蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.2 今シーズンも、各地で最高峰の戦いが繰り広げられている欧州各…
蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.2
今シーズンも、各地で最高峰の戦いが繰り広げられている欧州各国のサッカーリーグ。この企画では、その世界トップの魅力、そして観戦術を目利きたちが語り合います。
サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎──。
今回のテーマはリーガ・エスパニョーラ(ラ・リーガ)の2大クラブ、バルセロナ(バルサ)とレアル・マドリード(マドリー)が対戦した伝統の一戦「エル・クラシコ」。3氏が12月23日のクラシコを振り返り、ポイントを分析します。
――先日はクラシコの前にお三方に試合のプレビューをしていただきましたが、予想外の結果に終わり、バルサがホームのマドリーに0―3で圧勝しました。そこで今回は、なぜそのような結果になったのかを細かく振り返っていただきたいと思います。まずは現地に行かれた小澤さんに、現場の様子をお聞きしたいのですが。

12月23日のクラシコは、レアル・マドリードのホームでバルセロナが0-3で快勝
小澤 やっぱりランチタイムキックオフで行なわれたせいか、試合前の雰囲気からして違和感がありましたね。僕は試合3時間前の午前10時にスタジアム入りしたのですが、全体的にお客さんの入りが遅かったように思いましたし、しかも午前の早い時間なのでスタジアムの周りは殺伐とした雰囲気が皆無で、クリスマス前のほのぼのとした感じでした。
それと、お客さんがとてもインターナショナルだったこと。年々この傾向は強くなっていますが、近年この2クラブがいかに国際化しているのかを象徴していましたね。
中山 ホームのマドリーがあれだけの敗戦をした試合なのに、以前と違ってブーイングもそれほど聞こえなかったし、0-2になっても家に帰る人が少なかったように見えました。確かに国際化も大事ですけど、スタンドからのプレッシャーがなくなることは、チームとしてプラスなのかマイナスなのかと言うと、やっぱりマイナスのような気もしますね。
倉敷 いろいろな国の人が現地でクラシコを体感するというのは本当にすばらしいことだと思うんですけど、異文化体験という部分では少し残念なところもありますよね。たとえば、以前はスタジアムで実際に歓声を聞いたり、観客の反応を知ったりすることがとても衝撃的で貴重な体験だったのに、最近はそういう本当の異文化に触れるというより、作り物のアトラクションを体験しているのではないかという危惧を抱いてしまいます。
小澤 確かに変化にはプラスとマイナスの両面がありますが、そういったスペインサッカー界としての古き良き文化は少し失われている気はします。
倉敷 そんな中で行なわれた今回のクラシコですが、小澤さんはこの試合にどんな印象を受けましたか?
小澤 まず全体として、両チームが今季の前半戦でやってきたことの差がそのまま出たという印象ですね。それと両監督の試合を見極める眼や戦術変更できる力という部分でも差が出たと思います。というのも、試合の入り方としては、マドリーはよかったと思うんです。結果的に批判の対象にはなりましたが、イスコではなくマテオ・コヴァチッチを使って開始からかなりハイプレスを仕掛けていった。でも、チャンスを作った前半に点を取れなかったところが今季のマドリーを象徴していたわけです。
逆に、バルサは後半になってエルネスト・バルベルデ監督がパウリーニョの位置を少し下げて中盤に厚みを持たせ、ボールを保持できるようになりました。リオネル・メッシ、ルイス・スアレスの前線のプレッシング、プレスバックの強度も上がりましたので、確実にハーフタイムに具体的指示はあったはずです。
しかし、そんなバルサの変化を見ても、マドリーのジネディーヌ・ジダン監督はなかなか手を打ちませんでした。選手交代でも後手を踏んだ印象で、2失点目の場面では攻撃の駒を2枚投入しようとしたところでダニエル・カルバハルが退場してしまい、急きょDFのナチョを先に入れなければならなくなった、というのがその象徴的なシーンだったと思います。
中山 そもそもジダン監督がイスコをスタメンから外したというのが驚きでしたね。今季はケガの影響もあって「BBC」(ベイル、ベンゼマ、クリスティアーノ・ロナウド)が揃わず、ずっとイスコ中心のチーム作りをしていたのに、まさかクラシコでそのイスコを外すとは予想できませんでした。クリスティアーノ・ロナウドとカリム・ベンゼマの不調を補ってきたのもイスコでしたから。やっぱりバルサに勝ち点11ポイント差をつけられていたという背景が、ジダンにそういう選択をさせたのでしょう。
