F1ハース代表・小松礼雄インタビューwith白幡勝広(元ウイリアムズ・メカニック)後編「大きなレギュレーション変更にも立…

F1ハース代表・小松礼雄インタビュー
with白幡勝広(元ウイリアムズ・メカニック)後編

「大きなレギュレーション変更にも立ち向かえる」

 2026年シーズンのF1は、まったく新しいレギュレーションのもとでスタートを切った。日数の限られた開幕前テストが重要なのは毎年変わらないが、今シーズンは各チームいずれもトラブル覚悟の姿勢で臨むため、例年以上に時間との勝負となる。

 注目を集めるアストンマーティン・ホンダは、テスト序盤からトラブルが重なって苦しいスケジュールを強いられた。新しいマシンと新しいパワーユニット、そして初めてのタッグだけに、シェイクダウンはやらなければならないことがあまりに多い。

 その一方で、ハースのチーム代表に就任して3シーズン目の小松礼雄はテストの結果を踏まえて、2026シーズンをどんな立ち位置で挑むのか。小松代表とは「旧知の仲」で、2022年までウイリアムズのメカニックとしてF1界で活躍した白幡勝広氏が質問をぶつけてみた。

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今季のハースは中団グループでどの位置に立てるか

 photo by Haas F1 Team

── バルセロナとバーレーンでの合計3回のテストでは、それぞれどんなプログラムを進めてきましたか?

「まずバルセロナでは、マシンの信頼性確立と新しいパワーユニットの初期データ収集をしました。そしてバーレーン1週目は、エネルギーマネジメントの改善を進めると同時に、マシン挙動のセンシティブさを解消し、安定性を高める調整を進めました。そしてバーレーンの2週目に、開幕戦に向けた最終調整を進めたというかたちですね。

 完璧とは言えないまでも、着実にこなすべきことはこなしてこられたと思います。シーズン開幕に向けた準備としては、まずまず満足のいく状況です」

── 2026年の開幕前テストが終わりましたが、ハースは順調そうだよね。実際には裏側で大変なこともたくさんあったと思うんだけど。

「バルセロナの走行2日目にはトラブルが出ました。ただ、問題が出たのはよくないこととはいえ、初日に154周も走ったからこそ2日目にそのトラブルが出たわけで、そうやって前倒しで問題を発見できたのはいいことだったんです。

 あの時点では、フェラーリPU(パワーユニット)勢でもウチが一番マイレージを稼いでいました。その順調に走れているということが相乗効果になって、とてもいい流れができています。マシン開発のオペレーションやプロセス、プログラム、製造のマネジメントもすごくよくできていると思います」

【トップ4チームははるか彼方】

── 昨年は現場のチームスタッフを大きく入れ換えて、ある意味で痛みを伴う改革を行ないました。現場オペレーションのレベルアップを目指してきたわけだけど、今年の開幕前テストでのオペレーションは100点満点に近づいてきている?

「完璧かと言われれば、完璧ではないと思います。でも、及第点をあげてもいいとは思います。今年はテストプログラムもしっかりと実行できているし、午前10時のセッション開始と同時に走り始めて、ランチブレイクの間にドライバーチェンジの作業も完了して、1時間以上ガレージで時間を無駄にするようなこともなくなりました。

 トラックサイドでのオペレーションは、確実に進歩しています。正確さや性能の高さは、まだまだ改善の余地があると思っていますけどね。でも、今年はパワーユニットもまったく新しいので、ラップを重ねるごとに学ぶことがある状態で、これだけマイレージを重ねられているのはいいことです。

 走れなくて、そうやって土台となる部分をしっかりとカバーしないと、何も勉強できないんです。だから、とにかくこういう新しいレギュレーションの時は、まず走ることが第一。走らないことにはトラブルもわからないし、性能を追究することもできないわけです。そういう意味では、ウチは一歩一歩、ちゃんとやれていると思います」

── ここまでのテストを見て、ハースはどのあたりのポジションにいると見ていますか?

