【福田正博 フォーメーション進化論】 2017年シーズンのJリーグのハイライトは、なんといっても川崎フロンターレのリ…

【福田正博 フォーメーション進化論】

 2017年シーズンのJリーグのハイライトは、なんといっても川崎フロンターレのリーグ初優勝だろう。



2017年のJ1を制した川崎フロンターレ

 リーグ戦、天皇杯、ルヴァン杯の国内3大タイトルで8度の準優勝と、これまでずっと”シルバーコレクター”に甘んじてきた川崎の初タイトル。何度も悔しい思いを味わってきた中村憲剛が最終戦後に流した涙や、第20節から15試合負けなしで逆転優勝につなげたことがクローズアップされているが、彼らのターニングポイントになったのは、間違いなく第29節のベガルタ仙台戦だ。

 6試合を残し、首位・鹿島アントラーズとの勝ち点差は「5」。ひとつの敗戦が優勝を大きく遠ざける状況で迎えた10月14日のホームゲームは、家長昭博が前半42分に2枚目のイエローカードを受けて退場する苦しい展開となった。

 その直後に、仙台が野津田岳人のゴールで先制し、後半15分には石原直樹にも追加点を決められて”万事休す”と思われた。だが、川崎は、後半37分にエウシーニョのゴールで1点を返すと、後半39分、後半42分に小林悠が2ゴールを決めて逆転勝利をおさめた。

 退場者を出しながら2点のビハインドをひっくり返したこと自体が素晴らしいのだが、チーム状況が非常に苦しいなかでこの大逆転劇を演じたことが、川崎にさらなる勢いをもたらした。

 ベガルタ戦の前、9月に入ってからの川崎は、試練の連続だった。

 まずは、9月13日に行なわれたACL準々決勝の第2戦。浦和レッズ相手に第1戦を3−1で勝ち、圧倒的優位にあった川崎だったが、エウシーニョのゴールで先制点を奪ったにもかかわらず、車屋紳太郎の”一発レッド”から流れを失った。結果は1-4と大差をつけられ、戦前に確実視されていたベスト4進出を逃した。

 さらに、9月23日のヴィッセル神戸戦で、MFの大島僚太と阿部浩之が揃ってケガをし、戦線離脱を余儀なくされていた。川崎が主力2人を欠いたことで、10月からのリーグ戦終盤を乗り切るのは難しいと思っていた。

 そんな重苦しい雰囲気を一変させたのが、第29節の仙台戦だった。ここで川崎が踏ん張ったことが、鹿島に大きなプレッシャーを与えたことは間違いない。

 2016年シーズンからのチーム最大の変化は、監督が交代したことだろう。2012年から指揮を執っていた風間八宏(現・名古屋グランパス)監督が退任。その跡を継いだ鬼木達監督は、風間監督時代のコーチの経験を生かし、それまでに築いてきた攻撃力を継承しながら守備の意識を選手たちに植えつけた。

 2016年までに多かったセットプレーからの失点が減り、全体の失点数もリーグで3番目に少ない32失点。ケガ人が多かったシーズン序盤を乗り切れたのは、守備を改善して勝ち点を取りこぼさなくなったことが大きい。

 総得点では、リーグ2位のセレッソ大阪の「65」を上回る「71」。大久保嘉人が移籍で抜けたが、川崎の攻撃は個の力に頼るサッカーではなく、チーム全体で相手を崩していくスタイルだ。そのため、開幕前から心配はしていなかったが、小林悠が23ゴールで得点王に輝くなど、大久保の穴を埋めてあまりある活躍を見せた。

 また、いい意味で”予想を裏切った”のが家長だった。それまでの家長は、彼を中心に据えたチームでは輝くが、そうではない場合は埋もれてしまう傾向があった。川崎は中村憲剛を中心としたチームづくりをしてきたため、家長は思うようなプレーができないのではないかと思っていた。

 しかし、シーズン前半戦こそケガに苦しんだものの、後半戦から復帰するとチームにしっかりフィット。家長がサイドで基点になったことで攻撃に幅が生まれた。

 守備陣では、憲剛を支えたふたりのボランチの存在も大きい。大島とエドゥアルド・ネットのキープ力と展開力は、憲剛に前線で自由にプレーする余裕を与えた。守備面でも、エドゥアルド・ネットがボランチに定着したことで、ボランチとCBで併用していた谷口彰悟をCBに固定することができた。

 そんな守備陣の最後には、絶対的な守護神のチョン・ソンリョンが控えている。守備の安定には、いいGKの存在が不可欠だ。川崎はDFラインを高くして守ることができ、相手のシュートシーンでは、コースをある程度絞るような守備をすればGKがピンチを防いでくれた。

 このように、鬼木監督になってから川崎の守備は変わったと同時に、選手層も厚くなった。風間監督が指揮を執っていた頃は、スタメンや途中交代の選手がほぼ固定されていたが、鬼木監督はいろいろな選手を起用した。

 主力に故障者が出たこともあっただろうが、ガマン強く経験を積ませたことで、選手は大きく成長。このことが、9月に台所事情が苦しくなったときの、森谷賢太郎、長谷川竜也、三好康児といった選手たちの活躍につながっている。

 進化を遂げた川崎の優勝は、”地域密着”を唱えるJリーグにとっても大きな一歩だ。私自身、すべてのクラブの活動を見てきたわけではないが、ホームタウンである川崎市の地域密着感は、Jクラブのなかでも群を抜いているように感じる。スタジアムのアットホームな空気感は、川崎がこれまで取り組んできたことの成果だろう。

 具体的には、選手たちが小学校を訪問したり、地域のゴミ拾いをしたり、商店街に顔を出したり、ホームゲームのハーフタイムにフォーミュラカーを走らせたり……。さまざまな形で地域密着への取り組みにチャレンジをしているからこそ、あれほど地元のファンに愛されているのだ。

 川崎のこうした取り組みは、他のJリーグクラブの模範になる。もちろん、「勝利こそが、サポーターに対する最大の誠意」と考えるクラブもあってしかるべきだが、ただ、川崎のような、地道でたゆまない努力をしているクラブがJリーグの頂点に立ったことは、日本のサッカー界にとって価値が高いといえる。

 そして、やはり中村憲剛について触れておきたい。クラブを象徴する選手として多くのサポーターに愛される努力を続け、今の川崎が、日本人が追求すべき理想的なパスサッカーができているのも、彼がいればこそだ。

 クラブは新加入する選手たちにチームが歩んできた歴史や信念を教える必要があるが、口頭だけではなかなか伝わりにくいもの。しかし川崎では、憲剛が率先して地域密着の取り組みに参加し、メディアやファンへ誠実な対応をする姿を見せている。

 憲剛は「川崎は自分が入る前から同じようなことをやってきたので、それをやっているだけ」と言うが、先人たちが築いてきた川崎ならではの伝統を、彼が大切に受け継いできたからこそ、小林悠や他の選手たちへと引き継がれているのだ。

 2018年シーズンの川崎には、これまで味わったことのないプレッシャーがのしかかる。昨年までは「優勝したい」という目標に向かって走ってきたが、それを実現したことで目標は「連覇」に変わる。追われる立場になった彼らがリーグをどう戦い、悔しい思いをしたACLでどう雪辱を果たすのか。挑戦者から王者になった川崎から目が離せない。