「グラウンドゲーム」が勝敗を分ける--。そんな時代が戻りつつあるようだ。 元日にレギュラーシーズンが終了し、いよいよNFLは1月6日(日本時間1月7日)から”メインイベント”のプレーオフに突入するのだが、今シーズンは例年とは少し違った傾向が…

「グラウンドゲーム」が勝敗を分ける--。そんな時代が戻りつつあるようだ。

 元日にレギュラーシーズンが終了し、いよいよNFLは1月6日(日本時間1月7日)から”メインイベント”のプレーオフに突入するのだが、今シーズンは例年とは少し違った傾向が見られる。それは、クォーターバック(QB)を軸とするパスゲーム中心の戦術だけでなく、地上戦--すなわちランゲームでの戦い方が重要視され始めてきたことだ。



プロ1年目でリーディグラッシャーに輝いたチーフスのカリーム・ハント

 ポストシーズンに駒を進めたチームを見てみると、その多くがランゲームに強みを持っている。着実に相手にダメージを与えられるランオフェンスは、負ければその場で敗退するプレーオフにおいて、より重要度が増すだろう。

 2月4日にミネソタ州ミネアポリスで開催される第52回スーパーボウルに進出するのは、果たしてどのチームか。そこで今回は、プレーオフで注目すべきランニングバック(RB)を紹介したい。

 まずはアメリカン・フットボール・カンファレンス(AFC)。上位2シードを獲得したのは、ニューイングランド・ペイトリオッツ(第1シード/13勝3敗)と、ピッツバーグ・スティーラーズ(第2シード/13勝3敗)だ。ともにポストシーズンの”常連”である。



試合日時は現地時間。チーム名の丸数字はシード順位

 この2強のうち、スティーラーズには絶対的RBレビオン・ベルが異彩を放って君臨している。今季リーグ3位のラン1291ヤードを獲得したベルの走りは独特で、ボールをハンドオフされてからすぐにスピードアップするのではなく、味方のオフェンスラインが走路を作り出すのをじっくりと待ってから一気に加速するのだ。その走りは、ある種の芸術性すら感じさせる。

 昨季のプレーオフでも大活躍したが、AFCチャンピオンシップのペイトリオッツ戦ではゲーム途中に負傷退場するという悔しさを味わった。今季ふたたび両軍がチャンピオンシップで相まみえるならば、ベルにとっては捲土重来の機会となる。レギュラーシーズンでの直接対決では接戦を落としたものの、117ヤードを獲得したベルの走りはプレーオフでもペイトリオッツにとって脅威となるだろう。

 AFCの2強に対抗できるチームを挙げるならば、昨季3勝から今季10勝へと勝ち星を大きく伸ばしたジャクソンビル・ジャガーズ(第3シード/10勝6敗)が面白い存在だ。今季のジャガーズはルーキーRBレナード・フォーネットの活躍なくして、この予想外の躍進はなかっただろう。それほどにフォーネットの貢献度は高かった。

 フォーネットは故障などで3試合を欠場したものの、今季リーグ8位のラン1040ヤードを獲得。ジャガーズで2011年以来の「1000ヤードラッシャー」が誕生したことにより、チームの1試合平均ラン獲得距離も昨季リーグ22位(101.9ヤード)から今季1位(141.4ヤード)へと大きく数字を伸ばした。

 大学時代からエリートランナーとして知られたフォーネットの魅力は、パワーとスピードを兼備している点だろう。プロ1年目ながら、早くもリーグトップクラスの”コンプリートバック”と評されている。また、レシーバーとしても302ヤードを獲得しており、さらには自らボールに触らないシーンでも相手ディフェンスのブリッツ(※)に対して身体を張るなど、さまざまな場面で献身的な働きを見せていた。フォーネットを中心とするランオフェンスがプレーオフでどう活かされるのか、実に興味深い。

※ブリッツ=ディフェンスライン以外の選手がQBに突進してくる戦術。

 そのフォーネットと同じく、プロ1年目ながらスポットライトを浴びたのがカンザスシティ・チーフス(第4シード/10勝6敗)のRBカリーム・ハントだ。フォーネットのようなパワーはないものの、オールマイティな能力を有しており、その俊敏性を活かしてオフェンスに多彩なオプションを与えている。

 今季のラン1327ヤードはリーグ1位。つまり、プロ1年目でいきなりラッシングチャンピオンに輝いた。さらにパス捕球も秀でており、レシーブで455ヤードを獲得している。ハントが加入したおかげで、それまで保守的だと言われていたチーフスのオフェンスに爆発力が備わった。今プレーオフでもハントがキーマンとなるのは間違いないだろう。

