2月16日(現地時間)、ミラノ。市内にある「ジャパンハウス」で、スキージャンプ団体混合で銅メダルを獲得した丸山希(女子…

 2月16日(現地時間)、ミラノ。市内にある「ジャパンハウス」で、スキージャンプ団体混合で銅メダルを獲得した丸山希(女子ノーマルヒルも銅メダル)、高梨沙羅のメダリスト会見が行なわれた。丸山は初々しく眩しかったし、高梨は凜として品があった。

「初戦のノーマルヒルが人生で一番緊張した試合でした。2本目を飛び終えて、高梨選手、伊藤(有希)選手がエグジットゲートから出てきてくれて、一緒にハグして銅メダルの瞬間を一緒に喜んでくれたのが、私にとって一番思い出のシーンになりました」(丸山)

「私は混合団体が記憶に残っていて、飛ぶ直前まで希ちゃん、陵侑......あ、ごめんなさい、丸山選手、小林選手、二階堂選手がずっと寄り添ってくれて、最後の瞬間まで背中を押し続けてくれて、心強くスタートを切れました。オリンピックのなかで一番、2本ともジャンプを揃えられたかなって。チームのおかげで取れたメダルを持って帰れると、今はホッとした気持ちです」(高梨)



スキージャンプ混合団体で銅メダルを獲得した丸山希と高梨沙羅 photo by Tsutomu Kishimoto/JMPA

 ふたりの回顧は、シーンこそ重なっていなかったが、色合いは似ていた。ともに戦った同志がいたことが糧になっていたのだ。

 なかでも高梨は、2014年ソチ五輪からメダルを期待され、2018年平昌五輪ではノーマルヒルで銅メダルを獲得したものの、前回の北京五輪では混合団体で暫定首位もスーツの規定違反により失格となった。どれだけ無念だったか。言われなき誹謗中傷も受けた。今回は4度目のオリンピックで、団体で念願のメダルを勝ち取った。

「選抜選手に選んでいただいてから、ずっと緊張していました。自分のジャンプができるのか。正直に言えば、自信が持てていなかったんです」

 高梨はそう言って、共闘に支えられたことを述懐している。

「前日の夜から、"みんなが支えてくれる、寄り添える"感覚がありました。何を言うわけじゃないんです。けど、すごく励ましになって試合に入れました。だから、一緒に戦ったメンバー、日本チームを支えてくださった方々、みんなで取らせてもらったメダルだなって思います。自分の今までのオリンピックのなかでも特別な瞬間でした」

 ともに戦い、高梨の持ち味は引き出されたのかもしれない。

【フィギュアスケート、パシュートでも】

 ふだんは個人で緊張や重圧やストレスと向き合う競技者が団体で戦うとき、日本人はどの国の人よりも力を発揮する傾向があるように見える。バトンをつなぐ。その感覚は特有のもので、陸上や水泳でも見られる現象だろう。技術的なものだけでなく、精神的に"誰かのために"という共有でお互いが励まされ、逆境にも勝てる構造だ。

 フィギュアスケート団体でも、いつもはひとり(カップル競技はふたりだが)でリンクに立ってプログラムを演じる彼らが、ともに戦うことで力を引き出されていた。アメリカにはわずか1ポイント及ばなかったものの、銀メダルを勝ち取った。坂本花織のようなリーダーが音頭を取って、自らもポイントゲッターになれたことも大きかったかもしれない。

「体力面を心配する声はあるかもしれないけど、やっぱり日本が勝つためには『この人しかいない』という戦力で使ってくれるのはうれしい。自分たちも応えたいって思いました」

 坂本はそう言って、「狙って取ったメダル」を心から喜んでいた。

 リンクサイドには各国の応援ブースが用意され、そこで選手やコーチたちが声援を送っていたが、日本はどの国よりも多くの人数が陣取っていた。他の国の選手も仲間を応援しているのだが、日本陣営は自分のことのように歓喜し、激励した。リンクに立つ選手の気概に共感しているからだろう。

「みんながノーミスの演技だったのはすごかったし、この一員になれたことを誇りに思っています」

 鍵山優真もそう言って胸を張ったが、それぞれを思う気持ちがひとつに接続されていた。

 調和という点では、スピードスケート女子団体パシュートは最たるものだろう。

 スピードスケーターはふだん、個人でタイムを争うが、団結して滑ることで互いが高め合う。パシュートは3人一体となって間隔を開けず滑り、風の抵抗をなくしながら前の選手のお尻を押す「プッシュ」で阿吽の呼吸が試される。ひとつの生き物の六臂六足のごとく氷上を滑り、平昌五輪では金、北京五輪では銀を勝ち取り、今や日本のお家芸となった。

 今回のオリンピックでも、日本(髙木美帆、佐藤綾乃、野明花菜、堀川桃香)は準決勝に進出。スピードスケートの盛んなオランダのファンが大勢駆けつけた会場はオレンジに染まっていた。そのなかで激闘を繰り広げたが、本当にわずかな差で決勝には届かなかった。しかし、3位決定戦ではアメリカを一糸乱れぬチームワークで下し、銅メダルを勝ち取っている。

 団体についての議論は賛否が分かれることもある。

 フィギュアスケート男子シングルで絶対王者イリア・マリニンが失速したのは「団体のせいだ」という意見が少なくない。たしかに消耗を考えれば、個人戦を前にショート、フリー2本をやるべきだったかについて議論の余地はある。しかし、彼は犠牲を払っても金メダルに貢献したのであって、アメリカ人がまずはそれを賞賛できるかどうかだろう。本人に批判される筋合いはなく、胸を張っていいはずだ。

 一方、日本はりくりゅう(三浦璃来、木原龍一)が団体で2本を戦って銀メダルに貢献したうえで、個人は逆転で金メダルを勝ち取った。ショートは不覚をとったが、三浦は「自分たちを信じ続ける」と毅然と言い、それを周りも激励した。団体の銀を梃に波濤(はとう)を乗り越えたとも言えるが、これは日本特有のアイデンティティかもしれない。

「今回、ようやく楽しんで(オリンピックの)試合に臨めたと思います。前回大会でやってはいけないことをしてしまい、この場に戻って来られるとは1ミリも思っていなかったですが、仲間のおかげで戻ってこられて、団体のメダルも取ることができました」

 高梨は安堵したように語っていた。交錯する感情から解放された、菩薩のような表情だった。団体でスキージャンプ人生がひとつ実を結んだ、悟りだったのかもしれない。