2014年以来となるベストナインに選ばれた今宮健太(ソフトバンク)は、次のようなコメントを残した。「正直、驚いてい…
2014年以来となるベストナインに選ばれた今宮健太(ソフトバンク)は、次のようなコメントを残した。
「正直、驚いています。守備を含めて、本塁打や打点ではある程度の成績を残せましたが、打率は周りの選手よりもよくない数字だったので……」
おそらく「驚いています」と語ったのは、前半戦打撃好調だった茂木栄五郎(楽天)や、パ・リーグの新人王に輝いた源田壮亮(西武)の活躍を受けてのことだろうが、多くの野球ファンは今宮の受賞に異論はないはずだ。

ゴールデングラブ賞に続き、ベストナインも受賞した今宮健太
今季、「2番・ショート」として141試合に出場し、打率こそ.264に終わるも、14本塁打、64打点、15盗塁はいずれも自己ベストを更新。犠打数もリーグトップの52をマークした。一方で、ショートの守りでは12球団トップとなる守備率.988を誇るなど、攻守で存在感を見せつけた。
そんな今宮の野球を楽しんでいる様子が伝わるプレーを見ていると、明豊高校(大分)時代に本人から聞いた幼少期の話がよみがえってくる。
野球を始めたのは本人の記憶によれば「2歳か3歳の頃」だったという。母の一子さんを相手にビニールのグラブをはめ、柔らかいボールで行なう”キャッチボール”が始まりだった。やがて入団した少年野球チームでは、父の美智雄さんが監督で、一子さんがコーチを務めていた。
「そこで野球のイロハを教えてもらいました。打てなくなったら母と一緒に、夜でもグラウンドに行ってティーバッティングをしていました」
また、物心がついたときから大のホークスファンで、子どもの頃、家族旅行で向かう先はいつも福岡だった。朝早くに大分を出発し、雁ノ巣でファームの練習を見て、そのあと近くのバッティングセンターで打ち込み、夜はヤフオクドームでナイター観戦。「いつか自分もこの場所でプレーしたい」という思いを抱き、大分へ帰っていったという。
小学1年から上級生に交じってプレーし、6年になるとキャプテンでエースを任された。中学時代も活躍したのち、強豪校である明豊に進学した。
今宮のプレーを初めて見たのが、高校1年秋の神宮大会だった。チームは2回戦で明徳義塾(高知)に敗れたが、今宮は「1番・ショート兼ピッチャー」として堂々のプレーを披露し、何より印象に残っているのが試合後のコメントだった。
「絶対また明徳とやって勝ちたい。同じ相手には負けたくない」
あどけなさが残る表情とは裏腹の強烈な負けず嫌いな性格。そうした雰囲気と攻守にマルチな才能を見せる今宮に、無限の可能性を感じた。
そこからチームの中心選手として3度の甲子園に出場。高校通算62本塁打に、投手としても最速154キロをマーク。ショートの守備でも高校生離れした超人的なプレーを次々と披露。「打つのも投げるのも守るのも、全部極めたい」と語っていたように、まさに根っからの”野球小僧”だった。
今年行なわれたDeNAとの日本シリーズでも、今宮は随所で野球小僧ぶりを見せつけた。なかでも、リプレー検証の末に決勝点となった2戦目の走塁は、今後も語り継がれるであろう名場面となった。
1点を追う7回、二死満塁で中村晃がライト前に弾き返したが、会心のライナー性の打球にライトは強肩の梶谷隆幸。さすがにタイミング的には厳しいように思えたが、頭から滑り込んだ今宮の左手がタッチよりも一瞬先にベースに触れ、間一髪の攻防を”神の手”で制した。
試合後、着替えを終えた今宮に「スタート、コーナーリング、スライディング。究極の走塁だったのでは?」と聞くと、「そんなことないです。当たり前のことをやっただけです」という答えが返ってきた。だがそのあと、「(ホームへの)ヘッドスライディングは初めです」と言った。
「足からいくと(相手捕手が)タッチしやすいかなと……手からいく方がセーフになる確率があるかなと思ってやりました」
