W杯グループHの対戦国研究(3)~ポーランド「ポーランド」。現地での呼び方はポルスカ。首都ワルシャワの発音には濁点(…

W杯グループHの対戦国研究(3)~ポーランド

「ポーランド」。現地での呼び方はポルスカ。首都ワルシャワの発音には濁点(だくてん)がつく。カナ表記するなら「ヴァルシャヴァ」になるか。国土は日本の本州と北海道をちょうど足したくらいの面積で、人口は日本の3分の1にも満たない約3800万人。アウシュヴィッツ強制収容所があまりにも有名だが、多くの日本人にはとにかく馴染みの薄い国だろう。日本だけでなく、世界中にはかの東欧革命から30年近くを経ても、ポーランドは共産主義と誤認している人もいるようだ。

「対戦国研究(1)コロンビア」はこちら>>>
「対戦国研究(2)セネガル」はこちら>>>



レバンドフスキ(左から2番目)を軸とするポーランド攻撃陣は強力

 そうしたイメージを変えるべく、現地の旅行代理店『ディスカバー・クラクフ』は今年7月、自社のウェブサイト上で「ポーランド人が有名にしたい7つのこと」を紹介した。

 ひとつ目は「美しい女性たち」、ふたつ目は「美味しい食事」、3つ目は「多様性のあるアルコール文化」……。なるほど、さすがは旅行代理店だ。筆者のような30代独身男にとっては、これだけで十分に訪れる動機になってしまう。

 戯言(ざれごと)はさておき、驚かされたのは5つ目の「Amazing Football Team」。そう、ロシア・ワールドカップで日本代表と同組になったポーランド代表を、自国の誇りのひとつに挙げているのだ。その紹介文の要約は以下のとおり。

「ポーランド人は単純にサッカーを愛しています。とにかく熱狂的なサッカー愛好家があちこちにいます。多くの人々が共有する夢(タイトル)は叶っていませんが、我々にはすばらしい代表チームがあります。1600年から1945年まで43回も自国を侵略され、自由を求めてきたポーランド人は悲惨な歴史を思い出したくない。それよりも未来へ目を向け、現代的でエキサイティングな人(選手)と自国を関連づけたいのです」

 野暮なツッコミを入れるなら、ポーランド代表は過去にビッグタイトルを手にしていないわけではない。1972年のミュンヘン五輪で金メダルに輝いているのだ。

 ただ、それは共産主義の時代の話。1974年ワールドカップ得点王のFWグジェゴシ・ラトーやゲームメイカーのMFカジミエシュ・デイナら名手を擁した1970年代のチームが自国のサッカー史を華やかに彩っているのは確かだが、現代を生きるポーランド国民の多くは2006年のドイツ大会以来8回目のワールドカップに挑む今の「オルィ(ポーランド代表の愛称で鷲の意味)」に特大の期待を寄せている。

 国民性うんぬんを抜きにしても、現在のポーランド代表はロシア大会のダークホースと呼ぶにふさわしい実績を重ねてきた。

 2016年の欧州選手権(EURO)ではグループリーグで世界王者のドイツと伍(ご)して渡り合い、決勝トーナメント準々決勝では大会を制することになるポルトガルとPK戦にもつれ込む死闘を演じている。迎えたワールドカップ欧州予選では大国不在のグループに入る幸運があったとはいえ、中堅国のデンマークや新興国のモンテネグロなどをきっちりと抑え、8勝1分1敗の好成績で首位通過を果たした。最新FIFAランキングは7位である。

 戦術は、隣国ドイツからの影響を色濃く感じさせる。インテンシティが高く、攻守の両局面でアグレッシブ。ポゼッションかカウンターのどちらか一方に傾倒するのではなく、戦況に応じた使い分けがうまい。ボールを保持する時間が長くなる格下チームとの対戦時には、最後尾からの丁寧なパスワークとセンターバックのDFカミル・グリク(モナコ)が得意とするロングフィードを織り交ぜて相手に的を絞らせないのも、ドイツ代表のプレー原則と同じだ。

