サッカーは、存在するそれぞれの地域の文化を表現するものだ。プレースタイルも楽しみ方も、さまざまな手法が存在する。そうし…
サッカーは、存在するそれぞれの地域の文化を表現するものだ。プレースタイルも楽しみ方も、さまざまな手法が存在する。そうした文化的側面で欠かせないもののひとつが、アルコールとの付き合い方だ。蹴球放浪家・後藤健生が、自身の経験を通じてつづる。
■アジアに存在するフランス文化
逆に、簡単にワインが手に入ってびっくりしたのがラオスの首都ビエンチャンでのことでした。
他の東南アジアでの経験もあったので、「酒はなかなか見つからないだろうな」と思って外に出たのですが、ホテル玄関を出て少し行ったところに小さいけれど立派なワインショップがありました。高級ワインから安ワインまで、品ぞろえも豊富でした。
その後、ビエンチャン市内を歩いていると、ワインショップはそれほど珍しい存在ではないことも分かってきました。
ラオスは敬虔な仏教徒がほとんどという国ですが、なぜワインショップがたくさんあるのでしょうか? それは、間違いなくラオスがフランスの植民地だったからです。
ラオスは1899年に「フランス領インドシナ」に編入され、以後、第2次世界大戦直前に日本に占領されますが、1945年8月に日本は敗戦を迎え、その後、フランスとの戦闘を経てラオスは独立しました。
つまり、約半世紀間、ラオスはベトナム、カンボジアとともにフランスに支配されていたのです。
フランスは植民地時代にフランス風の生活様式を持ち込みました。今でもベトナムではフランス式のパンが美味しく、そのパンに具材を挟んだベトナム式サンドウィッチの「バーンミー」は今では日本でもお馴染みになっています。
フランスの食文化といえばワインは切り離せない存在です。だから、ビエンチャンではフランス人が好んだであろうワインショップが現在も健在なのです。
■アルコールと宗教の一律ではない関係
飲酒を禁止するイスラムや仏教に対して、キリスト教は酒に対して寛容です。そもそも、キリスト教のミサではパンとワインがキリストの体と血として与えられます。中世のキリスト教の修道院ではワイン醸造が盛んに行われました。
そして、とくにカトリックでは娯楽も重視されていて、楽しみとしてワインを飲むことも禁止されていません。
というわけで、仏教徒の多いはずのラオスにもフランスの食文化が持ち込まれて、今でもワインショップがたくさんあったというわけです。
イスラムでは飲酒は厳しく禁止されています。たとえば、サウジアラビアのように戒律に厳格な国ではわれわれ異教徒もいっさい酒を飲むことができません。サウジアラビア航空ではサウジアラビア上空を飛行中はアルコール飲料が中止されます(たぶん、今でもそうなんでしょう)。
ただし、アラビア半島から遠い東南アジアとか、ヨーロッパ文化に近い地中海沿岸のトルコ、シリア、レバノンなどでは飲酒は可能で、ムスリムでも酒を飲む人がたくさんいます。
■酒が飲めない人生なんて!
昔、1997年のときではありませんでしたが、マレーシアに行ったときに若い中国系のタクシー・ドライバーとイスラムについて会話したことがありました。
彼は中国系としては珍しくイスラムのことについてもかなり正確な知識を持っていて、「共感するところもあるんだ」と言っていました。
「それなら、ムスリムになってしまったほうが(マレー人優遇政策がある)マレーシアで生きていくのには便利なんじゃないの?」と訊いたら、彼は「そりゃ、絶対に嫌だ」ときっぱり言いました。
「どうして?」と僕。
「だって、豚肉が食えなくて、酒が飲めないなんてありえへんやん!」とドライバー。
その答えを聞いて、僕も心の底から彼に同感しました。