長い冬を越え、ようやく春が訪れた。2大会ぶりに最高峰のパラリンピックに出場するパラアイスホッケー日本代表は、最終予選トッ…

長い冬を越え、ようやく春が訪れた。2大会ぶりに最高峰のパラリンピックに出場するパラアイスホッケー日本代表は、最終予選トップ通過の勢いそのままに「16年ぶりの勝利」を目指す。

ホッケーの神様が微笑んだ最終予選

3月6日に開幕するミラノ・コルティナ2026パラリンピック冬季競技大会。パラアイスホッケーは、オリンピックの熱狂が冷めやらぬミラノ・サンタジュリア・アイスホッケーアリーナで行われる。

日本は2大会ぶりのパラリンピック出場。この切符は、2025年11月に行われたイェスハイム2025ワールドパラアイスホッケー最終予選(ノルウェー)での劇的な勝利でつかみ取ったものだ。

最終予選から笑顔で帰国した熊谷ら日本代表photo by Asuka Senaga

6ヵ国総当たりで争った最終予選。初戦を落とし窮地に陥るも、そこから猛然と這い上がった。とくに第2戦のスロバキア戦は、1点ビハインドの状況で残り2分を切ってから若手エース伊藤樹のゴールで追いつき、試合終了間近にキャプテンの熊谷昌治が決めて3-2で逆転勝ち。最終日に望みをつないだ日本は、ベテラン須藤悟らの得点でホームのノルウェーから値千金の白星を挙げてパラリンピック行きを決めた。

熊谷は、激闘をこう振り返る。

「(負けていたので)キャプテンとしては、心が折れていた。それでも、若い選手たちに『大丈夫』と励まされ、最後はあきらめない気持ちで相手を追いかけ回してパックを奪った」

12人が初出場

最終予選でチームを指揮した宮崎遼コーチは、若手とベテランが融合したチームを「ハイブリッドJAPAN」と呼ぶ。

注目は、ケガをする前からアイスホッケー選手で高い得点力とパックキープ力を持ち合わせる伊藤、チーム随一のスピードを持つ森崎天夢、最終予選で大会最多タイの7得点を挙げた鵜飼祥生の“20歳トリオ”だ。

左から森崎、伊藤、鵜飼の“20歳トリオ”photo by Hiroaki Yoda

パラリンピックには12人が初出場。エースの伊藤は、最終予選後、体調不良で2ヵ月の休養を余儀なくされたが、2月の代表合宿で復帰。「チームにスピードが戻ってきた」と鵜飼も待ちわびていた様子だった。伊藤は「(苦難が続いており)自分にとってパラリンピックという場所はあまりにも遠いと思い知らされた」と苦笑い。それでも「パラリンピックは、ホッケーの神様が俺にくれたチャンス」と前を向き、筋力アップに励んでいる。

鵜飼、森崎の成長が表しているように、スポーツ庁の選手発掘事業「J-STARプロジェクト」を通じて競技を始めた選手が育っているのもチームの特徴だ。ミラノ・コルティナ大会の代表にはJ-STAR出身者が6人選出されており、16歳で最年少の河原優星もそのひとり。「J-STARでホッケーを教えてくれた(パラリンピック4回出場でバンクーバー大会銀メダリストの)須藤選手を勝たせたい」と本番に向けて気持ちを高めている。

2018年の平昌大会ではキャプテンを務めた須藤photo by X-1

他にも、三澤英司、𠮷川守という1998年長野大会からパラリンピックに出場している大ベテランがおり、最終予選ではチームの精神的な支えとなった。「うちのチームのおじさまたちは、みんなイケオジ」と伊藤が言えば、「親と息子ほど年は離れているが、逆に教えてもらうことも多い」とは三澤。双方向の高め合いがチームの結束力を強めている。

また、日本代表は、2022年にかつてカナダ代表として活躍したブラッドリー・ボーデンがハイパフォーマンスディレクターに就任。スレッジの操作からシュート技術まで、世界トップのノウハウを注入。若手だけではなく、ベテランの進化も後押しした。

キャプテンの熊谷は「パラリンピックでは、まず1勝を目指したい」と語る。

2018年の平昌大会を未勝利で終えたため、パラリンピックでの最後の白星は、銀メダルを手にした2010年バンクーバー大会以来ということになる。

日本が出場した2018年の平昌大会。1勝が遠かったphoto by X-1

今大会は、当時と同じ中北浩仁監督がベンチに入るが、「最後のご奉仕。これで勇退するつもり」と不退転の決意を表明。「メダルも夢じゃない。黄金時代を迎えられるベースを作って次に渡したい」と誓った。

16年前に中北監督は、当時世界ナンバーワンの実績を持つ地元カナダ戦を前に『カナダに9999回負けても、この1回だけは勝て』と選手を鼓舞した。そして、日本は準決勝でカナダに勝利。ミラノ・コルティナ大会では、この時以来の勝利を期待したい。

最終予選で日本の勝利に貢献したGKの堀江航も注目選手photo by Hiroaki Yoda
初戦の相手はチェコ

ミラノ・コルティナ大会には8チームが出場し、4チームずつ2つのグループに分かれて予選を戦う。各グループの上位2チームが決勝ラウンドに進み、下位のチームは5位~8位を決めるためのトーナメントに回る。

グループBの日本を待ち受けるのは、ホッケー大国のカナダ、世界ランキング3位のチェコ、最終予選で日本に敗れ雪辱を期すスロバキアだ。

チームを率いる51歳のキャプテン熊谷photo by X-1

日本は3月7日の初戦で当たるチェコ戦に焦点を当てて取り組んでおり、「相手は体が大きく、スピードもあるが、粗いところもある。守りの戦術でミスを誘いたい」と中北監督。

エースの伊藤も、チェコ戦に向けて意気込みを語る。

「初戦が一番大事なので、勝ち切れるホッケーをできればいいなと思う。点を取らないと勝てないので、全力で勝ちにいきます」

2030年に開催されるフランス・アルプス大会のメダル獲得が大目標。2030年にピークを迎える若手選手が今回のパラリンピックでどんな戦いをし、その経験を血肉にできるか。

日本のパラアイスホッケー界の真価が問われる大会になる。

若手エースの伊藤photo by X-1

<出場チーム>

グループA

・アメリカ(2025年Aプール世界選手権1位/世界ランキング1位)

・中国(2025年Aプール世界選手権4位/世界ランキング4位)

・ドイツ(2025年Aプール世界選手権5位/世界ランキング5位)

・イタリア(2025年Bプール世界選手権1位/世界ランキング7位)

グループB

・カナダ(2025年Aプール世界選手権2位/世界ランキング2位)

・日本(2025年Bプール世界選手権2位/世界ランキング8位)

・チェコ(2025年Aプール世界選手権3位/世界ランキング3位)

・スロバキア(2025年Aプール世界選手権6位/世界ランキング6位)

text by Asuka Senaga

key visual by X-1