「普段のシーズンですらエンジンモードや燃料搭載量の違いがあってわかりにくいのに、今年はオーバーウェイト(重量過多)で走っている人もいれば、パワーユニットが全然駄目な人たちもいます。マシンを理解・熟成していくプロセスのなかで、それぞれがまったく違うフェーズにいるので、勢力図は見えにくいし、正確なことは言えません。

 それでもわかっているのは、トップ4チームははるか彼方にいる、ということです。その後ろにけっこう大きなギャップがあって、ウチだとかアルピーヌ、アウディ、レーシングブルズがいる状態。少なくともその(中団グループ上位の)集団のなかにはいると思います。

 ギャップが拡大することは予想していましたけど、トップ4チームが僅差なのと、中団グループもすごくタイトな争いになっているのは、すごいことだなと感心しています。2014年の新規定の時は、もっとタイム差が大きかったですからね。ウチらにとってはものすごくタフな状況ですけど、F1全体にとってはすごくいいことだと思います」

【ウチは純粋にレースをやるため】

── 新規定の2026年シーズン、中団チームにとってはどんなところにチャンスがあると考えていますか?

「チャンスは『基本』にあると思います。もちろん0.1秒単位のマシン性能もすごく大事ですけど、特にシーズン序盤はレーススタートやピットストップ、予選のエネルギーマネジメントといった『基本』でみんな苦労するし、落とすことがものすごく多いと思います。

 そういう時には、とにかく基本に忠実にやることです。最後の0.05秒をひねり出すみたいな難しいことを考えるよりも、まず基本をしっかりとこなすのが、すごく重要だと思います。

 速さでは敵わない相手に対しても、そういうことをしっかりやるところにチャンスがあると思うし、相手がミスをした時にその場にいなきゃ、そのチャンスは掴めないわけです。だから、そこにいられるようにするのがチャンスであり、目標であり、自分たちがやるべきことだと思っています」

── 目先の結果を焦って取りにいかず、本当に自分たちがやるべきことに集中して、確実にこなしていくのは、チーム代表就任直後から強調していましたよね。

「急いでないわけじゃないし、一番忍耐力がない人間は僕だってよく言われますけどね(笑)。外から見て僕が急いでいないように見えるんだったら、ウチのヤツらに言ってみてくださいよ『アヤオは急いでないよ』って。そしたら、みんなビックリすると思いますよ(笑)。

 でも、しっかりとやるべきことに集中しているのが、ウチのチームのいいところだと思いますよ。何をやるにしても、ウチはシンプルに、すべてレースが最優先という『レースチーム』なので」

── 僕がいたウイリアムズも、まさにそういうチームでした。

「そうですよね、今はそういうフランク・ウイリアムズさんみたいな人がいなくなっちゃいましたよね。ウチはホスピタリティにしても、広報にしても何にしても、『すべてはコース上のパフォーマンスのためにある』というのがハッキリしているんです。

 ウチは広告宣伝のためにやっているわけでもないし、市販車を売っているわけでも、エナジードリンクを売っているわけでもない。ウチはとにかく純粋にレースをやるためだけに『レースチーム』として存在しているチームですから」

── ありがとうございました。2026シーズンはより一層の活躍を期待しています。

「ありがとうございます、期待に応えられるようにがんばります。カッツさんもたまにはいいネジ、締めにきてくださいよ(笑)」

<了>

【profile】
小松礼雄(こまつ・あやお)
1976年1月28日生まれ、東京都出身。高校卒業後にイギリスに渡ってラフバラー大学で自動車工学を専攻する。大学院時代にF3チームのメカニックとなり、2003年にタイヤエンジニアとしてB・A・Rに加入。2006年からルノーF1(のちのロータスF1)でレースエンジニアやトラックエンジニアを務め、2016年に創設されたハースへ移籍。レース現場の技術責任者、技術部長を経て2024年よりチーム代表に就任。

白幡勝広(しらはた・かつひろ)
1973年1月28日生まれ、東京都出身。東京工科専門学校の教師として学生を指導していたが、ヨーロッパのチームでメカニックになる夢を追いかけて2004年に渡英。ベルギーのF3チームを経て、2006年にウイリアムズのテストチームのメカニックとして採用される。2008年よりトップチームに昇格し、中嶋一貴、ニコ・ヒュルケンベルグ、ブルーノ・セナ、バルテリ・ボッタスなどの担当メカニックを歴任。現在はフジテレビNEXTのF1解説などで活躍中。