2年目のシーズンを終えたオリックス田口2軍監督、指導者としての現在地 今季からオリックスの2軍が拠点を移した舞洲サブ球場…
2年目のシーズンを終えたオリックス田口2軍監督、指導者としての現在地
今季からオリックスの2軍が拠点を移した舞洲サブ球場を主戦場に、田口壮2軍監督兼打撃コーチが指揮官として2年目のシーズンを終えた。新シーズンを前に出版された自著の中で、田口監督は1軍に上がる選手は「目」が違うと説き、試合に臨む際の「集中力」の重要性を強調した。それらの要素は、他ならぬ指揮官自身の姿が最も雄弁に物語っている。
9月上旬のある日、新しい本拠地では、打撃ケージの後ろから田口監督がグラウンドに向かった真っ直ぐ視線を注いでいた。暑さの厳しいデーゲーム前だったが微動だにせず、その表情は変わることがない。汗を流す選手たちを凝視する姿には、現役時代にNPBで12年、MLBで8年を戦い抜いた百戦錬磨のキャリアが滲み出ていた。そこで培ったものを、田口監督は指導者として、いかに還元しようと考えているのだろうか。日頃から身を置くファームと、自らを育んだパ・リーグの魅力を語ってもらった。
――舞洲への本拠地移転は春先から話題を集めましたが、そのことで変化はありましたか。
「僕自身はそんなに変わっていないですね」
――練習設備などが、とても充実しました。
「それはありますね。ロッカー、室内練習場、グラウンドが近くなりました。施設もトレーニング機器も良くなっているし、室内練習場も広くなったので、その点では凄く便利になりましたね。効率良く練習できるようにはなったと思います」
――選手からそのような声は上がっていますか。
「選手とは、あまりそういう話はしないですよ。ただ、当たり前のように彼らは施設を使用していますが、便利さというのは感じていると思いますね」
――今季はチーム防御率が1点以上も良くなっていますが、本拠地球場が広くなった影響もあったのでしょうか。
「本拠地球場が変わったから防御率が良くなるかといえば、そうではないと思います。おそらく、1つの要因として考えられるのは、競争が激しくなったこと。チームに投手が41人もいて、1軍と2軍のベンチ枠を皆で競争して取り合うわけですから。去年はそんなことはありませんでした。若干名は試しで入る選手もいますけど、2軍でも勝負できる選手がベンチに入っていく。あとは徹底的に勝負ができるように、去年のオフシーズンから『真ん中でいいから、しっかりストライクを取れ』という指示を出してやってきました。秋のキャンプではとにかく真ん中だけで、春のキャンプは真ん中からボール1個分ぐらいずらすように。『コースは絶対狙うな』ということをやってきたので、その結果として四球の数が減っています」
2軍での指導は「なるべくシンプルにと思っています」
――現役時代には走攻守で活躍した田口監督ですが、どの分野での指導が多いのでしょうか。
「どれぐらいタッチしているかな。ちょっとですよ。基本的には全部、担当コーチに任せるようにしています。その中で一応、打撃コーチの肩書がついているので、バッティングだけはまあまあ言いますけど。ただ、僕も打率3割を打っていたバッターではありません。それを考えると、3割を打たなくてもこの世界で20年ぐらいは生きられる術というのは色々あるので」
――技術面に加えて、自身の経験も伝える機会があるのではないですか。
「経験を伝えるということはなかなか……。聞かれないと言えないですよね。あまり自分から『俺こうだったから』というのは嫌じゃないですか。昔の話を引っ張り出してくるみたいで。時代が違うし、僕がやっていたのは過去の話だし。聞かれたら『こんなことがあったよ』という話はできますけどね」
――様々な課題を挙げていた就任1年目の昨季を踏まえて、今季はどのようなことを意識して臨まれましたか。
「基本的にいろんなことをやりたいし、やってもらいたい。ただ、すべてを詰めようとすると、迷ってできなくなるというのが2軍の選手の現状。そうならないように、なるべくシンプルにと思っています。ピッチャーにしてもそうだし、野手にしてもすべてシンプルに。常に言っているのは『ピッチャーはストライクを投げて勝負してください』、『バッターは形をしっかり作って思いっきり打ってください』という単純なことですね。それにちょっと枝葉がついてくるぐらいで、基本的なことばかりやっています」
