香川県代表・高松北のLO中島哲大(2年)には日課があった。 起床後と就寝前の1日2回、“試合当日の台本”を声に出して読み上げるのだ。「試合の朝にはこういうことがあって、試合ではこうなる――という台本を作っておくんです。その通りに自分は動く…

 香川県代表・高松北のLO中島哲大(2年)には日課があった。
 起床後と就寝前の1日2回、“試合当日の台本”を声に出して読み上げるのだ。

「試合の朝にはこういうことがあって、試合ではこうなる――という台本を作っておくんです。その通りに自分は動く、という台本です」(高松北・LO中島)

 高松北は昨年度からイメージトレーニング等を導入し、メンタル面を継続強化してきた。

 ホワイトボードにその日の練習目標を書き込み、一人ひとりの目標を視覚化・共有する。ネガティブな声掛けをやめ、ミスに寛容なチーム風土をつくることで、チャレンジをうながす。一人ひとりが試合当日の具体的なイメージストーリーを作成し、起床後と就寝前に読み上げる……。

 精神面を強化する取り組みを続けてきた結果、以前のチーム状況を知る岩田紘輝キャプテン(3年)は「チームのレベルがアップしました」。
 高松北で27年目になる髙木智監督も、チームの成長について強い確信を持っている。
「進化スピードがすごいです。イメージトレーニングの成果ですね。イメージしたことが現実化していくので、生徒たちが『できる』という風になったんです」
 指揮官は「宗教じゃないですよ」と言って記者団の笑いを誘うことも忘れなかった。

 高松北にとって4年連続12度目の出場となった第97回全国高校ラグビー大会。
 迎えた12月27日の1回戦は、5年ぶり10度目の出場を果たした東海大学付属静岡翔洋(静岡)との対戦になった。

 先制トライは東海大静岡翔洋。

 敵陣ゴール前の密集からSH松浦貫介(2年)が鋭く右へ配球し、前半6分にLO瀧優太(3年)のトライが生まれた。さらにPGで加点すると、自陣ラックで反則を犯した高松北につけ込み、同17分にはCTB 稲名海渡(3年)が豪快な突進でスコアラーに。

 15点のビハインドを背負った高松北だが、前半21分には相手のパスミスを捕球したSH石原大暉(3年)が、独走状態から右隅へチーム初トライ。さらにWTB入谷智野(2年)のビッグゲインで敵陣深くに入ると、クイックリスタートからNO8池田拓輝(2年)がインゴールへ。CTB牟禮翔明(1年)のゴールキックも決まって3点差(12-15)に迫った。
 
 しかし高松北のCTB岩田キャプテンが「前半の残り15分くらいは自分たちのペースにもっていけましたが、望月(裕貴)選手が入ってきて流れをもっていかれてしまいました」と語った通り、東海大静岡翔洋は後半最初から出場の高校日本代表候補、望月(3年)が起爆剤になった。
 
 望月は後半1分、いきなりタックラー3人をかわしながら右隅へトライ。フォワード陣も同14分、21分に力強く巧みなラインアウトモールから連続トライ。同26分にはふたたび望月がスピードに乗ってインゴールの先へ押さえた。
 
 12-41でノーサイドを迎えた高松北。
 しかし試合後、髙木監督は教え子の奮闘に興奮を抑えきれない様子でいた。
「花園で生徒がこれだけ力を出せた。(得点は)取られたけど、取り返す力があった。すごいです。本当にすごい」
 髙木監督はイメージトレーニングの成果を強調した。
「テンポが崩れた時もありましたが、あそこまで(ボールを)継続できるというのは、イメージトレーニングのおかげだと思います。今日は鳥肌立ちました。“イメージストーリー台本”のとおりにトライが取れたので」

 高松北のLO中島は、この日ための台本も用意していた。
 1日2回読み上げていた花園1回戦の当日台本ではこうだった。
「朝は寒さで目が覚めるところから始まります。行きのバスでは集中して、口数が少なくて」
 台本の試合では、開始2分でWTB入谷が先制トライを奪う。ピック&ゴーで、機動力溢れるPR中山優吾(3年)もスコアラーになる。最終スコアは21-19で勝利して――
「その日の晩はいつもより美味しくご飯を食べる、という台本でした」
 
 たしかに台本とは異なる試合結果になったが、花園の舞台で自信をもってプレーすることができた。試合後のLO中島は晴れ晴れとしていた。
「中学時代までは緊張するタイプだったのですが、試合の入りから全力を出せました」
 まだ2年生だから、花園へチャレンジする機会は残っている。
 個人的にはチームで取り組んできたイメージトレーニングを続けていきたい。
「監督や先輩が残してくださった文化なので、僕たちはそれを継いで、全力でやれることをやるだけです」
 高松北は未来へのイメージを描き続ける。来年こそは花園で勝利して、大笑いしながらいつもより美味しいご飯をたらふく食べたい。(文/多羅正崇)