馬トク報知では今年から過去の名勝負を当時の記事から振り返る【競走伝】がスタート。今回はエアグルーヴが勝った1996年の…

 馬トク報知では今年から過去の名勝負を当時の記事から振り返る【競走伝】がスタート。今回はエアグルーヴが勝った1996年のチューリップ賞を取り上げる。その繁殖生活も含め、現在でも名前を語り継がれる名牝の重賞初制覇だった。

 次元が違った。G1馬を含む他馬たちが止まって見える。エアグルーヴの切れ味は、それほど鋭かった。序盤はインの5番手あたりを追走。3コーナーあたりで、前年の阪神3歳牝馬S・G1を制した1番人気のビワハイジを射程圏に入れた。直線に入り、視界が開けた瞬間、豪脚がうなりを上げる。スッと先頭に立つと、あとは突き放すのみ。5馬身差をつけ、馬上のペリエが高々と左手を上げたゴール板。余裕すら感じさせる勝ちっぷりだった。

 1983年のオークス馬ダイナカールの娘として、デビューから注目を集めていた。いちょうSで牡馬相手に完勝したが、重賞初挑戦だった阪神3歳牝馬Sでは2着惜敗。ようやくつかんだ初タイトルだった。

 その後は桜花賞を発熱で回避したが、ぶっつけで臨んだオークスは完勝した。通算成績は19戦9勝。G1は2勝のみだったが、特筆すべきは牝馬として17年ぶりの勝利だった1997年の天皇賞・秋を始め、古馬になってからの重賞5勝のうち4戦が牡馬相手だったこと。女傑と呼ばれるほどの軌跡は高く評価され、1997年にはJRA年度代表馬にも選ばれた。

 引退後も輝きは増した。娘のアドマイヤグルーヴが03年のエリザベス女王杯で母子3代G1制覇の偉業を達成。息子のルーラーシップは香港でクイーンエリザベス2世Cを制した。他にも重賞2勝に菊花賞2着があったフォゲッタブル、マーメイドS勝ちのグルヴェイグを送り出すなど、日本で指折りの名繁殖牝馬としても知られるようになった。

 しかし、最期は思いがけないものだった。2013年4月23日にけい養されていた北海道安平町のノーザンファームで、流産と不受胎が続いていた中、3年ぶりにキングカメハメハとの牡馬を出産。一度は関係者に母子の無事が確認されたが、出産後の内出血のために天国へと旅立った。20歳だった。

 その後、娘のアドマイヤグルーヴは2冠馬ドゥラメンテを出産。息子のルーラーシップは種牡馬としてキセキ、ソウルラッシュなどのG1馬を送り出した。偉大なDNAは令和の時代も広がり続ける。