『日本中をわかそう♨』 おんせん県・大分の中でも、もっとも温泉度の高い別府の駅に、2019年に日本で開催されるラグビーワールドカップを告知する幕が貼ってあった。 並んだ文字の最後に、お馴染みの温泉マーク。 しゃれっ気がある。 最…

『日本中をわかそう♨』
 おんせん県・大分の中でも、もっとも温泉度の高い別府の駅に、2019年に日本で開催されるラグビーワールドカップを告知する幕が貼ってあった。
 並んだ文字の最後に、お馴染みの温泉マーク。
 しゃれっ気がある。

 最初は「温泉都市」が縁でニュージーランドのロトルアとつながった。
 それが、いまは楕円球でつながっている。
 大分県別府市に住む西謙二さんだ。
 西さんは、株式会社西石油の代表取締役社長でありながら、大分県ニュージーランド友好協会の代表も務める。
 オフィスは別府つるりん通り商店街の一角にある『ニュージーランドハウス』。日本とニュージーランドの国際交流・国際親善をさらに深めたり、留学等の相互交流への協力や支援などを中心に活動をおこなっている。

 この9月下旬から10月上旬にかけて実施された「All Blacks Coaching Clinic(オールブラックス・コーチングクリニック/AIGジャパンがサポート)」。同クリニックの日本での初めての開催地が大分だったのは、西さんの存在が大きい。
 別府商工会議所青年部会長だった1994年を皮切りに、両国間を何度も行き来した(別府市とロトルア市は1987年に姉妹都市になった)。すぐにニュージーランドの自然やフレンドリーな国民性に魅せられて、楕円球と羊の国が大好きになった。
 1995年には大分県ニュージーランド友好協会を設立。2000年にはニュージーランドハウスを作った。木材から釘、大工まで、すべてニュージーランドにこだわって作った素敵な建物だ。
「これまでに35回ニュージーランドに行きました。いつ、何度行ってもすべてを受け入れてくれる国」
 だから子どもたちにも、彼の国と触れ合わせたい。そう思って、いつも精力的に動き回る。

 今回のクリニックで、ピーター・ハロルド、デイヴ・ペリンの両コーチが、子どもたちを指導する姿を見て嬉しくなった。自分の息子たちがラグビーをやるようになってから、試合、練習と、いつもグラウンドを見つめてきたけれど、こんなに笑顔があふれる光景を見たことがなかったからだ。
 ある少年は家に帰るやいなや、お母さんに「きょうは本当に楽しかった」と報告したそうだ。
 そんな話を聞いて目尻が下がった。
 ある人は、ラグビー王国からやって来たコーチが教えてくれるのだから信頼があると言った。
 自分のことのように誇らしかった。
「コーチ自身、ジェスチャーを交えながら、実に楽しそうなんですよ。それが子どもにも伝わるのでしょう」
 怒鳴ることなんてない。練習は、このスポーツの楽しさを伝える時間だ。

 西さんは、大分ラグビースクールや大分舞鶴高校の周年行事の際に、それぞれのチームとニュージーランドをつないだことがある。別府翔青高校や明豊高校、大分大付属中の生徒たち数人ずつが毎年語学研修に向かえるように、環境を整えることにも尽力してきた。テレビで見たり、聞いたりして得るものと、実際にそこに行って、そこに暮らす人たちと触れ合うのでは、感じるものが大きく違うと思うからだ。
 そういう意味でも、大分県内の各地で、いろんな対象に指導した今回のコーチングコースは、それぞれの地域にもたらすものがとても大きかった。

 西さんは言う。
「ニュースを見て、ニュージーランドのコーチがそういうことをやっているんだ、と知るだけでなく、今回はクリニックがあちこちでおこなわれた。実際に子どもたちがコーチとコミュニケーションを取ることができたのは、素晴らしい経験、想い出になったと思います。お金で買えるものではありません。その光景を見ていた人たちは、大人がやるべきこと、社会がすべきことが分かったと思います」
 2019年のワールドカップの際には、大分県では準々決勝2試合を含む5試合がおこなわれる。今回のクリニックは、そこに向けての最高の準備にもなった。
「素晴らしいコーチングのお陰で、多くの人が、これまで以上にラグビーを身近に感じるようになったと思います。それは2年後に向けて、どれだけ大きなことか」

 2009年、ニュージーランドは西さんに「メリット勲章五等勲士」を贈っている。同国の発展に寄与した人に授けられるものだ。仲間を大切にする国が、損得抜きで尽くすこの人を、友であり同志と認めたからこその栄誉といっていいだろう。
 ニュージーランドと太い絆で結びつく西さんは、愛する国の魅力をもっともっと多くの人たちに知ってもらいたい。
「今回のコーチングの内容を見て、本当に、これが日本のあちこちでおこなわれればいいのに、と思いました。大分で独り占めする気なんてありません(笑)。これが広まって、日本のラグビーが大きく変わってくれたらいいなあ」
 怒鳴って子どもたちを萎縮させるより、愉快なジェスチャーで楽しさを伝えるコーチングを。
 笑う門には福来たる。
 そうやって、『日本中をわかそう♨』を実現しよう。