「世界一のスクラム」 フランス代表の“ラ・メレー”をそう公言し続けたのはエディー・ジョーンズ前日本代表ヘッドコーチだ。 実際、オーストラリア、イングランド、ウェールズと多国籍だったコーチングスタッフの中で、スクラムに関してはフランス人のマル…

「世界一のスクラム」
 フランス代表の“ラ・メレー”をそう公言し続けたのはエディー・ジョーンズ前日本代表ヘッドコーチだ。
 実際、オーストラリア、イングランド、ウェールズと多国籍だったコーチングスタッフの中で、スクラムに関してはフランス人のマルク・ダルマゾ コーチが担当。
 2015年ワールドカップで3勝したエディージャパンの成功がスクラムの安定なしにはあり得なかったことに異論を挟む向きはないだろう。
 ルーマニア、ジョージア、あるいはイタリア。
 フランスに影響を受けたであろう強いスクラムの欧州チームとの対戦を続け、時には蹂躙されながら、ダルマゾの考えを自分たちの組み方に生かしてスクラムを構築していったエディージャパンだったが、フランスバーバリアンズやバスク選抜などフランスのチームとの対戦はあったものの、“世界一のスクラム”のフランス代表自体と対戦することはなかった。

 奇しくも同・前HC就任直前の2011年ワールドカップ以来の対戦となる、今回のフランスとのテストマッチ。
 選手以上に、“世界一”と組み合うことを楽しみにしているのが、長谷川慎スクラムコーチかもしれない。
 ダルマゾの後を継ぐかたちになった長谷川コーチもフランスのスクラムに特別の思いを持ってきたラグビー人だ。
 自身が出場した2003年ワールドカップのフランス戦で「トイ面に勝っているのに全体では押される」という、それまで経験したことのなかったスクラムの奥深さを知り、2011年に単身で、それ以降はヤマハ発動機のFW陣を引き連れ、何度もスクラムだけを探求しにフランスに乗り込んできた。
「2011年に来た時にめちゃくちゃよくしてくれたのがギ・ノヴェスとヤニック・ブリュ」
 現在、フランス代表の監督、そしてFWコーチを務めている2人は、当時はトップ14で圧倒的な強さを誇っていたスタッド・トゥールーザンを指揮していたのだ。
「ミーティングに入れてもらったり、スクラム練習も中で見させてもらった。本当に楽しみだし、光栄」
 武者修行で単身フランスに乗り込んだ時に面倒を見てくれたトゥールーズの巨匠2人が、長谷川コーチと時を同じくして代表チームに携わるようになったのも何かの因縁ではあるだろう。ブリュ(現役時代はHO)とは2003年のワールドカップで実際に対戦してもいる。
 そんな長谷川コーチの存在がなければ、今回のフランス遠征でトンガ戦前に行われたトゥールーズとのスクラムセッションも実現してなかったかもしれない。先発メンバーに関しては対等に組み合えたという。
「フランスはスクラムをこう組んでくるというのはない。そのコーチによってバラバラ。いまのフランス代表はブリュのスクラム。強いだけではなく、引き出しが多い」(同コーチ)

 選手の中で、フランスとの再戦に特別な思いを抱いているのはHO堀江翔太。
長谷川コーチが単身フランスに乗り込んだ2011年、ジョン・カーワンHCが率いたジャパンはワールドカップニュージーランド大会初戦でフランスと対戦(21ー47で敗戦)。堀江はHOで先発出場した。
「11年は全然だめでした。まだHOになって3年目くらい。いまと比べると全然違う。スクラムに関しても、システムも何もない状態だった」
 6年前のワールドカップでの惨敗後、単身、南半球に渡り、当時は夢物語でもあったスーパーラグビーでの経験も積んで世界で通用するHOに成長した事実は改めて紹介するまでもないだろう。
「マイボールでもディフェンスでもガンガンプレッシャーかけていきたい。いまはスクラムコーチがちゃんとしているし、対等にやれるようになってきている。自信持って臨める」

 堀江が「慎さんの組み方」と表現する現在のジャパンのスクラムが“世界一”のフランスに対してどこまで通用するのかを試す一戦ともなる2017年のラストゲーム。堀江とともにFW第1列で“世界一”の圧力に対峙する役割を担う稲垣啓太、具智元の両PRにとっても、屋根付きの新スタジアム(Uアレーナ)のこけら落としとなるフランス戦がその後のラグビー人生に何らかの影響を与えることにはなるだろう。
「(フランスは)スクラムをカルチャーとしている国。そこをターゲットにしてくる。そこの強みを出させなければ、試合の雰囲気もこっちに流れてくる。一人ひとりの仕事を100%やり切れるかどうか」(稲垣)
「相手より低くて8人でまとまる。相手が押してきても、強い姿勢で耐える。日本代表のスクラムに慣れてきた」(具)

“ブリュのスクラム対慎さんのスクラム”。
 14年前とは形を変えて向き合うことになった肉弾戦の行方が、試合の趨勢(すうせい)の少なくない部分を左右するのは間違いないだろう。
「力を漏らさないようにする。組んだ瞬間に力が漏れていくようだと、その瞬間に崩れていく。フランスは押したがるので、それを逆に利用したい」と、フランス戦のスクラムでのポイントを語る長谷川コーチだが、思わず「人工芝で良かった」という本音も。
 相手のホームゲームながら、フランス代表にとっても慣れない環境での試合となる点も生かして、“世界一”に対抗する。(文:出村謙知)