金メダルを獲得した「りくりゅう」ことペアの三浦璃来と木原龍一 photo by Sunao Noto / JMPA 2月…
金メダルを獲得した「りくりゅう」ことペアの三浦璃来と木原龍一
photo by Sunao Noto / JMPA
2月16日(現地時間)、ミラノ。ミラノ・コルティナ五輪フィギュアスケート、ペアフリーでは暫定1位の選手が座るリーダーズ・チェアに、「りくりゅう」の呼び名で親しまれる三浦璃来と木原龍一のふたりが座っていた。ショートプログラム(SP)こそリフトで不覚を取って5位発進だったが、フリーはなんと歴代最高スコアの158.13点で大逆転していた。
ふたりは、自分たちのあとで演技を続けるペアたちに惜しまず拍手を送っていた。暫定2位、3位の他国の選手たちは黙って演技を見ているだけだった。自分を脅かす演技なわけで気が気ではないのだろう。しかし、ふたりはその競争原理から脱していた。
「ペアが好き」。勝負以上に、競技自体への愛情がにじみ出ていた。ライバルたちの演技を手放しで称賛できる。それは、「真の王者の肖像」を結ばせた。彼らの最大の敵は、自分たち自身だった。
リーダーズチェアで拍手する姿は、双子のように同期した。スケートの捉え方が似ているのだろう。それは審美眼のようなものか。さもなければ、スケーターとしての生きざまと言ってもいい。
<なんて美しい技だ。これを完成するまで、どれだけの練習が必要だったか??>
一瞬で心中を押し測って感動し、手を叩く。結局、りくりゅうは2位に約10点差をつけ、破格の金メダルを手にした。
【決戦前に変化したふたりの関係性】
木原は明かしていたことがあった。
「(三浦と)スケーティングのタイプが似ていますね。ふたりとも一歩目の踏み出し、氷の滑り出しが似ているので、無理をせずにスピードに乗ることができます。それにふたりともスピードを出すのが好きだし、スピードがないなかでエレメンツをやるのは怖いと感じているのも同じですね」
感動と敬意のシンクロは、ペアとして武器だろう。競技は波がある。ペアはどちらかが補完し合い、その問題に取り組む。そこでの関係性がふたりは傑出していた。
2024年12月、全日本選手権のSPでは3回転トーループの小さなミスが出たあとのミックスゾーンだった。
ーーGPファイナルよりも、いい演技にする自信はあるか?
報道陣の質問は三浦に向けられていたが、木原がすかさず割って入るように答えた。
「絶対にできると思います」
その勢いに少し笑いが起こると、木原は真剣なままで続けた。
「(練習で)できていなかったら言わない。練習はしっかりとできていて自信を持っていたんですが、試合で発揮できないというのは悔しい。できているので、もっと発揮したいなって。(ミスは練習で)数をこなして、乗り越えていかないと勝てないと思います」
木原には頭のなかで描く、"ベストのりくりゅう"の形があるのだろう。それは確固たるもので、ひとつの道しるべと言える。ペアでのキャリア、年齢、男性でカップル競技ではリード役など木原がペアを引っ張っている、あるいは本人がそう自覚しているのが透けて見えた。
「龍一君が(演技中に)笑っていると安心する」
三浦も言っていたように、りくりゅうのバロメータは木原だった。それが今回の五輪のフリー前に、ふたりの関係は完全に逆転していた。
「今日(フリー当日)も涙が止まらなくて、夕方の練習もなぜか涙が止まらない。昨日の夜も悔しくて泣いていたから、睡眠の質もよくなくて......経験したことがないことで。(SPが)終わったあと、璃来ちゃんが僕の気持ちを立て直してくれて」
木原は金メダルを獲得したあとの取材エリアで説明していたが、たしかに両目は泣き腫らしていた。SPのリフトの出口で、運悪くずり落とす形になってしまった。金メダル獲得争いでは、苦境に追い込まれていた。
「龍一君の落ち込みようすごかったんで、私はサポート側に回って。自分はそこまで落ち込んでいなかったです。団体戦で155点も出させてもらって、ノーミスすれば(逆転の)可能性あるって思っていました。可能性は無限大って」
三浦はそう振り返ったが、彼女は肝が据わっていた。もし、彼女が悲しむ木原と同じように落ち込んでいたら、戦況は厳しかったろう。彼女に「自分たちが『できる』と信じてやればできる」と漫画のようなセリフで突き進める馬力があったからこそ、軌道修正できた。
「ずっと泣いていたんですけど、璃来ちゃんがすごくしっかりしてくれていたんで。『積み重ねてきたことがあるんだから、絶対にできる』って言われて。『ここでオリンピックをあきらめていいわけない、自分たちで攻めきる』って切り替わりました」
木原は正直に言った。
「ずっと龍一君が泣いていて、フリー直前のウォーミングアップ中もですね。だから、『今はどういう気持ちで泣いているの?』って聞いたら、『なんで泣いているかわからない』って。私は『赤ちゃんだね!』って言いました」
三浦は彼女らしい言葉で語って、こうも続けた。
「以前の私だったら、ここまで強くなれなかったです。(木原が)毎試合サポートしてくれたからこそ、今大会は私が強くなれたのかなって思います」
彼女は木原に「今日は龍一君のために滑るから」と約束した。それはこれまでの感謝に近い。たしかにフリーの演技では終始、彼女が"大丈夫だから"と誘う表情があった。三浦の明るさが起爆剤になって、木原のスケーティングもどんどん熱を帯びたのだ。
ふたりの「歴史」が、今回の逆転劇の下地だったのではないか。
深夜の取材エリア、ふたりはスタッフにコーラのペットボトルを渡された。相当に喉が渇いていたらしい。ふたりで同時にキャップを開け、小さな乾杯をした。ひと口飲み、そろって満足そうな表情だった。やはり、ふたりは似ているのだ。