久保裕也(ゲント)の魅力は、観ている者を身震いさせるほどのスケールの大きなゴールを決めてしまうところだろう。11月…

 久保裕也(ゲント)の魅力は、観ている者を身震いさせるほどのスケールの大きなゴールを決めてしまうところだろう。11月24日のロイヤル・エクセル・ムスクロン戦で決めた1発も、まさに超ド級のスーパーゴールだった。



スーパーゴールで完全復活を印象づけた久保裕也

 1-1で迎えた39分。ハーフラインを越したところで、久保がボールを持った。このとき一度、久保はストライカーのママドゥ・シラにパスを出そうとする。しかし、すでにパスコースは相手に切られていた。

「自分で行くしかない」

 そう覚悟を決めた久保は、40メートルの単独ドリブルを敢行。まずは左右の足から見せる細かなタッチとシザースで相手ふたりをかわすと、さらに待ち受けるふたりのディフェンダーを見るや、両者間のギャップを突いてシュートを放った。

「芸術的!」

 現地のテレビ実況は叫び、久保のスーパーゴールを賞賛した。

 さらに74分、久保はワンツーの起点となってDFディラン・ブロンのゴールもアシスト。結果、3-1でムスクロンを下し、チームの勝利に大きく貢献した。

 試合後、ベルギー人記者が「調子が戻ってきたね」と声をかけると、久保は英語でこう答えた。

「コンディションが戻ってきて、自信も取り戻した。重たく感じていた身体もフィットしている」

 さらにベルギー人記者が「これで今季5ゴール目。チーム内の得点王になったけれど、昨季の11ゴール以上を狙う?」と尋ねると、久保はひと言、「もちろん!」。復活を強烈に印象づける夜となった。

 今季が開幕してしばらく経ったころ、現地で出会ったベルギー人に「僕はゲントの久保裕也を見るために、この街に来たんだ」と言うと、こんな答えが返ってきた。

「久保はうまい選手だよね。彼が1月に決めたクラブ・ブルージュ戦のフリーキックは本当に美しかったよ。ゲントでの1シーズン目、久保は絶好調だった。だけど、どんな選手にとっても2年目は難しい。久保も今、苦しんでいるよね」

 ヤングボーイズ(スイス)からゲントへの移籍が発表された4日後の1月29日。デビューマッチでフリーキックを任された久保は完全アウェーのなか、鮮やかな弾道で壁越しにゴールを決めて「寿司ボンバー」の称号を得た。さらに3月12日のワースラント=ベフェレン戦では、長距離ドリブルから4人抜きで伝説的なゴールも記録する。久保は移籍後わずか半シーズンで11ゴールを奪い、ベルギーリーグにセンセーションを巻き起こした。

 だが、今季は開幕からつまずいた。久保は毎試合訪れる決定機に、ことごとくシュートミスしてしまったのだ。「昨季の裕也は40メートルの距離からもゴールを決めたのに、今は1メートルのシュートも決まらない」。当時ゲントの指揮を揮っていたハイン・ヴァンハーゼブルック監督(現アンデルレヒト)も、今季の不調ぶりを嘆いていた。

 久保の不振の兆候は、6月の国際マッチウィークのころからあった。この時期の欧州組はシーズン終了後ということもあり、まずは疲労を取ることを優先する必要がある。特に久保はベルギーリーグ特有の事情もあって、より注意深くコンディションメニューを組まなければならなかった。

 ベルギーリーグの「プレーオフ1(上位6チームによって優勝とCL&EL出場権を争う)」は、短期間で10試合ものビッグゲームをこなさないといけない。インテンシティ(プレー強度)が非常に高く、メンタル的にもタフなものだ。よって、ベルギーリーグのトップクラブでプレーする選手の疲労度は総じて高い。

 6月13日に行なわれたW杯アジア最終予選のイラク戦。久保はフル出場こそ果たしたものの、疲労困憊で痛々しさすら伝わってくるほどのパフォーマンスだった。しかもこの試合で、久保はひざを負傷してしまう。

 久保はコンディション不良とひざの負傷を抱えてのシーズンインとなった。その結果、第7節のオーステンデ戦で”ごっつぁんゴール”を決めるまで、今季まさかの無得点が続いた。ちょうどこのころ、私は前述のベルギー人から「2年目のジンクスの話」を聞いたのである。

 久保が復調した暁(あかつき)には、本人から『2年目のジンクス』について話を聞いてみたい――。ムスクロン戦でスーパーゴールを決めた試合後、そのタイミングは今だと思った。

―― さきほどベルギー人記者が「ベルギーリーグが終わって、日本代表の試合もあって、今季の開幕時は身体が重かった」という話をしていました。今、久保選手が完全に復調したと見越したうえで聞きますが、今シーズンの最初はいろいろ苦しんでいたのでないですか?

「はい、はい」

―― 以前ベルギー人に「今日は久保を見るためにベルギーに来たんだ」と話すと、「久保は昨季すごかったけど、2年目というのは難しいんだ」と言われました。それは日本で言うところの「2年目のジンクス」だと思いますが、やはり久保選手も2年目の難しさを感じましたか?

「2年目の難しさというより、シーズンの最初はひざのケガで身体がフィットせず、出遅れたことで(勢いに)乗れずという感じだった。ただ、チームも調子がよくなかったから、『2年目のジンクス』とはあんまり感じていないです。実際、今は点が獲れていますしね。だから、自分のコンディションやチームの状況次第で全部変わるかなと思っています」

―― 今季初ゴールとなったオーステンデ戦の”ごっつぁんゴール”のようなものでも、自身の状況はガラッと変わるものですか?

「変わると思います。やっぱり1点獲れると自信がつくし、かなり変わると思いますね」

―― オーステンデ戦の試合後、あのシュートを打つときは「緊張していた」と言っていました。

「それまでずっと、ゴール前で外すシーンが多かったですから。『コンディションがよくないから、最後のところで息が上がってシュートを吹かしちゃうのかな?』とずっと考えてました。ただ、『冷静さがあれば、最後のところも決められる』とも思ってましたから」

 10月に入ってからは3ゴールと、久保のシュートはコンスタントに決まり出した。そして11月には「ゴラッソ(スーパーゴールという意味のスラング)」も生まれた。もはや久保にとって、「2年目のジンクス」は関係ない。

 ひざのケガを治してコンディションを上げ、少しずつゴールを決めさえすれば調子は戻ると信じ、そして復活を遂げた久保裕也――。スーパーゴールの目撃者となれた今、彼を追い続けてよかったと思うのだ。