試合後、1時間半が経ったにもかかわらず、セレモニーは終わらなかった。日が暮れて冷え込みが厳しくなってきたが、スタンドの…

 試合後、1時間半が経ったにもかかわらず、セレモニーは終わらなかった。日が暮れて冷え込みが厳しくなってきたが、スタンドのファンは律儀に社長、監督、選手のスピーチを見守った。そして慈愛に満ちた声援を送る。クラブ一筋17年で現役引退を決めた選手への惜別と餞(はなむけ)の気持ちもあったのだろう。

 何かを成し遂げたチームがそこにいるかのようだった。しかし、最終節で劇的な勝利を収めたものの、J1から降格することが決まった。それが厳しい現実だった。



劇的勝利を収めたにもかかわらず、J2降格が決まったヴァンフォーレ甲府の選手たち

 12月2日、山梨中銀スタジアム。J1最終節、16位ヴァンフォーレ甲府は11位ベガルタ仙台を迎えている。甲府がJ1に残留するには、「残留圏の15位清水エスパルスが引き分け以下」という条件つきで、勝利が至上命令だった。

 一方の仙台はタイトルや残留などがかかっていたわけではなかったが、”消化試合”という気の緩みは見えない。

「ビジターのチケットは完売したそうです。(ファンのおかげで)目の前の目標を思い出させてもらいました。チームとしても前々泊して調整し、”最後の試合、勝ってみろ”というシチュエーションを作ってもらった」(仙台・渡邉晋監督)

 仙台はボールをつなげ、運ぼうとしている。それは1シーズン、取り組んできた戦い方だった。ただ、凹凸のあるピッチで思うようにいかない。

 甲府は仙台の攻撃の拠点を高い位置から潰している。奪って、技術精度の低さからボールを失っても、強度の高い守備で再び奪い返す。ラインをコントロールしながら、適切な距離感を得てペースを握った。とりわけウォーミングアップ中のケガでメンバー変更があった仙台の左サイドを、右サイドの小出悠太が鋭い出足で潰し、何度かカウンターに持ち込んでいる。

「負けられない、勝たなければならない、という状況になって、チームとしていいゲームができるようになった。大宮戦もそうでした。今日もそうで、こういう戦い方をもっと前からできていれば……」(甲府・小椋祥平)

 今シーズンの甲府は、「6バックで守るだけ」というイメージからの脱却を試みている。それは変化、革新と言えるだろう。今シーズンから甲府を率いることになった吉田達磨監督の功績だ。

「今シーズンは上位とがっぷり四つに組める試合が増えました。達磨さんとは開幕前に、『ヴァンフォーレのベースを上げよう』と話していました。(指示なしでも)自然に体が動くようになっている」(甲府・山本英臣)

 昨シーズンまでのように、ボールを受けた選手が慌てることはなくなったし、サポートの距離もよくなった。立ち位置が決まったことで、クリアがパスになり、セカンドボールも拾う回数が増えた。今季はJ1で6番目に少ない失点数となったが、それは専守防衛ではなく、攻守両輪が噛み合ったことによるものだった。

「1シーズン、達磨さんの指導を受けて、うまくなっているという実感がある。試合に出ている、出ていないは別にして。練習からそれは感じる」(甲府・堀米勇輝)

 後半、甲府はより激しくゴール前へ迫っている。68分に左利きの堀米が投入されると、攻勢のギアが上がった。立て続けにセットプレーを奪い、左足のキックから決定機をお膳立てした。

 しかし、甲府は攻めながらもシュートが枠に飛ばない。シュートの場面で、極端に精度が落ちた。1点が遠いのだ。

「34試合で23得点」

 得点王に輝いた川崎フロンターレの小林悠1人と同じゴール数。チャンスボールを叩き込む、というストライカーを欠いていた。残留したクラブには二桁得点前後の選手が必ず1人はいるし、それに近い選手がもう1人いる。

 無論、甲府も手をこまねいていたわけではない。ブラジル人FWウィルソンが太り気味で動きが鈍かったことで見切りをつけ、同じブラジル人FWリンスを獲得し、さらにギリシャ系オーストラリア人FWビリーとも契約。しかし前者は決定力が乏しく、後者は戦力になっていない。

 皮肉か、必然か、後半アディショナルタイムに試合を決めたのはリンスだった。リンスは何度もため息をつくようなミスをし、右足でのフィニッシュにこだわって完全に読まれていた。それが最後のシュートは、右足を読んだDFが2人して片方のコースを完全に明ける、という僥倖(ぎょうこう)から生まれた。チーム19本目のシュートを、リンスが決めた。

「(降格理由としては)下位のチームに取りこぼした、というのが大きかったですね。(勝ち点差1と2の)広島、清水に2勝を与え、新潟にも勝ち点を与えてしまっている」

 吉田達磨監督はそうシーズンを総括し、こう続けた。

「前期はシュートを打てそうなところまで、後期はシュートを打つところまで、意図的にボールを運べるようになりました。そうやって攻められるようになったことで、最後のクオリティに委ねられるところになった。ひと振り、ひと外しが重要で、そこで決着をつけられなかった」

 新しい甲府の萌芽は見られた。それは土台になり得るものだろう。吉田監督の続投は朗報と言える。変わらなければいけないという、クラブとしての強い決意が滲み出る。2027年に開通予定のリニア中央新幹線に合わせて、サッカー、ラグビー、アメフト専用球技場が現在のスタジアムの周辺に建築される予定だという。

 しかし勝負の世界は非情だ。「2011年以来のJ2降格」という失敗も重く受け止めるべきだろう。勝つための算段において、何かが足りなかった。言うまでもなく、J2の戦いは険しい。

 試合終了後、2時間半が経っても、大勢のファンが帰らず、選手が乗り込むバスを見送っていた。彼らは「夜明け」に期待しているのだろう。甲府盆地の山かげから浮かんでいた月が、すでに闇となった中空にあって、眩しい光を放っていた。