ベンチスタートの岡崎慎司に出番の声がかかったのは71分のことだった。 気温0度という敵地ニューカッスルの凍りつくよ…
ベンチスタートの岡崎慎司に出番の声がかかったのは71分のことだった。
気温0度という敵地ニューカッスルの凍りつくような寒さのなか、前半から断続的にアップを行なっていた岡崎は、すぐにユニフォームに着替えて準備を整えた。

岡崎慎司は9針を縫うケガを負いながらも懸命にプレーした
スコアは2−1でレスター・シティがリード。そして、残り時間は約20分。このタイミングでクロード・ピュエル監督が岡崎の投入を決めたのは、献身的な守備とプレスで貢献できる背番号20の特性を活かそうと思ったからだろう。優勢のレスターは、ここから逃げ切り策にシフトしようとしていたに違いない。
ところが、その直後にニューカッスル・ユナイテッドがワンチャンスをモノにしてゴール。レスターが2−2に追いつかれたことで、岡崎の投入を土壇場で取りやめる可能性もあった。
だが、フランス人指揮官は、そのまま岡崎を投入した。しかも、代わりに引っ込めたのはMFデマライ・グレイ。ウィンガーを本職とするグレイだが、ピュエル監督は2試合連続でこの21歳アタッカーをトップ下として起用していた。言わば、ポジション争いのライバルであるグレイとの交代で、岡崎はピッチに入ったのだ。
当然、岡崎としては少なからず重圧を感じていたことだろう。
ひとつ目の理由が、2−2の同点に追いつかれた直後のタイミングで投入されたこと。アウェーゲームではあったが、相手のニューカッスルは直近7試合で6敗1分の未勝利。まさに絶不調の状態で、この試合もレスターの攻勢が目立っていた。どうしても勝ち点3が欲しい展開で、岡崎は投入されたのだ。
ふたつ目の理由が、ピュエル新体制になってから岡崎の得点がないこと。「新しい監督になってから点を決めていない。点を獲れば自分が使われるかもしれない」と本人が話していたとおり、ゴールを決めて定位置取りにアピールする絶好のチャンスがまわってきた。
そして、最後の理由が、この試合でグレイが好パフォーマンスを見せていたこと。
トップ下のプレーのコツを掴み始めたようで、グレイはメリハリの効いたプレーで攻撃にアクセントをつけていた。シンプルにさばくべきところはさばき、仕掛けるところは仕掛ける。クラウディオ・ラニエリ&クレイグ・シェイクスピアの前体制時代は恣意的なプレーばかりが目についたが、この試合に限って言えば、こうした悪癖が徐々に改善されているように見えた。ニューカッスルの寄せが甘かったことはあるが、『BBC』がグレイをMOM(マン・オブ・ザ・マッチ)に選出するほどのパフォーマンスを見せていた。
しかも60分には、自身の足で豪快にゴールも決めている。岡崎が不甲斐ないプレーを見せれば、「なぜグレイを下げたのか?」と英メディアやサポーターから不満の声があがっても不思議ではなかった。その証拠に、交代時のグレイは苦笑いを浮かべ、自分をベンチに下げた采配に納得のいかない様子だった。
要するに岡崎としては、ゴールを奪う、もしくはゴールに直結するプレーが必要だったのだ。
ところが、投入から5分後にハプニングに見舞われてしまう。自陣のタッチライン際で頭から競り合いにいったところで、相手選手の足が岡崎の左目上あたりを強打。岡崎はそのまま、うずくまってしまう。アップ中のDFクリスティアン・フックスが岡崎の出血を確認すると、すぐにドクターを呼んだ。応急処置をして出血部分を包帯でグルグル巻きにすると、2分後にピッチへ戻った。
岡崎の出血は包帯の上からもにじんで見えたが、それでも全力で走り回った。こうした気持ちのこもったプレーが実を結んだのが、86分の決勝ゴールだった。
味方のクリアボールを、岡崎が自陣の中盤でキープ。トラップが大きくなったことで、相手選手にガツンと寄せられて体勢を崩したが、岡崎はなんとかMFリヤド・マフレズにボールを預けた。
ここから、レスターがカウンターアタックを開始。チャンスと見た岡崎は手を挙げてパスを要求しながら、ペナルティエリア内まで約40メートルを突っ走った。
ペナルティエリア内でFWジェイミー・バーディーのラストパスをトラップし、左足でシュートに持ち込もうとうしたところで、後ろから追いかけてきた相手選手が足を伸ばしてブロック。ところが、相手選手が触れたボールはそのままゴールに吸い込まれていった――。
レスターの選手たちは、オウンゴールによる勝ち越し弾に沸いた。しかし岡崎は、見るからに悔しそうだった。得点直後も両手をひざに当てて、頭を抱える。その後も天を仰いだり、両手を広げたり、大きくため息をしたりして悔しがった。
最終的に、このオウンゴールが決勝点となり、レスターは3−2で勝利した。岡崎が決勝点となるオウンゴールを誘発した格好になるが、それでもスコアシートに自身の名前を刻みたかったに違いない。試合後も、味方選手に「もう少しで打てた」「ダイレクトで打つべきだった」と、ジェスチャーで説明する岡崎の姿があった。
試合後、取材エリアで彼を待ってみたが、治療のために本人から話を聞くことは叶わなかった。クラブ広報は「左目の上からほほにかけて切り、全部で9針を縫った。傷口が非常に腫れあがっており、痛そうだ」と説明した。実際、体力の消耗は激しかったようで、試合終了のホイッスルが鳴ると、ピッチに座り込んでいた。
流血しながらも、決勝点につながる好パフォーマンスを見せた。ピュエル監督も、背番号20の身を粉にして戦う姿勢を褒め称えた。だが、勝利に貢献するのと、FWとして結果をきっちり残すのでは、意味合いがまるで違う――。
そんな強い決意と覚悟が、岡崎の悔しそうな様子から伝わってきた。
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