蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.1多くの名勝負が生まれたクラシコ photo by Getty…
蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.1

多くの名勝負が生まれたクラシコ photo by Getty Images
今シーズンも、各地で最高峰の戦いが繰り広げられている欧州各国のサッカーリーグ。この企画では、その世界トップの魅力、そして観戦術を目利きたちが語り合います。
サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎──。3氏が注目する今季のポイントとは?
今回のテーマはリーガ・エスパニョーラ(ラ・リーガ)の2大クラブ、バルセロナとレアル・マドリードが対戦する伝統の一戦「エル・クラシコ」。クリスマス直前の両雄の現状と課題を比較し、試合の見どころを分析します。
──12月23日(土)、いよいよラ・リーガ2強による直接対決、”エル・クラシコ”が目前に迫ってきました。レアル・マドリード(以下、マドリー)とバルセロナ(以下、バルサ)という世界的にも超ビッグクラブとされる両雄の対決は多くの日本のサッカーファンも注目していますが、今回はこの試合の見どころをお三方に伺いたいと思います。
倉敷 まず、ここまでのリーグ戦での通算対戦成績で言うと、両チームはほぼ互角。レアル・マドリードが72勝33分69敗と若干上回っていますけど、過去10シーズンに限ってみると、バルサが11勝3分6敗と圧倒しています。
小澤 昨シーズンの対戦でも、バルサはホームの第1戦ではドローでしたが、第2戦ではアウェーで勝っていますよね。決勝点を決めたメッシのゴールパフォーマンス(ユニフォームを脱ぎ、敵地サンティアゴ・ベルナベウのゴール裏のサポーターに対して背番号とメッシの名前の付いている背中側をアピールした)は記憶に新しいですし、エル・クラシコの伝説となりましたよね。

倉敷保雄氏
倉敷 その第2戦では、バルサはネイマール抜きで戦いましたよね。マラガ戦(第31節)でイエローカードをもらって累積警告になったんですが、普通なら出場停止は1試合。でも、あの時ネイマールが第4審判に拍手したことが侮辱行為と見なされて、2試合プラスされて計3試合出場停止処分になった。1試合だけならクラシコには出場できたので、それが議論になりましたね。結果的にバルサが勝ったわけですけど、そういった背景やエピソードの部分も、クラシコを楽しく観戦するうえでは欠かせない要素だと思います。
──今回の対戦では、両チームの中に出場できない主力選手はいますか?
中山 ホームのレアルでは、ケガで戦列を離れていたガレス・ベイルがクラブワールドカップで復帰を果たし、ラファエル・ヴァランも戻ってきました。クラブワールドカップ前のセビージャ戦(第15節)では、ヴァランを欠いたうえにカゼミーロ、ダニエル・カルバハル、セルヒオ・ラモスの主力3人が累積警告で出場停止でしたが、彼らも無事クラシコで復帰できるので、ベストの布陣を組める状態です。
小澤 逆にバルサでは、センターバックのサミュエル・ユムティティが12月2日の第14節セルタ戦でケガをしてしまい全治2カ月、この大一番に出場できません。9月中旬から長期離脱中だったウスマン・デンベレがチーム練習に合流したようですが、エルネスト・バルベルデ監督も「無理はさせない」と会見で慎重な姿勢をみせています。
とにかく、バルサにとってはユムティティがいないのが痛いですね。加入した昨季からDFラインに安定感をもたらしています。バルベルデ監督の今季はチームとしてカウンターのリスク管理をルイス・エンリケ前監督の時よりもするようになっていて、具体的に言えばバルサのサッカーのエッセンスたるトライアングルを作りながらショートパスでボールを前進させ、選手の距離感を詰めながらボールロストの瞬間に、高い位置でボールを奪い返すハイプレスの強度と頻度が上がっています。
ただし、やはりボール保持のサッカーで特に両サイドバックの背後のスペースは狙われますから、そこへのカバーリングとスプリントの能力がバルサのCBには求められます。その意味で言うと、今のユムティティはピケ以上にバルサのDFラインにとって必要不可欠な存在です。

