トッテナム・ホットスパーは、1882年に創設されたロンドンの名門クラブだ。過去にはガリー・リネカーやポール・ガスコ…
トッテナム・ホットスパーは、1882年に創設されたロンドンの名門クラブだ。過去にはガリー・リネカーやポール・ガスコイン、ダビド・ジノラ、テディ・シェリンガムなどのスター選手が在籍している。しかしながら、近年は成功とは無縁の日々を過ごしてきた。イングランド1部リーグのタイトルを獲得したのはわずか2回。それも直近のもので1961年まで遡らなければならない。
だが、3年前にマウリシオ・ポチェッティーノ監督が就任してからは着実に力をつけ、今やビッグトロフィーの獲得を現実的な目標とするまでになっている。11月21日に行なわれた、チャンピオンズリーグ(CL)のドルトムント戦(グループリーグ第5節)の前日会見で、45歳のアルゼンチン人監督は「2、3年前と比べると、成長した自分たちの姿にとても満足している」と語った。

ドルトムント戦を勝利に導いた、ハリー・ケインとソン・フンミン
個人的に彼の会見に参加するのは初めてだったが、想像の通り、深みのある男の姿がそこにはあった。そして、ポチェッティーノはこう続ける。
「今では、CLやプレミアリーグの優勝を期待されるようになった。人々が我々を批判することも歓迎する。それは期待の裏返しでもあるのだから」
その会見の翌日、サポーターの熱と威圧感では欧州でも有数と言っていいドルトムントのホームスタジアム(BVBシュタディオン)で、彼らは見事な逆転勝利を収めた。すでにグループH突破を決めていたトッテナムにとって、敵地での勝利はマストではなかったはずだが、不振を極めるドルトムントは、充実一途をたどる彼らの敵ではなかった。
トッテナムは、「5−3−2」の陣形で自陣にコンパクトなブロックを作り、ドルトムントの攻撃を受け止め、ボールを奪うとすぐさま反撃に転じる。ここまでの勝ち点がわずか「2」しかないホームチームは、是が非でも白星を手にしたい。両チームが置かれている状況を考慮すれば、ドルトムントがボールを保持し、スパーズが逆襲を狙う形は妥当なものだった。
スタンドから「BVB!!」(ドルトムントの略称)の大きなコールを受けたドルトムントは31分、アンドリー・ヤルモレンコのバックヒールのパスを、ピエール・エメリク・オーバメヤンが確実に仕留めて先制する。前半終了5分前には、GKロマン・ビュルキがエリック・ダイアーの至近距離からのヘディングシュートを見事にセーブ。週末のシュツットガルト戦で信じられないようなミスを犯し、地元紙から「スイス・チーズ」と、スカスカの守備を揶揄(やゆ)されたスイス人GKは、汚名返上とばかりにビッグセーブを披露。試合を1-0で折り返した。
「ハーフタイムに『もう少し勇敢になろう』とボスに言われた。そして僕らはしっかりとそれに応えたんだ」
トッテナムのダニー・ローズがそう振り返ったように、15分の休憩を経て、アウェーチームは”健全な欲”を見せるようになる。ここで勝利を収めれば、1試合を残して首位通過が決まる。そうなれば、ラウンド16ではシードチームとなり、今後の展望が描きやすくなるのだ。
後半が始まると、トッテナムは生え抜きの21歳のアンカー、ハリー・ウィンクスを中心にボールを回し、主導権を握る。すると49分には、こちらも21歳のデレ・アリからのパスを受けたハリー・ケイン――下部組織出身の24歳の大エースだ――がさっそく同点とする。
こうなると、連敗続きのドルトムントは不安定なメンタルを露呈し始め、ここ最近、ほぼ毎試合のように見せてきた守備陣のイージーミスが目立つようになる。また、66分にベンチに下がった香川真司は、この日も効果的なプレーはごくわずか。同じ背番号23を背負う、トッテナムのクリスティアン・エリクセンのパフォーマンスには到底及ばなかった。
さらに、両チームのアジア人同士を比較すれば、現状はそこにも大きな差が横たわる。76分に再びアリのアシストから逆転ゴールを決めたのは、韓国代表FWのソン・フンミン。ドルトムント戦を得意とする25歳のアタッカーは、ブンデスリーガ在籍時から数えて、対ドルトムント10試合で8得点目を記録した。
試合後に「なぜドルトムント戦に強いかは、僕自身にもわからない」と話したソンは、「あるいは、こんなに素晴らしいスタジアムで楽しもうと思ってプレーすることが、いい結果につながっているのかもしれない。ここでゴールを挙げれば、自信にもなるしね」と笑顔を見せた。
この試合を楽しもうとしたのは、先制点を決めたケインも同じだ。
「僕らは後半にすごくよくなったよね。冷静に逆転できたのは、(3節の敵地での)レアル・マドリード戦の引き分けで自信を得たことが大きいと思う。その後のホームではレアルに勝利を収め、どんな相手にも恐れる必要はないと思えるようになった。そして僕らは、『フットボールを楽しむべきだ』と考えられるようになったんだ」
懐の深い父親のような指揮官によって才能を開花させる若い選手たちが、高度な戦術のなかで自らを表現する。経験値も高まり、大舞台や強豪にも臆することはなくなり、苦手としてきた代替本拠地(本拠地が新スタジアム建設のため)のウェンブリーでも結果を出すようになった。
では、ノースロンドンでしばらく雌伏のときを過ごしていたスパーズが、本当にタイトルを獲得できるのだろうか。
「我々は楽しんで、勝負にこだわり、結果を残そうとしている。すべての試合に、そう臨んでいるんだ」
ポジティブな表情でそう語るポチェッティーノ監督を見るかぎり、その可能性を否定することはできない。