男子日…

男子日本代表のアシスタントコーチに就任した、シーホース三河のライアン・リッチマンHC。10年前に記した目標を叶えた指揮官が、代表とクラブを兼任する意義や、日本バスケの進化について語った。

インタビュー・文=山田智子

■NBAとBリーグで培った経験をたずさえ、ビギナーズマインドで臨む


――バスケットボール男子日本代表のアシスタントコーチの就任、おめでとうございます。まずは就任の経緯についてお聞かせください。

ライアン・リッチマンHC(以下、リッチマンHC)日本代表の強化委員長である伊藤拓摩さんよりお電話があり、私の10年間のNBAでのキャリア、ここ三河での実績を評価していただき、日本代表のアシスタントコーチをお願いしたいとオファーをいただきました。

 10年ほど前、NBAのコーチを始めて2、3年目のころ、書いた目標の一つに「ナショナルチームのコーチになる」というものがありました。それが叶って、非常にワクワクしました。家族や周りの方たちも「きっと素晴らしい経験になるはずだ」と背中を押してくれました。

――ヘッドコーチは琉球ゴールデンキングスHCの桶谷大さん、もう一人のアシスタントコーチはデンバー・ナゲッツ傘下GリーグACの吉本泰輔さんが務めます。

リッチマンHC 桶谷さんが優れたコーチであることは以前から知っていました。既に何度かミーティングをしてお話していますが、その中で素晴らしいお人柄であることも感じました。

 吉本さんは多くの名将の元で働いてきた、非常に賢いコーチです。私たちは一緒のチームで働いたことはありませんが、NBAでは顔を合わせるといつも親しく話す友人です。今はさらに頻繁に連絡を取り合っていて、テキストメッセージでアイデアを送り合ったりしています。

――日本代表にどのようなものをもたらしたいと考えていますか。

リッチマンHC 私が貢献できるのは、NBAでの10年間で経験してきたこと、Bリーグで約2年間を過ごし、日本の選手やFIBAのゲームスタイルを知っていること、この2つを掛け合わせることで貢献したいと考えています。「ビギナーズマインド」で臨み、選手やコーチたちと協力して、グループとして最高の結果を出せるように力を尽くしたいです。

――シーホース三河で3シーズンコーチを務めてきた中で、日本のバスケのどのような部分に良さを感じていますか。

リッチマンHC 昨シーズンは小澤飛悠選手(現・名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)、今は三浦健一選手(早稲田大学)、境アリーム選手(白鷗大学)が練習生としてトップチームに参加していますが、彼らの姿にとても感銘を受けています。

 私が素晴らしいと感じるのは、田臥勇太選手(宇都宮ブレックス)が成し遂げたことと、八村塁選手(ロサンゼルス・レイカーズ)、渡邊雄太選手、富樫勇樹選手(ともに千葉ジェッツ)、富永啓生選手(レバンガ北海道)、河村勇輝選手(シカゴ・ブルズ2Way契約)など、過去そして現在日本代表で活躍している選手たちが若手選手に「自分たちも特別な選手になれる」という希望を与えていることです。私はナショナルチームの成長に貢献していたすべての先人たちを深く尊敬しています。

 最近では1万人以上の観客の前でプレーをする機会が多くありました。10年前、5年前には考えられなかったことが現実になっています。日本のバスケは目まぐるしいスピードで成長を遂げている。そこが日本のバスケの素晴らしさだと感じています。

■クラブの枠を超えて「日本バスケ文化」を創造。兼任のアドバンテージ


――シーホース三河と日本代表のコーチを兼任するというのはハードなことだと思います。一方で多くの相乗効果も期待できます。

リッチマンHC その通りです。国内の最高レベルの選手たちと一緒に過ごし、「何が彼らのモチベーションになっているか」「何が彼らを特別にしているか」を理解することは三河にとってプラスになるでしょう。一方で、私のコーチングスタイルは三河でも代表でも大きく変わることはないので、例えばプレーコールを知られてしまうなど、対戦相手にわたしたちのシステムを知られてしまうという不利な面もあるかもしれません。