――監督2年目は試合中に感情を表に出さないようにしたいとも語っていました。
「そうですね。今、ようやく出さなくてよくなりつつあるかなと思っています。去年はベンチが静かだったり、ピッチャーも意図が見えなかったりしたので、結構怒鳴っていたし、自分から声も出していました。今年に入ってからは、僕が何も言わなくてもベンチで声が出るようになってきたので、そういうところは変わりつつあります」
――監督と選手の距離感というのも繊細だと思います。
「最近思うのは、彼らは僕のことを監督だとは思っていないということです(笑)。これは100%断言できますね。挨拶はちゃんとしてきますけども、普段の接し方や僕に対する態度は、お父さんか友達かどっちかですね。そんな感じです」
――田口監督の現役時代とは選手の気質も違いますか。
「僕も20年やったので、そこは徐々に変わってくるじゃないですか。最後の方では変わったなと思っていました。ルーキーの頃は何と恐ろしい世界だろうという時代でしたから。時代とともに変わってきているのは感じますね」
一流選手は振る舞いも一流「イチローはそう」
――過去と現在、それぞれに良さがあると思います。
「良くない面というのは、あまり取り上げたくないですね。そこは、今のいい部分でどう補うかを考えます。なるべく怒らないようにしているし、いいところを褒めながら、じゃあ、これやってみようかと悪い部分にちょっと付け加えたり。そうした教え方が多分、彼らにはやりやすい、受け入れやすいのだという気がしますね」
――現役時代にアメリカの野球も経験されて、考え方などが違うのは仕方がないと割り切れるようになったと話されています。
「考え方というのは、年をとるごとに変わっていくものだと思っています。ずっと一緒であるべきではないと思うし、時代とともに変えるべきだとも思う。その点では、アメリカに行ってまったく違う文化を見て、まったく違う野球を見たことが凄く刺激になっています。新しい考え方も、違う考え方もできるようになった。日本にいる時はとても堅い人間で『こうじゃないといけない』というのがありましたね。それがアメリカに行くと『何でもいいか』と」
――野球の技術面はもちろん、それ以外のことでも受け入れられるようになった、と。
「そうですね。特に野球以外ですね。野球の技術に関しては確固たるものがないと通用しない世界だし、精神的な強さも必要で、芯を持ってないとやられちゃう世界ですから。その辺は一本通っていますけど、野球をするために必要な要素以外の部分は何でもいいです」
――繊細さと図太さが必要なのだと以前、語っていました。
「そこは外せないと思いますね。何が起きても動じずに、何かあっても『そんなの俺のせいちゃうよ』というぐらいの図太さ。『しゃあないやん! 次』という切り替えの早さは必要です。その一方で、野球のプレーや人を動かしていくというところでは、繊細さと責任感がないと、絶対にどこかでミスが起きますね」
――田口監督は技術面以外の重要性についても、様々な表現を用いて言及されています。
「基本的には人間性が全部出てくるということだと思います。どこのレベルの野球、どこの世界の野球でもそう。日本でもアメリカでも、一流の選手はやっぱり一流の振る舞いをしていますよね」
――特に、それを強く感じた選手を挙げていただけますか。
「イチロー(マーリンズFA)はそうですよね。アルバート・プホルス(エンゼルス)も。他にもいっぱいいますけどね。代表的な、皆さんが名前を知っている選手となると、彼らの名前が挙がります」
――人間性が積み重なって、個人やチームの成績にも影響を与えてくる。
「そうした部分がないと言えば、嘘になると思います。プレー以外の面でもきちんとしたチーム、しっかりしたリーダーがいるチームというのは強くなっていくでしょう。それは否定できない。そこにプラスして運も絶対に必要だし、あとは怪我人の問題などもある。すべてがうまくいけば、どのチームにも優勝する可能性はあるだろうなとは思います」
(後編へ続く)(「パ・リーグ インサイト」藤原彬)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)