早いもので2017年も残すはあと10日余り。 日本の伝統的なラグビースケジュールどおりとも言えますが、トップリーグ、大学ともにシーズンの佳境を迎えています。 一方、スーパーラグビーの新シーズンの開幕は2月17日(サンウルブズの開幕初戦は2…

 早いもので2017年も残すはあと10日余り。
 日本の伝統的なラグビースケジュールどおりとも言えますが、トップリーグ、大学ともにシーズンの佳境を迎えています。
 一方、スーパーラグビーの新シーズンの開幕は2月17日(サンウルブズの開幕初戦は2月24日の対ブランビーズ戦=東京・秩父宮ラグビー場)。当然ですが、年を明けた2018年早々からチームも具体的に動き出すことになります。

 すでにみなさんご承知とも思いますが、ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズを運営するジャパンエスアールはCBO(Chief Branding Officer)として池田純を招へいしました。

 池田CBOは、横浜DeNAベイスターズの初代代表取締役としてエンターテインメント性も重視した球団改革を成し遂げるなど、スポーツビジネスにおけるイノベーターであることは、ここで改めて述べるまでもないでしょう。

 今年4月からは日本ラグビーフットボール協会特任理事に就任していたこともあり、世界に類を見ない存在と言っていいサンウルブズにも関心を持っていたようで、池田CBOがホストを務めている「Number Sports Business College」に私自身が講師として招かれて話をするうちに意気投合。これまでの“ラグビー・センタード”的な発想にこだわらない“ラグビー・ビジネス・センタード”としてのサンウルブズの可能性を広げていく役割をCBOとして担っていってもらうことになったのです。

 ということで新シーズン以降のジャパンエスアールは会長が私、上野、主にチームまわりを統括する渡瀬裕司CEO、そしてビジネス回りを統括する池田CBOというトロイカ体制でサンウルブズを運営していくことになります。

 そんなふうにスポーツビジネスの最先端に携わってきたプロフェッショナルを招き入れるかたちで新展開を考えていくことにしたのは、ポスト2019におけるサンウルブズの目指すべき方向性を見据えてのこと。

 もともと、サンウルブズは自国開催ワールドカップ成功のため、2019年に向けた日本代表強化のためにスタートを切った面が大きいのは事実です。

 スコッドも日本代表につながる選手を中心に選び、年が明けた2018年シーズンからはジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチがサンウルブズに関しても指揮するかたちとなります。

 日本代表とサンウルブズの指導体制がより一体化していくのは、自国開催ワールドカップでベスト8入り以上を目指すジャパンの強化という観点から言えば当然ながら望ましいことでしょう。

 トップリーグの開催期間が短くなったり、大学チームにおいてもトップリーグにチャレンジする機会が失われたり、日本代表強化に直結するサンウルブズの存在が国内のトップリーグや大学チームの活動の幅を狭めることになる部分もありながら最大限のサポートをいただいているのも、2019年ワールドカップの成功に向けてオール・フォー・ジャパンで代表強化を支えていこうという心意気からであることは私自身十分に理解しており、感謝の念にも堪えません。

 ジョセフ ヘッドコーチ率いる日本代表が11月の遠征で世界8強の一角だったフランスに対して、史上初めて敗戦を免れての引き分けに持ち込めた(しかもアウェー戦!)要因に、サンウルブズも大きな役割を担うオール・フォー・ジャパン態勢があったことも間違いない。

 その一方で、そんなオール・フォー・ジャパン態勢を維持できるのも、あくまでも2019年まで。
 正直に言うなら、私自身がいま持っている最大の危惧は2020年以降のサンウルブズの生き残りに関してです。

 新シーズンに向けて、サンウルブズは「5 FOR TOP 5 IN 2018(2018年シーズンでのトップ5入り)」という目標設定を掲げました。
 これはもちろん短期的なサンウルブズの成長が日本代表に直結するからという面もありますが、同時にポスト2019のチームの生き残りを賭けた戦略から打ち出されたものでもあります。

 多くのサンウルブズのメンバーはトップリーグ各チーム(企業)に所属しながら、サンウルブズでもプレーしてくれています。
 果たして、2019年という大義がなくなった後もそうしたスタイルが維持できるのか、現行どおりにトップリーグチームから選手を提供してもらうかたちが望めるのかというと、厳しい面があるのは事実でしょう。

 2020年以降、“大義消散”によるオール・フォー・ジャパン態勢が弱まっていくことが危惧されるのは、なにも国内に限った話ではありません。

 世界的にも、サンウルブズも含めて、2019年ワールドカップがあるから日本を支えようという共通認識があるのは確かです。

 現在のサンウルブズのスーパーラグビー参加契約時限は2020年まで。ワールドカップが終わった直後のシーズンまでは、SANZAARからもオール・フォー・ジャパン猶予を与えられているということです。

 では、そのオール・フォー・ジャパン期が終わった後、日本代表を、そしてサンウルブズをどのように強化していくのか。残念ながら、日本代表サイド、そして統括する日本協会は、2019年以降の強化プランを未だ提示できていません。模索中というのが現実でしょう。

 もちろん、何よりも、地元開催ワールドカップでアップセットを成し遂げながら決勝トーナメントに勝ち上がるなど、プロモーティブなパフォーマンスを日本代表にしてもらうことが一番だという考え方もある。

 ただし、サンウルブズの会長として、そんな楽観論のみに立脚したチーム運営をすることはできません。

 逆に、あくまでも悲観論を突き詰めた場合、いまの状態のままなら2020年以降、サンウルブズはなくなってしまうと考えざるを得ないというのが正直なところです。

RWC2023フランス開催決定にSANZAARからは不満の声も
スーパーラグビーを極めながら欧州との関係もより重要に?