特に開幕前のスーペル・コパ第2戦(2017年8月16日)で、コヴァチッチがメッシをマンマークしてうまくいったことがジダン監督の頭に相当強く残っていたのだと思います。ただ、あの試合ではカゼミーロがベンチスタートで、システムもコヴァチッチを中盤の底に置いた4-3-3でした。コヴァチッチの役割が明確になっていたその時と、カゼミーロとの同時起用だった今回では、そこは違っていました。
倉敷 しかも、あの時のバルサはまだ”ネイマール・ショック(2017年8月3日にネイマールがパリ・サンジェルマンに移籍した騒動)”でチーム内が混乱した状態で、就任したばかりのバルベルデ監督のチームづくりも手探りの状態でした。イヴァン・ラキティッチも本調子とはほど遠い出来でしたしね。
中山 そう。バルサは3バックでスタートし、前半のうちに2点リードされて後半途中からは4バックに変更するなど、チームづくりそのものが進んでいない状態でしたよね。ジダン監督が、その辺りの事情をどういう風に解釈して今回のスタメン選びをしたのか、そこはすごく興味深い点です。
小澤 これだけ勝ち点差が広がった中で、絶対に勝たなければいけないという状況を迎えた時に、ハイプレスでバルサのよさを消しにいく戦術プランを選択したという部分に疑問は残りますね。個人的には、やっぱりイスコを中心としたボールポゼッション、中盤の構成力でバルサのよさを消しにいったほうがよかったのではないかと思っています。
倉敷 コヴァチッチを起用してメッシ対策に当てましたけど、結果的に前半はメッシが消えていたことで、コヴァチッチも消えてしまうという状況をジダン監督が選んだことになってしまいました。そこも含めて、小澤さんはこの試合の前半をどう分析していますか?
小澤 まず、コヴァチッチの起用で言えば、バルサが自陣深いところでボールを持ったビルドアップの局面ではコヴァチッチがセルヒオ・ブスケッツを見て、カゼミーロがメッシを見る。でも、ハイプレスをはがされる、あるいはロングボールを放り込まれて自陣にリトリートする局面ではコヴァチッチがポジションを下げて素早くメッシをつかまえ、カゼミーロかセルヒオ・ラモスがパウリーニョを見るというかたちでした。
しかもマドリーは、バルサのビルドアップの局面ではオールコート・マンツーマンをやっていました。おそらくそこが、戦術的ないちばんのポイントだったと思います。マルセロとダニエル・カルバハルは、バルサのビルドアップ時に両サイドバックをつかまえに行っていましたし、マドリークラスのチームでもあれだけのハイプレスのオールコート・マンツーマンをやるのかと、そこは見ていて面白かった部分です。
バルサとしては唯一フリーのGKマルク・アンドレ・テア・シュテーゲンが前線のパウリーニョめがけてロングボールを蹴るわけですが、それもマドリーがきちんと対応してセカンドボールも拾っていました。実際、前半はマドリーの狙いがはまっていたと思います。
中山 ジダン監督も、前半を終えた段階では自分の選択を確信できていたと思うんです。バルサはほとんど中盤でボールを保持できず、最終ラインでボールを弾き返すという守備に終始していましたし、ボールを奪った後は中盤を省略して前線に蹴り込むシーンが多かったですしね。わかりやすく言えば、バルサのイメージとはかけ離れたサッカーでした。
ただ、守備への切り替えがものすごく速くて陣形もコンパクトだった。ペナルティエリア周辺でほとんどスペースを与えていなかったので、マドリーも押し込んだ状態でプレーしていても、それほど決定機を作れなかった印象がありました。
倉敷 僕は、前半に関してはマドリーの”エネルギー”のことがいちばん気になって見ていました。クラブワールドカップの影響でクラシコの準備をする時間が少ない中で、しかもランチタイムキックオフ。相手のよさを消す戦術を使ってうまくいくならそれでいいけれども、前線で点が取れる選手、違いを生み出せる選手を使わないなかで、もし前半ゴールが奪えなかったとすれば、それは相当にマドリーにとっては危ないだろうな、という風に思って見ていました。
それから、歩いているメッシにマークをつけることの意味というのが、点を取って勝たなければいけないチームにとっていいのだろうか、というのもありましたね。そこはコヴァチッチでなくたって、もっと攻撃力のある選手がメッシを見てもいいわけですから。そういう部分も含めて、後半はバルサが楽に戦えるようになるかもしれないと。それと、マドリーはバルサの右サイド、つまりセルジ・ロベルトのところを狙って攻めていたように見えました。
