「人とやらないことをやれ」―。プロボクシング世界3階級制覇王者・中谷潤人(28)=M・T=は両親の教えを胸に、中学卒業…
「人とやらないことをやれ」―。プロボクシング世界3階級制覇王者・中谷潤人(28)=M・T=は両親の教えを胸に、中学卒業後は高校に行かず、単身で米国に渡るなどオリジナルの道を歩んできた。その結果、3階級で頂点に立ち、5月には東京ドームでスーパーバンタム級の世界4団体統一王者・井上尚弥(32)=大橋=との対戦が期待されている。中谷が今、感じることをつづるコラム「BIG BANG!」第11弾は、原点となる米国武者修行の「前夜」を振り返りつつ、ビッグマッチへの強い決意を披露した。
今月17日の年間表彰式「JAPAN BOXING AWARDS 2025」で、昨年に続き技能賞をいただきました。これを励みに、今後のキャリアにさらに弾みをつけていきたいと思いました。式では、MVPに選ばれた尚弥選手が「今年5月、東京ドームで中谷潤人と本気でぶつかります」とコメントされていましたが、僕も同じ気持ちで調整しています。正式発表ではないものの、そういう心意気と感じ取れたので、より一段と練習の質を高めて仕上げていきたいと思います。
プロを目指して、中学卒業後に一人でアメリカのロサンゼルスに渡ったのが2013年。一戦一戦、大切に戦って、積み上げてきました。それは僕にしかできなかったこと。だから今、こういう“場所”にいることができるんだなというのはすごく感じています。父(澄人さん)からは「人のやらないことをやりなさい」という教えをもらいました。(元東洋太平洋スーパーバンタム級王者の)石井広三会長にボクシングのいろはを教えてもらい、会長が12年に亡くなってから米国に行く決断をしました。この時点ですでに“オリジナル”ができていると感じますし、それは自分の強みになってくると思います。周りが高校に行くから自分も行くという判断ではなく、僕はボクシングの世界チャンピオンになることが目標だったから、そのためには何が必要というのを逆算して、中学卒業後は高校に行かず、一人で米国に行くチョイスができたことは、両親の教育と、それをさせてくれた環境があったから。出発する時、必要な物は現地で買えばいいと思っていましたが、母(府見子さん)は事前にいろいろな物を準備してくれました。不安や心配を胸にしまい、僕が気づかないことをして背中を押してくれました。
渡米までに毎晩遅くまで、家族で話し合いをしました。両親はお店(三重・東員町で鉄板・お好み焼き店『十兵衛』)を営んでいましたから、お店をしまってから、弟(龍人さん)と4人でご飯を食べながら夜中まで家族会議。米国のどの場所に行き、どんな活動をしていくのかなど、世界チャンピオンになるための話し合いを重ねました。僕ら兄弟はお店の常連さんたちにかわいがってもらっていて、いろんな話を聞かせてもらう機会が多く、時にはアドバイスをもらいました。そういう“教え”はすごくプラスになりました。最初の愛称「愛の拳士」は、常連さんの一人につけていただいたんですが、その方にも話し合いに加わってもらったことも。常連さんたちはいろんな情報を、情熱を持って語ってくれました。両親やその方々の熱い思いを受けて話し合える時は、すごくいい時間でした。
多くの人に言われたのは「後悔だけは残るから」ということ。父は常々、「後悔することは、生きていく上で一番良くない。でも、『悔い』っていうのはどうしようもできないから、そういったところはないようにやってくれよ」って。今では毎試合、両親から「悔いのないように、やってきたことを存分に発揮すること」という言葉をもらうんです。それは僕の戦いに臨むスイッチになっています。
あるインタビューで、父は「自分がやっていないことをアドバイスするのは難しい」と話したんですが、それこそが自分自身が歩んできている、オリジナルの道なんだと実感しました。家族が協力してくれて、常に一緒に歩んできてくれたことはすごく心強いです。
ネットやSNSなどを見て、尚弥選手との戦いへの期待が大きくなっていることは感じています。実際、自分が不利と言われていることは十分承知しています。でも、それは、周りの意見ですから。僕は、そこと勝負しているわけじゃない。僕は井上尚弥選手を倒すためにはどうするか、っていうところで勝負しているんです。それを体現、表現できたらいいなと、そういう思いで頑張っています。
シャドーボクシングやサンドバッグ打ちなど、尚弥選手と戦うイメージを描いてやったりもします。尚弥選手の弱い点をつかんでいるのかと聞かれたりします。想像というか、仮定の部分で、ある程度、こういうところは突いていけるなっていうのはもちろんあります。とはいえ、やっぱり、実際に向き合ってみないと分からない部分はたくさんあります。でも、逆にそれが楽しいというか、そういう戦いの方がヒリヒリします。僕は、そういう戦いを求めてきましたから。こういう環境に自分がいられることがありがたいですし、そういう思いで、しっかり戦っていきたいなって感じです。感謝! 感謝!(世界3階級制覇王者)
◆中谷 潤人(なかたに・じゅんと)1998年1月2日、三重・東員町生まれ。28歳。中1からボクシングを始め、2015年4月にプロデビュー。19年2月に日本フライ級王者、20年11月にWBO世界同級、23年5月にWBO世界スーパーフライ級、24年2月にWBC世界バンタム級王座獲得で3階級制覇。25年6月にWBC、IBF王座を統一し、スーパーバンタム級に転向。身長173センチの左ボクサーファイター。戦績は32戦全勝(24KO)。家族は両親と弟。