これまでも間一髪のプレーは幾度となくあっただろうが、それまで一度もやってこなかったヘッドスライディングをこの大一番で選択した技術と度胸に、あらためて今宮の野球センスを感じずにはいられなかった。
またこの試合では、ロペスの打った三遊間の完全なヒット性の打球を最深部で捕り、ノーステップスローでアウトにしてみせた。本人もベストナインの授賞式で「これまでで一番のプレー」と挙げたようだが、これまで数え切れないほどの試合を観戦してきたが、あの打球をあの位置で捕球してアウトにしたのを見たことはなかった。
さらに、第4戦では観客席に飛び込みながらもファウルフライを捕球。第5戦でも二遊間のゴロを、精一杯手を伸ばして捕球し、体を回転させながら送球して楽々アウトにしてみせた場面もあった。
まさに、今宮ならではのプレーだった。こうした様々な好プレーを生む大きな要因に、深い守備位置がある。これを可能にするのは、フットワークのよさはもちろん、かつてマウンドから154キロを投げ込んだ強い肩があってこそ。
以前、一子さんからこんな話を聞いたことがある。
「赤ちゃんのときに(おもちゃの)ガラガラを渡すと、普通の子はそれを振って音を楽しむのに、健太はすぐに投げるんです。それを見て『ああ、この子は野球をやるために生まれてきたんだ』って思ったんです」
ただ、今回の日本シリーズに関していえば、「打者・今宮健太」の部分では、本人も物足りなさが残ったはずだ。先にも書いたが、今シーズンの今宮は本塁打、打点で自己最多の記録。思い切りのよさと大きなスイングは高校時代を思い出させた。
また左投手にめっぽう強く、対右投手の打率.242に対して、対左投手は.352と高打率を残している。その対左投手について、忘れられない思い出がある。
今宮が高校3年のとき、打倒に燃えていたのが花巻東のエースで高校ナンバーワン左腕と評されていた菊池雄星(西武)だった。
3年春のセンバツ2回戦で菊池と対戦した今宮は、第1打席でヒットを放つも、あとの打席は見逃し三振、ファーストゴロ、セカンドゴロ。打ち取られたのはいずれも内角に食い込んでくるストレートで、今宮はまともにとらえることができず、チームも完封されて敗れた。
「100%投げてくるとわかっていても打てなかった。スピードも威力もあった」
そう振り返った今宮は、それ以降、菊池の内角ストレートを”インズバ”と表現するようになった。”インズバ”を打つために菊池との対戦映像を何度も見返し、打撃練習では4~5メートル前から投手に投げてもらい、インコースを繰り返し要求した。
その効果があったのか、今宮は3年の春から夏にかけて約30本塁打を放つなど量産。堂々の”二刀流”となって夏の甲子園に戻ってきた。
待ちに待った菊池との再戦は準々決勝で実現したが、菊池は背筋痛の影響もあり”インズバ”を投げることなく5回途中で降板。今宮は春からの成長をライバルに見せることなく、試合にも敗れ高校野球生活を終えた。不完全燃焼のラストではあったが、”打倒・菊池”に費やした時間が無駄ではなかったことは、今季の対左投手の成績からもわかる。
だからこそ、好投手が並ぶDeNAの左腕に対して今宮がどんな活躍を見せるのか注目していた。今宮も「(1番打者の)柳田(悠岐)さんの調子がいいので、僕に勝負の場面が回ってくるはず。そこで決められるようにしたい」と語っていた。しかし、結果は6試合で21打数4安打、打率.190と振るわなかった。それでも、シリーズでは6つの犠打を一度も失敗することなく決め、リーグ最多犠打男の面目は保った。
ベストナインの授賞式で、今宮はこうも語っていた。
「来季も今季以上の成績を残して、続けて受賞していけるように頑張っていきたい」
本人のなかで、より大きな可能性を感じているのがバッティングのはず。小柄な右打者のイメージを覆(くつがえ)す新たな”2番打者像”の確立を期待しつつ、個人的には”インズバ”のさばきにも注目したい。
打って、走って、送って、守って……”野球小僧”今宮健太の2018年が今から待ち遠しい。