「いや、神様じゃないですか。仏だと思います」 2026年ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で連覇を目指す侍ジャ…
「いや、神様じゃないですか。仏だと思います」
2026年ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で連覇を目指す侍ジャパンの宮崎合宿2日目。ブルペンから引き上げてきた隅田知一郎(西武)は、ダルビッシュ有(パドレス)の存在について問われると、こう答えた。
野球界でこの表現から思い浮かぶのは、歴代8位となる通算276勝を挙げ、1961年には空前絶後のシーズン42勝を記録した右腕・稲尾和久だ。有名な「神様、仏様、稲尾様」というフレーズは、新聞がその圧倒的な活躍をたたえて生み出した賛辞とされている。
隅田知一郎(写真左)にアドバイスを送るダルビッシュ有
photo by Sankei Visual
【とにかく知識量がすごい】
2月15日、侍ジャパンの宮崎合宿で初めてブルペンに入った隅田は、ダルビッシュと話し込んだ。
「カーブの握りや曲がり方、あとは今年からシュートも投げているので、そこを教わりました。ちょっと半信半疑の部分があったので、自分のなかで確信を持ちたかったんです。『こういう握りにしたらいいな』というのを決めたかったので、アドバイスをいただきました」
26歳の隅田にとって、13歳上のダルビッシュと会うのは前日が初めてだったという。
「いやぁ、本物の人がいるんだなと。これまでテレビでしか見たことがなかったので......。球界を代表する日本人投手ですし、本当にすごいなと。みんなが『仏だよ』と言っていましたが、本当に仏のような方でした」
どんなところが仏なのか。
「初対面なのに、体のことを気にかけてくださって。野球のことはもちろんですが、とにかく知識量がすごいなっていうのは感じましたね」
ダルビッシュは日本ハム時代の2009年、22歳で初出場した第2回WBCで優勝投手となった。その後はMLBを代表する投手へと成長し、36歳で迎えた2023年の前回大会では日本代表をまとめ上げ、3大会ぶりの世界一に大きく貢献した。
今回は右ヒジのリハビリのためメンバーから外れたが、井端弘和監督の要請を受け、侍ジャパンのアドバイザーとして宮崎合宿の全日程に帯同した。投手陣にはピッチングの助言を送り、首脳陣には対戦相手のデータ分析を早めに進めるべきだと提案した。
さらに、ピッチコムやピッチクロックへの対応策を、投手陣だけでなく野手陣にもアドバイスするなど、豊富な経験と知識を惜しみなく伝えた。
【野球界に対する考え方がすごい】
前回、チームメイトとして共に優勝を味わった髙橋宏斗(中日)は、自身のリハビリ中にも関わらず、アドバイザーを務める姿に感銘を受けた。
「本当にすごい方ですよね。とにかく、人としてすばらしすぎる。何かを聞けば、いろいろなことを丁寧に教えてくれるので、ほんとにすごい方だなと毎日思っています」
初出場の藤平尚真(楽天)は、マウンド上での勇気をもらったと語る。
「僕はメジャーリーガーと対戦したことがないので、ダルビッシュさんの経験というのは、戦う時に大きな材料になると思います。高めの使い方など、いろいろと教えていただきましたし、『藤平くんは少し特殊なフォームだから、自分が思うようにしっかり調整できれば大丈夫だと思うよ』とも言っていただきました。ひと言ひと言に重みがあって、すごく自信につながりました。これからも積極的に話しかけていきたいと思います」
日本ハムの後輩である北山亘基は、あらためてダルビッシュの偉大さを実感したという。
「ファイターズにいると、そのすごさをよりいっそう、身をもって感じます。いろいろな逸話も耳にしますし、そうした前提があるからこそ、余計にカッコよく感じます。本当に尊敬している方なので、一緒にやれるだけですごく幸せです」
同じく日本ハムの後輩で、昨シーズン、沢村賞に輝いた伊藤大海も大きな刺激をもらった。
「やはり野球界に対する考えて方がすごいですね。ご自身が学んできたことを惜しみなく伝えようとする姿勢は、ものすごくリスペクトしていますし、自分もそういう選手でありたいと思っています。もちろん技術面もそうですが、こうした行動は選手たちにも必ず伝わり、受け継がれていくはずです。そこは選手みんなが感謝しているところだと思います」
【サポートメンバーにもアドバイス】
ダルビッシュからすれば、年下の選手たちとも対等に言葉を交わすことで、新たな発見や学びの連続だという。その姿勢は日本代表メンバーに限らず、サポートメンバーの選手たちにも同様に向けられた。
2月21日、翌日のソフトバンク戦に備えて合流した左腕の佐藤柳之介(広島)は、ブルペンに入る前、ダルビッシュにこう声をかけられた。
「気になっているボールはある?」
佐藤が「スライダー」と伝えると、ボールの握り方、力の伝え方をアドバイスしてもらったという。
「スライダーがちょっと大きく曲がりすぎているので......。ジャイロ回転のスライダーというか、真っすぐに似たような通し方をするスライダーを投げたくて、そのための握りと、頭の意識を教えていただきました」
富士大学から入団した昨季、佐藤は5試合に先発してプロ初勝利を挙げた。富士大の安田慎太郎監督はデータ活用に明るいことで知られるが、佐藤は侍ジャパンのサポートメンバーとして活動するなかで、さらに知見を深めることができたと語る。
「(大学でも)ラプソードは使っていたんですけど、あくまで球速、回転数、回転軸ぐらいしか見たことがなくて。トラックマンでは縦横の変化もしっかり出ますし、スロー映像も見られるので、そうしたデータを確認しながら、見方も教えていただきました。それこそ松井裕樹さん(パドレス)の自主トレに参加させてもらった際にも、データの見方を学びました。そうした経験も生かしながら、(サポートメンバーとして)充実した3日間にできればと思っています」
今回のWBCで、アメリカ、ドミニカ共和国と並び"3強"と海外ブックメーカーに評価されている侍ジャパンは、両国よりも長い準備期間を経て本番に臨む。その過程で培われる結束力は、短期決戦におけるチーム力の向上につながるはずだ。
さらに伊藤が言うように、ダルビッシュの「野球界に対する考え方」は、今大会以降もさまざまな形で受け継がれていくはずだ。
捕手のひとり、坂本誠志郎(阪神)はこう話した。
「ダルさんは、僕とかにも気さくに話しかけてくださいますし、本当に知識が豊富で、どんなことを聞いても必ず答えが返ってきます。その点もすごく勉強になっています。ほかのピッチャーたちもいろいろと質問して、多くのことを学ばせてもらっていると思います。今回優勝できた時に、ダルさんのおかげというか、教えてもらったことが生きたと胸を張って言えるように頑張りたいと思います」
ダルビッシュとともに充実した宮崎合宿を過ごした侍ジャパンは、まもなく連覇をかけた過酷な戦いへと向かう。