 日本代表が特に警戒すべきはサイドアタックだろう。2013年10月に代表監督の座に就いたアダム・ナバウカ監督は、国内クラブを率いていたころと同様に両サイドバックを積極的に攻め上がらせる。

 ただし、すんなりとサイドに展開するのではなく、1トップを務めるFWロベルト・レバンドフスキ(バイエルン)にくさびのパスを打ち込んでから揺さぶるのが基本。バイエルンでのプレー時に比べると、代表での大エースは中盤まで下がってから積極的に組み立てに関与しようとするので、対戦するチームはセンターバックとボランチによるマークの受け渡しが重要となる。

 選手で一番厄介なのは、そのレバンドフスキを置いてほかにない。ワールドカップ予選における得点の世界記録(16ゴール)を樹立した稀代のストライカーは、日本が前回大会で大いに苦しめられたコートジボワールのFWディディエ・ドログバを凌駕するほどの存在だ。

 EURO2016予選から今ワールドカップ欧州予選の序盤戦まで、レバンドフスキはFWアルカディウシュ・ミリク(ナポリ)と2トップを組んでいた。だが、その相棒がここのところケガに泣かされており、現在は得点源としての重要性がさらに高まっている。強さ、速さ、うまさの三拍子が揃う点取り屋をいかに抑えるか――。日本だけでなく、同じグループHを戦うコロンビアとセネガルも頭を悩ませているだろう。

 その一方で、ディフェンスには隙がある。予選でクリーンシートを記録したのは敵地のルーマニア戦とホームのカザフスタン戦だけで、残りの8試合で計14失点を喫した。

 これは、ロシアへの切符を掴んだ欧州13ヵ国のなかでワーストの成績だ。前線から積極的に仕掛けるプレスが機能しなかった場合のリスク管理が甘いうえ、セーフティーリードを奪った際に集中を失いがちなど、問題は山積している。ディフェンスリーダーのグリクが持ち前の安定感を欠き、パフォーマンスにバラつきがあるのも不安要素だ。

 ただ、予選突破後のテストマッチ(11月のウルグアイ戦とメキシコ戦)では基本システムの4-2-3-1を用いず、新たに3バックを試していた。それも、守備のテコ入れを考えてのことだろう。

 今後も試行錯誤は続きそうだが、指揮官ナバウカには監督就任時にFIFAランク69位だったチームを現在の位置へと導いた確かな手腕がある。本大会まで残り半年ほどの準備期間で、懸案のディフェンスをみるみる改善させたとしても不思議はない。ワールドカップの組み合わせ抽選会後、そのナバウカはこうコメントしている。

「いい抽選結果だ。十分な謙虚さと大きな尊敬を持ってライバルに臨むが、我々は自分たちの力を信じている。ワールドカップ予選でさほど苦しまなかった非常に強力な国々と対戦することになる。危険なチームに違いないが、私は選手たちを信じている」

 公の場で選手への信頼を口にするのは、ナバウカのいわば真骨頂だ。

 たとえば、2014年12月にレバンドフスキを新主将に正式指名したときも、負傷離脱のためにその大役を譲ることになった前主将のMFヤクブ・ブワシュチコフスキ(ヴォルフスブルク)への配慮を忘れず、事あるごとにメディアの前で彼を称賛していた。どちらがいいか悪いかは別にせよ、なにかと選手批判なり苦言を呈することが多い日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督とは対照的かもしれない。

 ナバウカが選手を信じるように、選手もナバウカを信じている。そして、国民はこの代表チームに大きな希望を見出している。ソ連軍による侵略を受けた遺恨を抱えるだけでなく、現在は第二次世界大戦の認識で対立状態にあるロシアの地で、早期敗退だけは是が非でも避けたいだろう。

 ポーランド代表が背負うものは、とてつもなく大きい――。

◆まずいぞ、ハリル。コロンビアは前回より大幅強化、日本など眼中になし

◆ヤバいぞ、ハリル。セネガルは組織力もアップ。対策は吉田麻也に聞け