小澤 マドリーの狙いは、やや守備力の低い右SBセルジ・ロベルトのスペースにあったと思いますし、ベンチサイドでジダン監督がボールを持ったサイドバックに早めに縦に入れろというジェスチャーをしている場面を何度か見ました。
実際、マドリーは4ー4ー2のバルサの中盤がひし形でSBがボールを持った時にプレッシャーがかかりにくい構造をうまく活かしてカルバハル、マルセロをボール保持の起点としていました。普段のマドリーはビルドアップの局面で両SBがかなり高い位置を取って彼らが空けたスペースにトニ・クロース、ルカ・モドリッチのMFが入って起点を作るのですが、今のバルサとのマッチアップではポジショニングでズレを作るまでもなくSBがフリーになります。
SBがボールを持つとバルサは基本的にラキティッチ、イニエスタのMFが対応しますが、セルジ・ロベルト、ジョルディ・アルバのSBもカバーリングのために少しポジションを上げていました。そのタイミングを狙ってクリスティアーノが中から左に流れてボールを受けるシーンが多かったですし、右サイドはベンゼマ、モドリッチ、コヴァチッチが何度か流れていくシーンもありました。その辺は意図的な狙いだったと思います。
ただ、その後の工夫が足りなかった。クロスを入れるまでに時間もかかっていましたし、クロスを入れるポイントもよくなかった。バルサがクロス対応として素早くゴール前に人数をかけてきたというのもありましたが、ジダン監督はサイドを攻略してからのクロス攻撃まで詰めていなかったように見えました。
中山 前半は、マドリーが攻めてバルサがそれを受ける、という構図が完全に出来上がっていましたね。ああなると、なかなかマドリーも決定機を作れない。昨季のマドリーならそれでも崩せたかもしれませんが、今季はクリスティアーノとベンゼマのコンビネーションも悪く、ふたりとも調子がよくないので、あれが限界なんでしょうね。
倉敷 それと、前半を語るときにどうしても外せないのが、クリスティアーノの空振りシーン(前半10分)です。あれは、単なる”弘法も筆の誤り”だったのでしょうか?
小澤 技術的な説明は難しいですけど、得意じゃない左足というのもあったし、あとは、あまりにもフリーで力み過ぎてしまったのか。
中山 誰もが目を疑ったシーンですね。ただ、今季のクリスティアーノはあそこまで派手ではないにしても、ゴール前で空振りしたり、楽に打てるシュートをミートできなかったりする場面が何度かあったんですよね。シーズン後半戦にコンディションを合わせているのかもしれないので現段階ではわかりませんが、もし後半戦もこのままの状態が続くと、いよいよ周囲から”衰え”という見方が囁(ささや)かれるかもしれませんね。
(さらに細かく後半を語る後編につづく)

左から、中山淳氏、倉敷保雄氏、小澤一郎氏
倉敷保雄(くらしき・やすお)
1961年生まれ、大阪府出身。ラジオ福島アナウンサー、文化放送記者を経て、フリーに。現在はスカパー!やJ SPORTSでサッカー中継の実況として活動中。愛称はポルトガル語で「名手」を意味する「クラッキ」と苗字の倉敷をかけた「クラッキー」。番組司会、CM、ナレーション業務の他にゴジラ作品DVDのオーディオコメンタリーを数多く担当し、ディズニーアニメ研究のテキストも発表している。著作は「ことの次第」(ソル・メディア)など。
中山淳(なかやま・あつし)
1970年生まれ、山梨県出身。月刊「ワールドサッカーグラフィック」誌の編集部勤務、同誌編集長を経て独立。以降、スポーツ関連の出版物やデジタルコンテンツの企画制作を行なうほか、サッカージャーナリストとしてサッカーおよびスポーツメディアに執筆。また、CS放送のサッカー関連番組に出演し、現在スポナビライブでラ・リーガ中継の解説も務めている。出版物やデジタルコンテンツの企画制作を行う有限会社アルマンド代表。
小澤一郎(おざわ・いちろう)
1977年生まれ、京都府出身。サッカージャーナリスト。早稲田大学卒業後、社会人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年 に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。多数の媒体に執筆する傍ら、スポナビライブにてラ・リーガ(スペインリーグ)、スカパー!にてUEFAチャンピオンズリーグなどの試合解説もこなす。これまでに著書7冊、構成書4冊、訳書5冊を刊行。株式会社アレナトーレ所属。