■山本由伸ら多数のアスリートが師事する矢田修さんに単独インタビュー
柔道整復師の矢田修(やだ・おさむ)さんは、1959年香川県生まれ。1980年に大阪府大阪市で「矢田接骨院」を開業した。同院で院長を務める傍ら、1988年には教育・研究機関「キネティックフォーラム」を設立。全国各地で勉強会を行いながら、トレーナーや治療家の指導にあたってきた。
近年はドジャース・山本由伸投手の専属トレーナーとしても注目を集める矢田さんに、今回単独インタビューで話を聞いた。
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■世界を見据え図ったモデルチェンジ
矢田さんは長年の臨床データをもとにした理論「BCトータルバランスシステム」を確立。独自に編み出した「BCエクササイズ」は、ウエイトトレーニングに頼らず、“立つ、歩く、走る”という身体本来の自然な動きを取り戻すメソッドとしてスポーツ界でも注目を集める。
矢田さんに師事し、このプログラムに取り組んできたのがドジャースの山本だ。山本は2016年に宮崎県・都城高からオリックスにドラフト4位で入団。高校時代から右肘の痛みに悩まされる中、1年目の春に知人を介して矢田さんと出会った。“世界”を見据える中で、「そこに行くためにはフルモデルチェンジが必要」という矢田さんの一言をきっかけに、BCエクササイズに取り組むことを決意する。矢田さんは山本の決断を振り返りながら、二人三脚の日々をこう語る。
「山本くんの夢は非常に明確でした。会話やミーティングで決まったわけではなく、彼を見ていればどこを目指しているか分かる。“同じレールに乗っている”という感覚です。特別なことではなく、同じ空気を吸っているという感じでしたね」
野球界では常識とされてきたウエイトトレーニングに頼らないBCエクササイズに取り組むことを決意した山本。ストローを用いた呼吸法やブリッジ、やり投げなどのトレーニングを地道に積み重ねた。その効果は徐々にパフォーマンスに反映され、3年目の2019年に防御率1.95を記録して最優秀防御率に輝く。さらに2021年からは3年連続で投手四冠(最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率)を獲得。沢村賞とMVPも3年連続で受賞するなど、プロ7年目、25歳にして日本最強右腕へと上り詰めた。
山本はBCエクササイズに取り組む中で投球フォームを変化させるなど、投球のメカニズムにつなげるための進化を続けた。矢田さんとのトレーニングを通じて正しい身体の使い方を習得し、球速や球質の向上を実現するなど、投手としての完成度を高めていった。
■ド軍移籍2年目に見せた真価

ドジャース・山本由伸(C)Getty Images
2023年オフにはポスティングシステムを利用し、メジャー挑戦を表明。山本をめぐっては各球団による争奪戦が繰り広げられた。そんな中でも矢田さんの接骨院に何度もスタッフを派遣するなど、山本を作り上げたBCトータルバランスシステムに強い関心を示していたのが、ナ・リーグ西地区の名門ドジャースだった。
「山本くんがドジャースに入る前、いくつかの球団がここを訪れて、BCトータルバランスがどういうものか調査に来られました。各球団が多く来られる中で、ドジャースは山本くんが入団する前から一番熱心に足を運ばれていました。それでだいぶ理解していただいたと思います」
ドジャースと12年総額3億2500万ドル(約465億円)の大型契約を結んだ山本は、1年目こそケガによる離脱も経験したが、メジャー移籍2年目の2025年に真価を発揮した。
30試合に登板して12勝8敗、防御率2.49、201奪三振を記録し、エースとしてシーズンを投げ抜いた。さらにワールドシリーズでは3勝0敗、防御率1.02の圧巻の投球を披露。第7戦では“中0日”で登板し、球団初の2年連続世界一の胴上げ投手となり、日本選手では松井秀喜以来となる同シリーズMVPの快挙を成し遂げた。

ワールドシリーズのMVPに選出された山本由伸(写真中央)(C)Getty Images
このメジャー史に残る活躍は山本の実力を証明するとともに、矢田さんが提唱してきたBCトータルバランスシステムの有効性を示す結果にもなった。山本の成功は、長年積み重ねてきた理論を世界へ広げる“拡声器”の役割も果たした。
■今春キャンプではベッツが“弟子入り”
トレーナーとして2026年もドジャースを支える矢田さんが目指すのは、東洋医学と西洋医学の“架け橋”となる役割だ。これまで積み重ねてきた理論を伝えるにあたり、「言語化できないものをどうやって伝えるか」を課題としながら、言葉だけでなく身体を通して理解を促進させようと試みている。
「西洋っていうのは木を見て森を見ず、ことわざ通りです。でも、じゃあ東洋はっていうと、森を見て木を見ずだと思うんですよ。我々が目指すのは東洋と西洋の架け橋。言うならば、木を見て森も見る」
2026年のスプリングトレーニングではムーキー・ベッツ内野手がやり投げトレーニングなどを通して“弟子入り”する姿も伝えられるなど、自身の理論を世界一球団に惜しみなく伝えている。山本やベッツ以外の選手も興味を示しており、選手から相談される機会も増加。ますます強固な信頼関係を築いている。
Mookie Betts was working out with Osamu Yada, Yoshinobu Yamamoto’s longtime trainer that famously tricked him into pitching in World Series Game 7.
Mookie was captured throwing javelins and carrying Yada on his shoulders 🤣
📸: Kpopsns28/Reddit pic.twitter.com/hNueyR2SsB
— Dodgers Nation (@DodgersNation) February 26, 2026
「正直、ドジャースには感謝しかありません。他のチームは経験していないので比較はできませんが、日本のチームより理解があると思います。山本くんだけでなく、他の選手とも物事がうまく進むよう配慮していただいている。本当に最高のチームだと思います」
ドジャースのエースとして、山本にはデーブ・ロバーツ監督をはじめ、チームメイトからも惜しみない賛辞と厚い信頼が寄せられている。WBCを経てメジャー3年目のシーズンもさらなる飛躍に期待がかかるが、矢田さんは山本の“現在地”について「不安要素より若干、安心材料のほうが多い。まだまだ成長する自信はある」と力を込める。
世界一の投手への挑戦――その壮大な夢は決して山本のみのものではなく、“伴走”する矢田さんにとっても大きな目標だ。

矢田さんは全国で勉強会を行いながら、トレーナーや治療家の指導も行う
「私は山本くんと同じ未来を見ている。彼の夢を一緒に追いかけさせてもらっているだけです。もちろん世界一のピッチャーを目指しています。ただ、サイ・ヤング賞やノーヒットノーランは結果としてついてくるもの。獲れるかどうかは運の要素もあると思います。ただ、何度もそういう舞台を目指せること、それを彼も私も目指しています」
40歳までの現役を希望する山本に対し、「彼が40歳まで投げ続けたら、僕はその時には80歳になってしまう」と矢田さんは笑みを浮かべながらも、その野球人生を共に歩んでいく強い意志を示している。野球界に革命を起こし、世界最高峰の舞台で輝く日本人右腕を支えてきた名トレーナーもまた、同じ夢を追いかけ続けている。
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