◆ミラノ・コルティナ五輪 ▽フィギュアスケート 女子フリー(19日、ミラノ・アイススケートアリーナ) 女子フリーが行われ…
◆ミラノ・コルティナ五輪 ▽フィギュアスケート 女子フリー(19日、ミラノ・アイススケートアリーナ)
女子フリーが行われ、今季限りでの現役引退を表明している坂本花織(25)=シスメックス=が銀メダルを獲得した。ラスト五輪は、フィギュアの個人種目として日本女子初の2大会連続メダルで有終。初出場の中井亜美(17)=TOKIOインカラミ=は銅メダルで、日本選手2人が表彰台に立つのもフィギュア女子で初めてだった。日本は前回22年北京五輪を上回る最多のメダル数を24に伸ばし、冬季通算100個の節目に到達した。
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何度目元を拭っても、坂本の目からは大粒の涙があふれた。その胸には、前回北京大会の銅より輝く銀メダル。それでも本気で頂点を目指したからこそ、悔しさがどんどん湧いてきた。「北京から4年たって、メダルが1個上がっているのに悔しいと思えるのは、いろんな経験を積み重ねてきた成長かなと思う。その成長は褒めたい」。悲願の金メダルには届かなかった。ただ、誇れる自分もいた。
昨年6月、五輪シーズン限りでの現役引退を表明。決意して臨んだ大舞台だった。ショートプログラム(SP)2位から逆転を狙ったフリー「愛の讃歌」。冒頭の流れるようなダブルアクセル(2回転半ジャンプ)からジャンプを決めていくが、後半に落とし穴が待っていた。3回転のフリップ―トウループの連続ジャンプが単発に。4・62点を失い、優勝したアリサ・リュウ(米国)に1・89点差で敗れた。わずかジャンプ1本。中野園子コーチ(73)は「頑張った」と言ってくれたが「もう1個、いい色がよかったというのが正直(なところ)」と吐露した。頂点に手が届きかけた分だけ、無念さはあった。
自分とも闘ってきた。22年から世界選手権3連覇。世界女王となっても、4回転など大技のない滑りに疑問の声も上がった。SNSなどの厳しい言葉には「見た時は、しょげる」。なるべく見ないようにスマホの画面を高速スクロールしても、目に入る度に傷ついた。そんな時、胸に刻んだのは、振付師のブノワ・リショー氏の「跳べないなら跳べないなりに、やり方はある」という言葉。ジャンプの質を高め、演技構成点で勝負する。唯一無二の道を歩むと決めた。割り切って練習し、一つのステップ、ターンに心血を注ぐ。「ロシア勢がいないから勝てる」。心ない言葉を振り払うように、無我夢中で曲をかけ練習を続けた。
今大会はSP、フリーともに、演技構成点は3つの要素すべて、唯一の9点台。フリーの得点上位10人中、技術点は9番目だが演技構成点では断トツだった。ジャンプのミスには「何でああなってしまったかは分からない」と坂本。ただ、身につけた技術こそが、自身を2大会連続メダルへ導いた。団体から大車輪の活躍で日本フィギュアの1大会最多6個のメダルにも貢献。表彰式では少し誇らしげな笑みもみえた。
引退後は、指導者の道に進む。かつて、幼かった頃の坂本は「中野先生になりたい」と夢を語ったことがある。厳しさの中に、優しさがある。そんな理想像を描いている。「(中野コーチから)『あなたが銀だったから、今後あなたが、五輪金メダリストを育てていきなさい』と言われたので。いずれ自分がコーチとして五輪に戻って、教え子をメダルに導いていけるように全力でサポートしていけたら。まだ五輪にふと、現れるかなと思います」。坂本には夢の続きがある。(大谷 翔太)