 一方、ナショナル・フットボール・カンファレンス(NFC)では、フィラデルフィア・イーグルス(13勝3敗)が第1シードを獲得した。しかし、レギュラーシーズン第14週にエースQBのカーソン・ウェンツが故障して今季絶望となり、プレーオフの勝ち上がり予想は一気に難しくなった。よって、NFCはプレーオフ出場6チームすべてにスーパーボウル進出のチャンスがある、と言っても過言ではない。

 そのなかでもっとも注目したいのは、ロサンゼルス・ラムズ(第3シード/11勝5敗)のRBトッド・ガーリーだ。でかく、速く、そしてうまい。

 特筆すべきはその突進力で、相手ディフェンダーが体当たりしてもすぐには倒れず、並のRBよりもさらに数ヤードを稼いでしまう。今季はランでリーグ2位の1305ヤード、レシーブでもチーム2位の788ヤードを記録し、トータルではリーグ首位の2093ヤードを叩き出している。

 ラムズは昨季4勝から今季11勝と、大きく飛躍して周囲を驚かせた。その強さの要因は、今季リーグナンバー1の得点力(1試合平均29.9得点)にあるだろう。31歳でヘッドコーチに就任したショーン・マクベイの手腕や、昨季ドラフト全体1位指名のQBジャレッド・ゴフの活躍もあるが、ガーリーというリーグ屈指のランナーがいなければここまでの成績は残せなかったはずだ。ペイトリオッツQBトム・ブレイディがMVP最有力候補とされるものの、ガーリーも得票数で上位につけることは間違いない。

 また、NFC南地区に所属するニューオーリンズ・セインツ(第4シード/11勝5敗)とカロライナ・パンサーズ(第5シード/11勝5敗)も、優れたランゲームでプレーオフ進出を果たしている。

 セインツといえばここ数年、QBドリュー・ブリーズを中心としたパス偏重のチームだった。しかし、今季はマーク・イングラムとアルビン・カマラの「RBデュオ」が活躍し、チームカラーを一変させた。

 パワー型のイングラムに対し、カマラはスピードとレシーブ力に長けるタイプ。パスによる縦の攻撃に偏りがちだったセインツのオフェンスに、彼らふたりが多くの選択肢を与えている。

 ランとレシーブによる総獲得距離で、カマラはリーグ5位(1554ヤード)、イングラムは6位(1540ヤード)と、ともに1500ヤードを超えてプロボウルに選出された。同じチームからふたりのRBが選ばれるのは42年ぶりの出来事である。

 とりわけルーキーのカマラは、タックルをされても相手ディフェンスをすり抜けてしまうという特異な能力で輝きを放っていた。キックリターナーも務めており、2009年以来のスーパーボウルを狙うセインツのカギを握っているのはカマラだ、と評する声も多い。

 対するパンサーズは、もともとランオフェンスを重視するチーム。今季は大学時代から知名度の高かったRBクリスチャン・マカフリーをドラフトで獲得したことで、さらに多くのオプションが加わった。

 マカフリーの父親は、デンバー・ブロンコスなどで名ワイドレシーバー(WR)として活躍したエド・マカフリーである。その血を引いている影響か、レシーブ能力が非常に高くルート取りも正確で、オフェンスコーディネイター(オフェンス戦術責任者)にとっては相当に使い勝手のいい選手だろう。

 パンサーズのオフェンスのひとつに、マカフリーがスロットレシーバー(インサイドのレシーバー)の位置からパスレシーブを受ける戦術がある。この攻撃を受けたディフェンスは、スピードのあるマカフリーをラインバッカー(LB)では対応しきれず、守備バックがマッチアップせざるを得なくなるが、そうなると他のポジションでミスマッチやオープンスペースが生まれてしまう。これを見た現地メディアは、マカフリーに「マッチアップ・ナイトメア(マッチアップの悪夢)」という異名を授けた。

 ちなみにパンサーズで、ランの距離をもっとも稼いでいるのはRBではない。754ヤードを獲得したQBキャム・ニュートンだ。今季はシアトル・シーホークスのQBラッセル・ウィルソンもチーム1位のラン獲得距離(586ヤード)を記録したが、QBがチームトップのラッシャーとなった例は彼らで史上8例目でしかない。いずれにしても、QB(ニュートン)がランナーとして、そしてRB(マカフリー)がレシーバーとして脅威を与えるパンサーズは、相手ディフェンスにとって実にやっかいな存在だ。

 プレーオフは極寒の環境で行なわれるケースも多く、外のスタジアムでの試合ではQBやWRの指先が凍えてしまうためにパスゲームのリスクは高くなる。そのため、ランゲームでファーストダウンをいかに確実に更新するかが重要となるだろう。

 もちろん、総合的な実力がなければポストシーズンを勝ち抜くことはできないが、今季はランゲームの出来がプレーオフの結果を左右しそうだ。