中山淳氏
──では、今回の見どころについてはどうでしょうか? やはり日本では「クリスティアーノ・ロナウド対リオネル・メッシ」という構図で注目するファンも多いと思いますが…。
小澤 個人的には、そろそろ2大スターの対決という構図、見方はやめてもいいんじゃないですか……。特定の選手個人にフォーカスする見方ではクラシコの面白味を半減させてしまうと思います。サッカーとは本来、11対11のチームスポーツであり、戦術的駆け引きがピッチ上で常に行なわれている、とても魅力的で知的レベルの高いスポーツです。
もちろん両チームともそのふたりを中心にチーム作りをしているわけですが、マドリーであればジネディーヌ・ジダン監督が、バルサであれば今シーズンから指揮を執っているバルベルデ監督がそれぞれのチーム作りをしているわけで、両指揮官がクリスティアーノとメッシを輝かせるためにどのような戦術的スキームを用い、この試合に勝つためにどう微調整してくるのか、という見方をした方が興味やサッカーの理解が広がると思います。
倉敷 僕は、ジダン監督がこの試合でイスコをどうやって使うのかというところに興味がありますね。マドリーの元選手で監督も務めたOBのホルヘ・バルダーノが、「イスコはひとりで何でもやりたがっている」というコメントを現地メディアでしているんです。本来、得意としているプレーエリアではなく、ピッチのどこにでも顔を出してしまって、それが逆に彼の良さを消してしまっていると。
その他にも、バルダーノはクリスティアーノとカリム・ベンゼマがお互いのよい部分を消し合っていて、「ひとつのボールに同じ風に反応して、お互いを使おうとするプレーが少ない」とも指摘していました。果たして、それらについてジダンはどういう風に分析し、クラシコに臨むのかという点に興味が沸きますね。
中山 確かに、今シーズンのジダンはイスコを中心にしたチーム作りを進めています。ひとりだけ自由を与え、まるで自分の現役時代と同じようなイメージで彼に役割を与えているようにも見えます。しかも今シーズンはケガや出場停止が重なり、これまで一度もBBC(ベイル、ベンゼマ、クリスティアーノ・ロナウド)が同じピッチに立ったことがない。
で、ようやくこのクラシコで今シーズン初めてBBCを結成させるチャンスがやってきました。もちろんBBC自体も注目ではあるんですが、そこで浮上してくるのが、その中でジダンがイスコをどのように使うのかという点ですね。

