J2最終節を前に、名古屋グランパスはすでにJ1昇格プレーオフ進出が決まっていた。問題は、準決勝の対戦相手がどこにな…

 J2最終節を前に、名古屋グランパスはすでにJ1昇格プレーオフ進出が決まっていた。問題は、準決勝の対戦相手がどこになるのか、だった。

 そのとき最終節の結果次第で名古屋と準決勝で対戦する可能性があった(プレーオフ進出の可能性を残していた)のは、徳島ヴォルティス、東京ヴェルディ、松本山雅、ジェフユナイテッド千葉の4クラブ。そんな大混戦のプレーオフ進出争いをくぐり抜け、名古屋への挑戦権を勝ち取ったのは、千葉だった。

 名古屋にしてみれば、多少なりとも「よりによって千葉と当たるとは……」の思いがあったに違いない。というのも、今季の名古屋にとって千葉は、”天敵”とも言うべき存在だったからだ。

 名古屋は今季リーグ戦で、千葉に対して2戦2敗。2戦合計スコアは0-5である。名古屋は千葉の”カモ”にされていた。そんな表現も大袈裟ではない。しかも、千葉はリーグ戦の最後を7連勝で締め括(くく)っていた。どこにも増して、勢いがあるのは明らかだった。

 リーグ戦3位の名古屋が、6位の千葉に食われてしまうのではないか。番狂わせの予感が少なからず漂うなかで行なわれた準決勝は、しかし、終わってみれば4-2。FWシモビッチのハットトリックを含む4ゴールで、名古屋がリーグ戦の借りを返す快勝を収めた。



ハットトリックを決めて勝利に貢献したシモビッチ(右)

 過去の歴史を振り返ると、J1昇格プレーオフではリーグ戦成績上位が下位に敗れる番狂わせは少なくない。それを考えれば、絶対に気を緩めることのできない天敵との対戦が、結果的に名古屋にとっては幸いしたのかもしれない。

 千葉との対戦が決まってからの1週間、名古屋は非公開練習のなかで、徹底して千葉対策に取り組んできたという。

 システムも、従来の4バックから3バックへ変更。守備時は両サイドのMFがしっかり下がって、サイドのスペースを埋めた。キャプテンのFW佐藤寿人は語る。

「ジェフの(攻撃の)ストロングポイントは、ロングボールとワイド(両サイド)に人がいること。(FWラリベイへの)ロングボールからセカンドボールを拾われ、サイドのスペースを使われると、2列目にいい選手がいるので苦しくなる。それで前回はやられてしまった」

 実はこの両チームは2週間前、最終節直前の第41節でも対戦している。結果は、名古屋のホームゲームでありながら0-3。名古屋の完敗だった。

 手痛い敗戦だったが、まだ生々しい記憶として残っていることは、逆に名古屋にとっては好都合だったのだろう。「ジェフがロングボールを蹴ってくるときは、両サイド(のMF)が下がってセカンドボールを拾う。(5バックに近い形にはなったが)割り切って対応ができたので、ジェフのよさを出させなかった」と、佐藤寿は言う。

 また、名古屋は攻撃でもショートパス主体のつなぎにこだわらず、シンプルに最前線のシモビッチへと長いボールを入れる策を選んだ。千葉の武器であるハイプレスを回避するためだ。佐藤寿は当然のように言う。

「相手にとって何が嫌か。つなぐことが目的ではないし、絶対につながなければいけないわけではないから」

 千葉のプレッシングを避けるように、シモビッチへと送られるロングパス。本来の名古屋らしい攻め方ではなかったかもしれないが、その効果は絶大だった。佐藤寿の双子の実兄でもある、千葉のMF佐藤勇人が厳しい表情で振り返る。

「シンプルに(前線へボールを)入れてくるのはわかっていても、(シモビッチは)高さがあって、足もと(の技術)もある。(シモビッチのポストプレーから)技術のある選手に前向きにボールを受けられてしまうと、前回(3-0で勝った試合)みたいにボールを奪ってショートカウンターというのは、簡単ではなかった」

 試合は、名古屋の狙いどおりに進んだ。だからこそ、前半終了間際という嫌な時間に先制点を許しても、「今までにないくらい、前半からよく声が出ていた。ハーフタイムのチームの雰囲気もよかった」と、佐藤寿は振り返る。

 前半の戦いぶりを「試合の入りもよかったし、選手は落ち着いていた」と振り返った風間八宏監督もまた、選手たちに「後半45分でしっかり勝とう」と伝え、自信を持って送り出した。その結果が、大量4ゴールでの逆転勝ちである。

 名古屋にツキがあったのも確かだ。61分の同点ゴールは、相手DFのクリアボールがMF田口泰士の右腕に当たり、こぼれたボールを田口自らが拾ってシュートを決めたものだった。本来なら、ハンドの反則が適用されるべきプレーである。

 しかし、そのワンプレーが勝敗を分けた要因のすべてではないだろう。

 千葉は攻守両面で自らの武器を封じられ、なかなかリズムに乗ることができなかった。互いに長いボールを用いたことで、行ったり来たりが激しくなった試合は、名古屋にとっても本来望むものではなかったかもしれないが、そうした慌ただしい展開が、徐々に選手個々の能力(技術と言い換えてもいい)の差を浮き彫りにしていった。

 すなわち、名古屋優位の展開である。佐藤寿が語る。

「ジェフは今まで積み上げてきたものを出せたから(シーズン終盤で)連勝できた。でも、やることがはっきりしているのでわかりやすい。逆にジェフは、システムも含めて、こっちがどうやってくるかはわからなかったのかもしれない」

 こちらがチョキを出すと予想して、相手はグーを出してくるなら、パーを出せばいい。

 もちろん、千葉がそこでチョキを出せるなら勝機はあったが、自らが目指すスタイルをシーズン終盤にようやく確立したばかりとあっては、チームとしても選手個人としても、そこまでのオプションは備わっていなかったということだろう。

 選手個々の能力で優位に立つ、名古屋だからこそできた千葉封じだった。殊勲のハットトリックを決めたシモビッチは語る。

「90分間ゲームをコントロールしていたのは、自分たちのほうだった」

 とはいえ、J1昇格プレーオフはまだ準決勝が終わっただけ。名古屋はまだ何も成し遂げてはいない。同点ゴールを決めた田口も「次が大事。次の試合で結果を出さないと意味がない」と決勝を見据える。

 12月3日に行なわれる決勝の相手は、名古屋と同じく、1年でのJ1復帰を目指すアビスパ福岡である。福岡のリーグ戦総失点36は、湘南ベルマーレと並ぶJ2最少タイ。彼らが築く堅陣を崩すのは容易(たやす)いことではないはずだ。

 それでも、名古屋にひるむ理由はない。名古屋のリーグ戦総得点85はJ2最多。J2最強の攻撃陣を引っ張るシモビッチは、堂々と言い切る。

「今、頭のなかにあるのは、”我々がいたJ1”に帰ることだけ。そのために決勝でしっかりと勝ちたい」

 かつてはJ1の頂点をも極めた名古屋が、奈落の底に突き落されて1年。戻るべき場所まで、あと一歩である。