(20日、ミラノ・コルティナ冬季オリンピック〈五輪〉スピードスケート女子1500メートル) 左の太ももに手を添えながら…
(20日、ミラノ・コルティナ冬季オリンピック〈五輪〉スピードスケート女子1500メートル)
左の太ももに手を添えながら、もがいた。
高木美帆(TOKIOインカラミ)は分かっていた。自分の勢いが止まっていることも、動きが乱れていることも。
「少しでも早くゴールしたい」
スピードスケート女子1500メートルは、その気持ちだけで必死に滑り切った。
この日の1500メートルに、全てを懸けてきた。
4年前、北京冬季五輪ではキャリアの絶頂にいた。金メダル一つに、銀三つ。2018年平昌と合わせ、獲得したメダルは計7個。日本女子として夏冬通じて史上最多を塗り替えた。
ここを花道に引退する選択肢が浮かんだこともある。それでも、競技人生を見つめ直す中で、「もうちょっとスケートをやりたいと思っている自分がいる」と気づいた。
「思い描いたような滑りができなかったっていうのは、私の中で消えずに残っている」。大本命とされながら銀メダルに終わった北京五輪1500メートルの悔いが、再び頂点を狙う闘志に火をつけた。
日本代表のナショナルチーム(NT)で飛躍した成功体験は、一度脇に置いた。
コーチのヨハン・デビット氏とNTを離れ、二人三脚で活動を始めた。仲間を集め、自身のチームを立ち上げ、切磋琢磨してきた。「みんなにしてあげることはつまり、私のため。全ては五輪で金メダルをとるため」
スケートのブレード(刃)を新モデルに換えたり、体のバランスを根本から見直したり、試行錯誤を繰り返した。過去2大会の五輪を超える自分をつくり上げようと、これまでとは違うアプローチに挑んだ。
しかし、かつてのような成長曲線はもう描けなくなっていた。昨シーズンからは終盤の失速が目立つようになった。
最終組で迎えたこの日、スタートからの滑りは快調に映った。最初の200メートルを全体2位で通過。残り400メートルの地点まではメダル圏内にいた。
しかし「最後の1周はつらかった」。最終ラップの落ち幅が2秒6では勝負にならなかった。
今大会でも三つの銅メダルに輝き、手にした五輪メダルは10個まで積み上がった。ただし、それは慰めにならない。
「自分の挑戦は終わったんだなって」
今はただ、現実を受け止めるのが精いっぱいだった。(松本龍三郎)