という。高い集中力で9人抜きを演じると、1時間11分44秒の区間新を樹立した。”標準記録”ともいうべき区間10位とのタイム差は2分46秒。区間最下位には9分28秒という大差をつけた。

 青木は前回8区(区間9位)を任された。今大会について「会心の走りができたと思う」と胸を張った一方で、「平地で勝負したいと思っていたのに、5区がきてしまった」と正直な心境も吐露している。

 8区は16km付近に約500m続く遊行寺の坂が待ち構えており、その経験者が5区にコンバートされるパターンは多い。今回、5区で区間2位(1時間12分04秒)だった早稲田大・安井雄一(4年)、区間3位(1時間12分17秒)の中央学院大・細谷恭平(4年)も箱根デビューは8区だった。

 安井と細谷、区間4位(1時間12分30秒)の順天堂大・山田攻(3年)の3人は前回も区間上位(3~5位)を占めており、前回と比べると安井は2分03秒、細谷は51秒、山田は1分42秒もタイムを短縮している。

 細谷は身長170cm、体重51kgと軽量ボディで、山田も身長160 cm、体重50kgのミニマムボディ。20.8kmもの「距離移動」に加え、高低差850m近くも体を「持ち上げる」ことになる5区は、体重の軽い選手か、もしくはパワーのある選手が適している。前者は神野大地で、後者は柏原竜二というイメージだ。

 5区の記録保持者となった青木はどちらかというと後者のタイプだろう。関東インカレ1部3000m障害のチャンピオンで、脚力は十分にある。今回は、「1時間12分~13分台」を目指していたが、想定以上のタイムを残した。

 一方で、関東インカレ2部3000m障害王者である神奈川大の荻野太成(2年)も5区に挑戦したが、青木とは大きく明暗を分けた。大後栄治監督は「コンディションが良ければ1時間10分台。(少なくとも)1時間13分ではまとめたい」と自信を持っていたものの、結果は1時間21分12秒でダントツ最下位に沈んだ。

「体調はバッチリだったんですけど、走り始めから脚の運びがおかしかったですね。何回も山のシミュレーションをしてきたなかで、最後は体調を上げることに集中しすぎたせいか、本番ではそのときの感覚が抜けてしまっていました。普段はもう少し長く接地をして、ハムストリングスとお尻の筋肉を使うような走り方なんですけど、爪先だけで跳ねるような走りになって、ふくらはぎがパンパンになって動かなくなっていました」(大後監督)

 箱根駅伝は試走が禁じられており、特に5区は練習時の感覚を発揮しにくいため、初挑戦となる選手は良くも悪くもタイムが予想しづらい。以前ほどではないとはいえ、まだまだ影響力の大きい5区には、各校とも好選手を配置すべく、今後も頭を悩ますことになるだろう。

 かなり気は早いが、来年の優勝を狙う大学の5区を考えてみよう。4連覇を達成した青山学院大、3年生以下のオーダーで往路を制した東洋大、選手層の厚さとスピードが武器の東海大が有力視されるが、今大会の5区の結果は以下の通りだった。

青学大 竹石尚人(2年)1時間12分49秒(区間5位)
東洋大 田中龍誠(1年)1時間14分16秒(区間9位)
東海大 松尾淳之介(2年)1時間14分59秒(区間12位)

 こう見ると、5区は青学大が断然有利だ。東洋大は今回のように1区~4区でアドバンテージを奪う作戦で攻めるしかないだろう。「打倒・青学大」を掲げる東海大は、箱根で勝つためには、5区でも互角以上の勝負に持ち込まないとリベンジは難しい。

 今回とほぼ同じ距離で争われた第76回~81回大会(2000年~2005年)では、順大・今井正人(現・トヨタ自動車九州)が1時間9分12秒というタイムを叩き出している。旧コースの歴代記録で見ると、今回区間トップの青木(1時間11分44秒)は歴代5位相当だった。当時大学2年生だった今井が、青木よりも2分半近くも速かったことを考えると、タイムを大幅に短縮するような強烈なクライマーが出てきてもおかしくない。

 1時間10分を切ってくると”山の神”と呼ばれるほどのインパクトを残すことができるだろう。どの大学に神が舞い降りるのか。その出現を楽しみにしたい。