 現実的にそうした悲観論は、日本代表がフランス遠征に行っていた11月中旬以降、確実に強まっていると言わざるを得ない。
 フランス遠征では、日本代表がトンガに大勝し、フランスにも引き分けるという評価すべき結果を残したにもかかわらずです。

 11月中旬、具体的には11月15日に何が起きたのか。
 2019年日本大会に続く2023年のワールドカップ開催国が、大方の予想を覆すかたちでフランスに決まりました。

 この選考過程で、日本は南アフリカではなく、フランスを支持したのではないかと言われています。真偽のほどは定かではありません。もちろん日本ラグビーは南半球とのみお付き合いしているわけでもなく、ましてや2019年の日本開催を後押ししてくれた大恩人のフランスに義理を果したということは十分予想できます。ただし、SANZAARの人たちは、北半球にありながらスーパーラグビーに特別待遇をして参入させたのはわれわれだろうというような強い意識があるのも事実です。

 私自身のところにも、懇意にしているSANZAARのステークホルダーたちから直接、間接を問わず、疑念の声が届いていますし、サンウルブズがいままで以上に厳しい現実に直面しているのは紛れもない事実なのです。

 2015年ワールドカップで、日本は南アフリカを破るという史上最大のアップセットを成し遂げました。その結果、国内は瞬間的なラグビーブームに沸き、サンウルブズのスーパーラグビー進出にも“神風”となった面があったのは間違いない。

 では、われわれは2019年でも、ただ“第2の神風”を待っていればいいのかというとそうもいかない。
 間違いなく、2年以内にサンウルブズには国内のトップリーグからも、海外のSANZAARからもさらに厳しい現実が突きつけられることになる。

 その厳しい現実を乗り越え、クラブチームとして自立しなければいけない。
「2018年にトップ5入り、5年以内に優勝」というチームとしての将来的目標も含めた「5 BEYOND 2019」というスローガンも、そのために立てた戦略的ターゲッドなのです。

 日本代表強化のためスーパーラグビーの中で成長させてもらう存在にとどまるのではなく、スーパーラグビーの中でも本当にスーパーなクラブになる必要がある。

 もちろん、池田CBOと一緒にラグビー・ビジネス・センタードの考え方を進めていくことにしたのも、サンウルブズ自体が、日本代表の成績によってその存在が左右されることのない、真にプロフェッショナルなスーパークラブになっていくため。
 ビジネスサイドでも世界一を目指さないといけないのです。

 この10月にイタリアを訪れた際、来季のスーパーラグビーに参加できなくなった南アフリカのチーターズがPRO14のアウェー戦をパルマで戦っていました。
 つい半年前にはスーパーラグビーでサンウルブズと対戦するために来日していたにもかかわらず、すでに違う国際リーグでプレーしている。
 正直、チーターズ、そしてキングズ両チームにとってはスーパーラグビーで戦うよりも欧州の有力リーグに加わる方が、時差、市場規模、そして歴史的なつながりから言ってもメリットが大きいという話も聞きます。
 いずれにしても、タイムラグなく異なる国際リーグに活躍の場を移すなんていう離れ業はスーパーラグビーからの削減が決まってから新たに模索してできる話ではないでしょう。随分前から水面下では南アフリカ協会も含めたネゴシエーションが行われていたことは間違いない。

 私自身、フランストップ14の運営母体LNRから双方の交流を促進するためのパートナー(アンバサダー)としての任命を受けていることはすでにお伝えしましたが、サンウルブズも真に自立したスーパークラブを目指す以上、スーパーラグビーで共同戦線を組むSANZAARだけではなく、欧州との関係性も模索しなければならない。

 現在の日本のラグビーは、2019年という、ちょっとそれ以上は考えられないような大義があるために、視点が足元ばかりにいっている傾向がある感じがしています。
 誰も未来予想図を描けていない。未来と言っても、ポスト2019はほんの20数か月後にはやってくるのに、です。

 そんな現状の上に座したままでは、2020年以降のサンウルブズに待ち受けているのは、前述したような悲観論の現実化でしょう。
 ただし、自分たちの未来は自分たちで変えられる、と私自身は信じています。
 日本にはそれを可能にするだけのラグビー文化、スポーツ文化もある。
 他に誰も2020年以降の未来スキームを考えられないのだったら、自分たちで考えて、自分たちで道を切り拓いていくしかない。
 目標に掲げた「5 BEYOND 2019」を達成し、青山ラグビーパーク化なども進めながら、スーパーラグビーの中でもスーパーなクラブになっていく。
 その一方で、欧州ヘの働きかけも強めていく。

 新体制で臨む2018年シーズン、ポスト2019の日本ラグビーが明るいものになっていくことが想像してもらえるような、エキサイティングなサンウルブズの新しい姿を見せていくことをお約束しましょう。

<プロフィール>
上野裕一(うえの ゆういち)

ビジョンは I contribute to the world peace through the development of rugby.
1961年、山梨県出身。県立日川高校、日本体育大学出身。現役時代のポジションはSO。
同大大学院終了。オタゴ大客員研究員。流通経済大教授、同大ラグビー部監督、同CEOなどを歴任後、現在は同大学長補佐。在任中に弘前大学大学院医学研究科にて医学博士取得。
一般社団法人 ジャパンエスアール会長。アジア地域出身者では2人しかいないワールドラグビー「マスタートレーナー」(指導者養成者としての最高資格)も有する。
『ラグビー観戦メソッド 3つの遊びでスッキリわかる』(叢文社)など著書、共著、監修本など多数。