FC岐阜・恩田社長の600日 ~Jリーグ地域クラブへの伝言~ 後日譚・前編今シーズン、サポーターとしてスタジアムに通…
後日譚・前編

今シーズン、サポーターとしてスタジアムに通い続けた恩田前社長
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「今日限りで、社長を辞任します」
私が難病ALS(筋萎縮性側索硬化症※)の病状の進行によって、社長業の遂行が困難となり、ホーム最終戦後のセレモニーで冒頭のセリフを申し上げたのが、ちょうど2年前のことです。時が経つのは本当に早いですね。
改めて自己紹介します。Jリーグに加盟する、FC岐阜の運営会社である、株式会社岐阜フットボールクラブの前社長の恩田聖敬(さとし)です。1年前には、社長時代を振り返る『恩田社長の600日』を十数回にわたり、執筆させていただきました。この度はその続編として、社長退任後のことを2回に分けて記そうと思います。どうぞ、お付き合いください。
前編の今回は、2017年シーズンを振り返ります。
2016年4月の株主総会で取締役を退任した私にとって、今シーズンが1年通してクラブ外の立場となる初めてのシーズンでした。100%サポーターの立場で迎えたシーズンを全力で楽しみました。シーズンチケットを買い、ホーム戦の観戦率は20/21試合でした。FC岐阜は大木武新監督を迎え、「魅せるサッカー」「最後まで走りきるサッカー」をぶち上げました。そのサッカーを高本詞史編成担当が集めた、才気あふれる若手とビクトル選手やシシーニョ選手のような、観客を沸かせるだけの力を持った外国人を中心としたチームが実践します。
その試合ぶりは、「今、FC岐阜のサッカーが面白い!」「パス数、リーグ1位!」のように、各種メディアに取り上げられました。私が社長在任中も、さまざまなメディアに取り上げていただきましたが、残念ながら今シーズンのように”サッカーの中身”を特集されることはありませんでした。
最終順位は18位と、結果が伴ったとは言い難いですが、大木監督の続投も決まり、戦術が成熟するであろう来シーズンがとても楽しみです。
一方、スタジアムにおけるサッカー以外のさまざまなイベントにも磨きをかけ、私がやりたくてできなかった市町村からの団体集客など、集客にこだわる姿勢をクラブは示してくれました。これらのイベントに加え、前述したように”試合”というメインディッシュをしっかりと手に入れたFC岐阜のスタジアムは、お客様の心をつかみます。名古屋グランパスとのダービーマッチでは、歴代最高観客数を大幅に更新する1万7017人の動員を達成し、平均観客数は6977人と、観客数は前年比大幅アップという結果になりました。観客数の順位なら、既にJ2トップテンに入っています。ラモス瑠偉監督というスーパースターの後を、FC岐阜は見事に進みました。宮田博之社長をはじめとするスタッフの方々の不断の努力が、この結果に結びついたのだと思います。頭が下がります。

今季の名古屋グランパス戦で歴代最高観客数を更新!
一方、サポーターの皆様は、変わらず笑顔で接してくれています。社長在任時に作ってもらった私の横断幕も、毎試合2階のコンコースに掲げられています。私とサポーターの絆は、そのままFC岐阜との絆です。絆を作れたこと、嬉しく思います。
私が観戦している、バックスタンド車椅子席まで、毎試合わざわざ挨拶に来てくださる方、私の名前である、3104(3=さ、10=と、4=し)のユニフォームを毎年プレゼントしてくださる方、子供ができたと報告してくださる、私の社長在任中にスタジアムウエディングをした夫婦サポーター……何物にも代えられない絆をありがとうございます。ホーム最終戦では、「また来年!」と多くのサポーターと挨拶しました。来シーズンもよろしくお願いします!
また、今シーズンは本当に些少ながら、”まんまる笑店”としてFC岐阜のスポンサーをやらせていただきました。株式会社まんまる笑店とは、2016年6月30日に私が設立し、現在、私が社長を務める会社です。スタジアムに掲出されているバナー広告には、「ぎふから日本を元気に!」と書いてあります。このメッセージに込めた思いや、まんまる笑店の具体的な活動内容は、次回の後編で詳しく書こうと思います。FC岐阜の営業担当はウチにもシーズン報告に来てくれました。照れるけど嬉しいです(笑)。今後も会社の身の丈に合った範囲で、スポンサーを続けていきたいです。
最後に自戒の念も込めて、FC岐阜の未来について記そうと思います。
今までのFC岐阜は、私の社長在任中も含めて、1年かけて積み上げたものがほとんど翌年に引き継がれませんでした。チーム編成もしかり、スポンサー営業もしかり、中長期的なビジョンに会社を導くだけの、組織力と余裕を作り出すことができませんでした。私が唯一創った未来へつながる流れは、2015年の会社黒字化だけです。慢性財政難だったFC岐阜が、その後は黒字経営が続いています。私も経営者の端くれとして、黒字化は至上命題として達成しました。
ようやく未来への積み上げが本格的に始まります。今年1年、クラブを観てきて、そんな気配を強く感じます。多くの期待を背負い、J1への道をゆっくりでいいから、一歩一歩足場を踏み固めて進んでほしいです。
個人的に今シーズン寂しかったのは、岐阜県出身の選手がひとりもいなくなってしまったことです。岐阜県で「プロになりたい!」と願う子供たちの夢は、FC岐阜のサッカースクールやユースチームが受け皿となり、叶えてあげてほしいです。
ぎふの地が、子供たちが夢を見られる地であれば、ぎふの未来は安泰です。なぜなら、子供たちの作る未来に我々大人は住まわせてもらうのだから。
(つづく)
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【profile】
恩田聖敬(おんだ・さとし)
1978年生まれ。岐阜県出身。Jリーグ・FC岐阜の社長に史上最年少の35歳で就任。現場主義を掲げ、チーム再建に尽力。就任と同時期にALSを発症。2015年末、 病状の進行により職務遂行困難となり、やむなく社長を辞任。翌年、「ALSでも自分らしく生きる」をモットーに、クラウドファンディングで創業資金を募り、(株)まんまる笑店を設立。講演、研修、執筆等を全国で行なう。今秋、対談本『2人の障がい者社長が語る絶望への処方箋』を出版。私生活では2児の父。
※ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだん痩せて、力がなくなっていく病気。 最終的には自発呼吸ができなくなり、人工呼吸器をつけないと死に至る。 筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、運動をつかさどる神経が障害を受け、脳からの命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり筋肉が痩せていく。その一方で、体の感覚や知能、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通。
発症は10万人に1人か2人と言われており、現代の医学でも原因は究明できず、効果的な治療法は確立されていない。日本には現在約9000人の患者がいると言われている。