小澤一郎氏
小澤 普通に考えれば、2トップのクリスティアーノとベンゼマの下にイスコを置いた中盤ダイヤモンド型の4-4-2となるでしょうね。ベイルはスーパーサブとしてベンチに温存して、勝負をかけるときにピッチに投入するという。
中山 ただ、ジダンは今も現役時代のように王道を歩いている人だから、世界が注目するクラシコでBBCを結成させ、昨シーズンの基本布陣である4-3-3にしてくるかもしれません。でもそうなると、カゼミーロ、ルカ・モドリッチ、トニー・クロースという中盤3人のうち誰かがベンチスタートになってしまう。センターのカゼミーロは外せないので、トニ・クロースあたりがサブになる可能性が高いですわけが、やっぱり全体のバランスを考えると、小澤さんが言うようにベイルをベンチスタートにする方が妥当ですね。
倉敷 とにかく現在暫定4位のマドリーは、1試合消化が少ないとはいえ、首位バルセロナと勝ち点11ポイント差もあるので、絶対にこの試合を落とすわけにはいかないという切羽詰まった状況にあります。その成績不振の大きな要因が、クリスティアーノがリーグ戦でまだ4ゴールしか決めていない点にあります。特にホームで最初にゴールを決めたのがようやく11月25日(マラガ戦)という珍しい現象が起こっています。もともとクリスティアーノはクラシコを得意としていないという不安材料もあります。
中山 そこですね。15節のセビージャ戦(12月9日・ホーム)で2ゴールを挙げているので、自らのゴールで優勝したクラブワールドカップを経て、彼がその良いフィーリングをクラシコでも持続させられるかという部分に注目が集まります。
小澤 それと、バルサはネイマールがパリ・サンジェルマンに移籍したことでMSNが解体され、マドリーもベイルのコンディションの問題で今季はBBCがまだ実現していません。ですので、今回のエル・クラシコはお互い中盤はロンボ(スペイン語で”ひし形”の意味)の4-4-2の布陣で戦う可能性が高い。
今季のラ・リーガではハビエル・カジェハ監督になってからのビジャレアルもロンボの4-4-2を使っていて戦術的に古いようで新しく、興味深いのですが、どうしても攻撃のバランスは中央に偏ります。そうなると、どちらがサイドを攻略できるかがポイントになり、だからこそ両サイドバックの役割とその試合でのパフォーマンスが勝負を分けるカギとなりそうです。
中山 マドリーは右がカルバハルで、左がマルセロ。バルサは右がネルソン・セメドかセルジ・ロベルト、左がジョルディ・アルバですね。単純に比較すると、バルサの右サイドは他と比べて攻撃力が高くないので、サイドの攻防ではマドリーがやや優勢となる可能性が高いですね。
小澤 ただ、今シーズンのバルサはアルバとメッシの関係性がかなり出来上がっていて、それが攻撃の柱にもなっています。アルバとしてはネイマールが抜けたことにより前方に使えるスペースができたことが大きいのでしょう。直近の試合を見ても、右サイドでメッシを中心にタメ、アルバの上がる時間を作り、大きなサイドチェンジから一気に左サイドの深いスペースを攻略、最終的にはマイナスのクロスをメッシに入れての得点パターンが確立しています。
倉敷 とにかく今回のクラシコは、近年とは違って前後にチャンピオンズリーグが開催されない日程なので、両チームともこの試合に集中できるという点が大きいです。しかもこの試合が終われば、選手たちはクリスマス休暇に入ります。確かにマドリーはUAEで開催されたクラブワールドカップを戦って迎えるので、日程的には少し不利なのかもしれませんが、すべてのエネルギーを注げるという状況は同じだと思うんです。
小澤 そういう点では、今回は正真正銘の”ガチ”なクラシコが見られそうです。だって、この試合が終われば選手はクリスマス休暇で1週間近いバケーションをもらえますので、かなりモチベーションとコンディション高く臨めるはずです。しかも今回は、12月23日(土曜日)の現地時間13時キックオフに設定されているので、日本でも21時キックオフでライブ観戦できます。ラ・リーガがアジア市場での人気拡大を狙ってクラシコ史上初めて設定されたランチタイムキックオフです。
日本人としては嬉しいことですが、一方でアジアマーケットの拡大を狙って選手やその国の習慣にとって不慣れなキックオフ時間を強いることで選手のコンディションやサッカーの質が低下しないか心配でもあります。ファンはいいサッカー、いい試合が見たいわけですから。
中山 クリスマス前の土曜夜にクラシコを楽しめるなんて、またとない絶好の機会ですよね。小澤さんは現地に行かれるそうですが、帰ったらまた現地の様子を聞かせてください。

左から、中山淳氏、倉敷保雄氏、小澤一郎氏
倉敷保雄(くらしき・やすお)
1961年生まれ、大阪府出身。ラジオ福島アナウンサー、文化放送記者を経て、フリーに。現在はスカパー!やJ SPORTSでサッカー中継の実況として活動中。愛称はポルトガル語で「名手」を意味する「クラッキ」と苗字の倉敷をかけた「クラッキー」。番組司会、CM、ナレーション業務の他にゴジラ作品DVDのオーディオコメンタリーを数多く担当し、ディズニーアニメ研究のテキストも発表している。著作は「ことの次第」(ソル・メディア)など。
中山淳(なかやま・あつし)
1970年生まれ、山梨県出身。月刊「ワールドサッカーグラフィック」誌の編集部勤務、同誌編集長を経て独立。以降、スポーツ関連の出版物やデジタルコンテンツの企画制作を行うほか、サッカージャーナリストとしてサッカーおよびスポーツメディアに執筆。また、CS放送のサッカー関連番組に出演し、現在スポナビライブでラ・リーガ中継の解説も務めている。出版物やデジタルコンテンツの企画制作を行う有限会社アルマンド代表。
小澤一郎(おざわ・いちろう)
1977年生まれ、京都府出身。サッカージャーナリスト。早稲田大学卒業後、社会人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年 に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。多数の媒体に執筆する傍ら、スポナビライブにてラ・リーガ(スペインリーグ)、スカパー!にてUEFAチャンピオンズリーグなどの試合解説もこなす。これまでに著書7冊、構成書4冊、訳書5冊を刊行。株式会社アレナトーレ所属。