ほどよく筋肉のついた、しなやかで細いバレエダンサーは憧れの的。ハードに踊るための筋力がありながら、なぜあんなにほっそりと美しい体なのでしょうか? その秘密は、バレエならではの体の使い方にありました。前編では「脚」に特化し、バレエダンサーが…

 ほどよく筋肉のついた、しなやかで細いバレエダンサーは憧れの的。ハードに踊るための筋力がありながら、なぜあんなにほっそりと美しい体なのでしょうか? その秘密は、バレエならではの体の使い方にありました。前編では「脚」に特化し、バレエダンサーが日々おこなっているエクササイズを教えてもらいました。

バレエダンサーがムキムキで太い体にならない理由

 広い舞台をいっぱいに使い、ポワント(つま先立ち)で体を支え、難しい振付を長時間踊りこなすバレエダンサーには、アスリートばりの体力が必要です。もちろん、幼いころからのレッスンを通して培ってきた筋力があってこそ。でも、ダンサーはムキムキと硬い体というより、ほっそりとしなやかな体つきが特徴です。あれほどの筋肉を必要としながら、なぜ細い体を養えるのでしょうか? 大人のためのバレエスタジオ「BALLET GATE」吉祥寺スタジオの主任教師・山口愛先生にお訊きしました。

「その理由は、バレエ独特の体の使い方にあります。私たちは筋肉を固めて使うのではなく、長く伸ばしながら使っています。そのために必要なのが、体の『引き上げ』です。いつでもつま先に立ち上がれるように、内もも(内転筋)や腹筋など、体の内側にある筋肉を使いながら踊っています。そのため、外側の筋肉を固めずに伸ばして使うことができ、しなやかな筋肉を養えるのです」

 引き上げた状態であれば、普段は使いにくい内側の筋肉を効率よく動かせるそうです。

「太ももで言えば、外もも(大腿二頭筋)は鍛えやすい筋肉です。強度があって張りやすく、鍛えれば鍛えるほどガッシリと、太くなってしまいます。一方、その内側にある内もも(内転筋)は、普段の生活で使いにくい筋肉。内ももを鍛えると、脚を閉じる力を養えるので、外ももにかかる力を軽くできます。それによって、外ももの発達したムキムキの脚ではなく、まっすぐでしなやかなラインの脚に整えられるのです」

「内ももは意識しないと動いてくれない箇所。レッスンを重ね、踊るなかで意識できる体を作 つく っていきますが、普段もエクササイズを取り入れることで、さらに踊りやすくなります」と山口先生。ちなみに内転筋を鍛えると、むくみ解消にも効果的!

 今回は、美脚を手に入れるために必要な内もも(内転筋)を効果的に鍛えるエクササイズを教えていただきます!

床を使って、内ももを鍛えるエクササイズ

【内ももを鍛えるエクササイズ①】


【1】左脇を下にして、床に横たわります。左手と左足はまっすぐ伸ばしましょう。転がりやすい姿勢なので、右手と右足は体の前に置き、しっかりと床につけて体を支えます。


【2】左足を軽く持ち上げ、上下にバウンドさせます。このとき、かかとから足を持ち上げ、内ももを右のももに寄せるイメージを持つと効果的です。ゆっくりと10回バウンドさせたら少し休み、3セットおこなってください。その後、反対側を向いて、右足も同様におこないます。

壁や柱につかまってもOK! 内ももを意識するエクササイズ

【内ももを鍛えるエクササイズ②】


【1】片手でバー(棚や壁でOK)につかまり、両足をそろえて立ちます。もう片方の手は腰に当てると、骨盤の高さが安定しやすいので、より効果的にエクササイズができます。


【2】手の位置はそのままに、ゆっくりと膝を曲げます。このとき、左右の内もも同士が離れないよう、内転筋を使って寄せたまま、膝を曲げましょう。


【3】膝を伸ばし、1の体勢に戻ったら、今度はゆっくりとかかとを上げ、足指の付け根で、つま先立ちになります。このときも左右の内ももは寄せたまま、離れないようにしましょう。1~3を1セットとして、ゆっくりと10回おこなってください。

「バレエでは、2のように膝を曲げる動きを『プリエ』、3のようにつま先立ちになる動きを『ルルヴェ』と言います。いずれも慣れていないと骨盤の位置が傾き、グラつきやすいです。何かにつかまり、腹筋と背筋を意識しながら、まっすぐな姿勢でおこなうようにしましょう」

伸縮性のあるバンドを利用して、内ももを鍛えるエクササイズ

【内ももを鍛えるエクササイズ③】


【1】伸縮性のあるゴムバンドを、バー(椅子やタンスの脚などでもOK)にかけて輪っか状にし、左の足首に引っかけます。このとき、両脚を股関節から外側に回し、つま先を開いた状態で立ちます。無理に180度開く必要はなく、できる範囲(90度程度)で構いません。


【2】左の内ももを、右の内ももに寄せるイメージで、ゆっくりとゴムバンドを引っ張ります。体の中心軸は右のつま先寄りにし、左足は軽く宙に浮いていてOKです。ゆっくりと10回ゴムバンドを伸び縮みさせたら、少し休んで3セットおこないます。その後、バンドを付け替えて、右足も同様におこないます。

「伸縮性のあるバンドであれば、どんなものでも構いません。内ももが動くのを感じられるようなら、バンドなしでもおこなうことができます。何かにつかまって、片足ずつ、内ももを集めてみてください」

 山口先生によると「内ももは普段の生活で動かすことの少ない筋肉」。最初は、エクササイズ中に筋肉が働いていることを感じにくくても、続けるうちに「今、内転筋が動いた」と感じられるようになるはず。コツコツ続けてみてください!

【取材協力】
BALLET GATE
熊川哲也さんが大人の女性(満15歳以上)のために設立したバレエスタジオ。熊川さんは英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルとして活躍し、帰国後Kバレエ カンパニーを創立。ダンサーとしてはもちろん芸術監督をも務める。日本においてバレエ文化を伝承したいという思いのもと、BALLET GATEを設立。恵比寿、吉祥寺、横浜、福岡、大宮の5カ所にスタジオがあり、どのスタジオでも受講可能なグランド会員(入会金3万円)と、入会したスタジオのみ利用できるホーム会員(入会金1万円)がある。レッスンはチケット制。
[HP]http://www.k-balletgate.com/

【監修者プロフィール】
山口愛(やまぐち・あい)
Kバレエスクール吉祥寺校・主任教師。5歳よりバレエを始め、11歳より石神井バレエアカデミーにて外崎芳昭、山崎敬子に師事。2000年、ロシア国立ワガノワ・バレエアカデミー留学。帰国後NBAバレエ団入団。2001年NBA全国バレエコンクール、シニアの部第3位受賞。 2003年、東京新聞全国バレエコンクール、パ・ド・ドゥ部門ファイナリスト。2006年4月、Kバレエ カンパニーに入団。2009年よりKバレエスクールにて教師を務める。

<Text:富永明子+アート・サプライ/Photo:斉藤美春>