“ほろ苦いブロードウェイ・デビュー”。ゴンザガ大学で2年目のシーズンを迎えた八村塁の、マディソン・スクウェア・ガーデン(MSG)での初戦は、そう形容せざるを得ない内容に終わった。ビラノバ大との試合で4得点に終わっ…

“ほろ苦いブロードウェイ・デビュー”。ゴンザガ大学で2年目のシーズンを迎えた八村塁の、マディソン・スクウェア・ガーデン(MSG)での初戦は、そう形容せざるを得ない内容に終わった。



ビラノバ大との試合で4得点に終わったゴンザガ大の八村塁

 12月5日、毎年恒例のジミー・V・クラシックの一環として行なわれたビラノバ大学との一戦で、ゴンザガ大は72-88で完敗。2年前に”マーチマッドネス(3月の狂気)”と呼ばれるNCAAトーナメントを優勝し、今シーズンもここまで8戦8勝で突っ走ってきた強豪校に、力の差を見せつけられる結果となった。

「何年か前にも優勝していますし、(ビラノバ大は)凄くレベルの高いチーム。試合が終わった後にコーチとも話したんですが、基本をとても大事にしているチームだなと思いました」

 試合後に八村本人もそう述べたが、ターンオーバー(攻撃側のミスによって攻守が入れ替わること)の数で12-19と差をつけられたことが象徴する通り、両チームの成熟度には大きな開きがあった。この日の八村は14分間の出場で4ファウルを犯し、4得点のみ。ディフェンスのミスとファウルトラブルが重なり、プレー時間は今季最小タイにとどまった。

「まず、ディフェンスからやっていかなければいけない。(ゴンザガ大は)ディフェンスをちゃんとやらないと何もはじまらないチームなんですが、今日はミスを重ねてしまいました。そこを修正したいと思っています」

 今季2敗目(7勝)を喫したゴンザガ大を助けられず、八村の口から出るのは反省の弁ばかりだった。

 ルーキーイヤーの昨季は、NCAAトーナメントで準優勝を遂げたチームにあって、八村は平均4.6分のプレー時間しか得られなかった。しかし、カレッジの水にも慣れた2年目は成長ぶりをアピールしている。11月26日のテキサス大との試合では20得点、9リバウンドをマークするなど、大器の片鱗を見せはじめていた。特に身体能力はずば抜けており、近未来のNBAドラフト候補と目されている。

「(八村は)とても才能に満ちたプレーヤーだと思う。僕は彼のプレーを見るのが大好きなんだ。プレーの方法も理解しているし、長いキャリアを築くだろうね」

 かつてシカゴ・ブルズでプレーし、現在はESPNのカレッジバスケットボール中継の解説者を務めるジェイ・ウィリアムスも、八村をそう絶賛している。ウィリアムスは、バイク事故によるケガでNBAでは短命に終わったものの、2002年のドラフト全体2位でブルズに入団した選手だ。このウィリアムスに限らず、ニューヨークという大都会で、しかも”殿堂”と呼ばれるMSGで行なわれるゲームには、スカウトやNBA関係者も数多く訪れる。

「(MSGは)プレーしてみて、そんなに大きくなかったです。ただ、いろいろ歴史があると思うのでそれは感じました」

 八村はこともなげにそう述べたが、将来性抜群の”Rui Hachimura”は、間違いなくこの日の注目選手のひとりだった。だからこそ、いいプレーができれば強烈にアピールできていたはずだったのだが……。残念ながら、最良の結果は残せなかった。

 ゴンザガ大は今季もNCAAトーナメント出場が有力視されている。準優勝を遂げた昨季に続き、マーチマッドネスで上位進出を狙うなら、ビラノバ大のようにチームを成熟させていかなければいけない。その中で存在感を高めていきたい八村にとっても、強豪相手の苦しい経験が、今後の糧となっていくだろう。

 解説者のウィリアムスは、八村への高い評価は変わらずも、現状での経験不足を暗に指摘した。

「多くの時間をカレッジのコートで過ごすことによって、より快適にプレーできるようになる。そうすれば、八村の能力が生かされるはずだ。NBAのドラフトで指名されるべき才能を彼は持っているから、あとは成熟させていくだけ。そこに辿り着くために、必要な努力を惜しまないことが大切だね」
 
 ゴンザガ大のようなNCAA1部の強豪校の戦力になっている時点で、八村が日本選手としては飛び抜けた才能を持っていることは間違いない。 まだまだ荒削りながら、ゲームによっては20点前後の得点を記録できてしまうことが、彼のポテンシャルの高さを証明している。まずはチーム戦術をマスターし、より多くの場数を踏むこと。稀有(けう)な身体能力を攻守両面で最大限に生かす術(すべ)を見つけたとき、八村は完全に覚醒するはずだ。

「みんなも落ち込んでいるんですけど、すぐに試合もあるので、切り替えようと。『これからのシーズンどうやろうか』という話をしました」

 そんな本人の言葉通り、シーズンはまだ始まったばかり。そして、八村のアメリカでのキャリアにも同じことが言える。

 実力、将来性のある役者には、ブロードウェイでの”再演”の機会は必ずやってくる。だとすれば、慌てる必要はない。これから着実に成長していけば、初めてのMSGでの試練は「小さなつまずき」として忘れ去られるだろう。