 物事には良い面も悪い面も両方ありますが、より大きな目標のために貢献できることを楽しみたいと思います。Bリーグも素晴らしいですが、ナショナルチームはまた別の重要性があります。クラブの枠を超えて、日本にバスケットボール文化が根付いていくプロセスに貢献できるのですから。

 海外を見渡せば、各クラブのHCがナショナルチームを指揮するのは一般的です。アメリカ代表を見ても、コーチ陣のほとんどが現役のNBAのヘッドコーチと代表のコーチを兼任しています。それこそが、彼らは世界最強のチームたらしめているのです。桶谷コーチが琉球の、私が三河のHCであることは、日本代表チームの大きなアドバンテージになると確信しています。

 三河に関しては、今シーズンで3年目になりますし、経験豊富なスタッフがいますので、全く心配していません。スタッフ全員が何をすべきかを理解して、必要なことをしてくれると信じています。

――特に一緒に仕事ができることを楽しみにしている選手はいますか。

リッチマンHC 非常に難しい……(と、1分ほど考えて)、全員です。やはり特定の誰かの名前を挙げることはしたくありません。

 あえて言うのであれば、三河の西田優大選手、シェーファーアヴィ幸樹選手と、異なる環境で仕事ができるのもとても新鮮ですね。優大選手からは、多くの選手が英語を話せると聞いているので、それは私にとって非常に助かります。

 これまで対戦してきた選手とチームメートとなれることに興奮していますし、代表活動後リーグで再会したときに、これまでとは違う親しみと、遊び心のある競争心を持って接することができるのも楽しみです。

――リッチマンHCのアシスタントコーチ就任が決まったタイミングで、シェーファー選手が代表復帰を果たしたこともうれしいことですね。

リッチマンHC 彼がケガをしたときから、日本代表に戻るということは私たちの目標の一つでした。彼自身が復帰のために努力し、信頼を勝ち取り、出場時間を得て、チームに貢献した。代表復帰は彼のハードワークの賜物であると同時に、彼を支えたコーチ陣、スタッフのサポートの賜物であると誇りに思っています。

 ボックススコアの数字だけを見れば、突出したものはないかもしれませんが、スクリーン、ランニング、ディフェンスなど細かいディティールを非常に高いレベルでこなしてくれます。それによって、いかに勝利に影響を与えているかという部分をぜひ見てもらえたらと思います。

■大きな目標と日々の小さなステップが「五輪のメダル」へ続く


――先ほど、10年ほど前に「ナショナルチームで仕事をする」という目標を書いたと聞きました。他にも掲げた目標はあったのですか。

リッチマンHC ナショナルチームのコーチになること。海外で指導をすること。これは既に叶いました。あとは、優勝すること。NBAのヘッドコーチになること。そして、オリンピックでメダルを獲得すること。です。

 私は、大きな目標を立て、そこに向かって毎日小さなステップを積み重ねることを大切にしてきました。2月8日のレバンガ北海道戦で、私が最後に選手に指示した(ジェイク・レイマン選手が決めた)デザインプレーは、11年前に私がNBAのビデオルームで見たものでした。そのときは、11年後に、しかも日本の試合で、そのプレーがチームを勝利に導くなんて想像もしていませんでした。ですが、そうした日々の小さな努力が、後の人生にどのような影響を与えるかはわからないものです。もちろん、選手が遂行してくれたことが最も重要なのですが……。

 選手たちにも大きな目標を持ってほしい。日本の今のチームなら、オリンピックでメダルを獲ることも可能だと思います。そして、そこに向かって、毎日小さなステップをチーム全員で積み重ねていきたいです。

【動画】就任会見で八村塁について言及する桶谷大HC