サッカーは、存在するそれぞれの地域の文化を表現するものだ。プレースタイルも楽しみ方も、さまざまな手法が存在する。そうし…

 サッカーは、存在するそれぞれの地域の文化を表現するものだ。プレースタイルも楽しみ方も、さまざまな手法が存在する。そうした文化的側面で欠かせないもののひとつが、アルコールとの付き合い方だ。蹴球放浪家・後藤健生が、自身の経験を通じてつづる。

■禁酒の文化

「不許葷酒入山門」という言葉をご存じでしょうか?

「くんしゅさんもんにいるをゆるさず」と読みます。「葷」とはネギやニラ、ニンニクといった刺激の強い食べ物。そして「酒」はもちろんアルコール飲料のことです。

 禅寺をはじめとした仏教寺院の門の前に建てられた戒壇石(かいだんせき)という石柱に、この言葉が記されています。

 落語の「蒟蒻問答(こんにゃくもんどう)」では、江戸から流れてきた八五郎がニセ坊主になりすましている上州のある寺に、この戒壇石を見た「越前国永平寺の沙弥托善(しゃみたくぜん)」と名乗る旅僧が「問答をしたい」と言ってやって来るところから騒動が始まります。

 ニンニクなどとともに酒は仏教寺院に入れてはならないという意味。つまり、本来、仏教では「不飲酒戒」は「不殺生戒」や「不邪淫戒」などと同じ最も基本的な五戒の一つであって、飲酒は禁止されているのです。

 ただ、日本では落語の八五郎坊主だけでなく、本当のお坊さんでも酒を飲む人が多いようです(坊さんに大酒飲みが多いような気がするのは僕だけでしょうか?)。

■攻略難解なジョホールバル

 しかし、本当は飲んではいけないのです。

 タイやマレーシアに行くと、それを痛感することがあります。

 1997年にマレーシアでワールドユース選手権(現U-20ワールドカップ)が行われたときのことだったと思います。

 この大会ではアルゼンチンが連覇を達成しました。フアン・ロマン・リケルメやエステバン・カンビアッソ、パブロ・アイマールなどがいたチームでした。

 日本は現在ナショナルチームディレクターを務めている山本昌邦さんが監督で、現JFA会長の宮本恒靖さんがDFをしていましたが、準々決勝でガーナと対戦して延長戦で失点して1対2で敗れてしまいました。他にも中村俊輔、柳沢敦、廣山望といった豪華メンバーがそろったチームでした。

 ちなみにガーナ戦の会場は南部ジョホールバルのラルキン・スタジアム。地方都市の小さなスタジアムで、「もう2度とこのスタジアムに来ることなどないだろうな」と思ったのですが、それからわずか半年後、フランス・ワールドカップのアジア第3代表決定戦がこのスタジアムで行われ、約2万人の日本人サポーターがここに集結することになりました。

 準々決勝にたどり着く前にクアラルンプールに滞在しているとき、ホテルでワインでも飲もうと思って買い物に出かけ、酒を置いていそうな店をあちこち探したのですが、なかなか酒にありつくことができなかったのです。

■東南アジアの多様性

 東南アジアの他の国でも、同じような経験をしたことがあります。

 東南アジアというのは、さまざまな宗教が入り混じった地域です。

 たとえばマレーシアは多民族国家ですが、先住民であるマレー人はイスラム教徒(ムスリム)です。また、インド系の多くはヒンドゥー教などインド系の宗教を信仰していますし、中国系の華人は道教徒や仏教徒です。また、どの民族にもキリスト教を信じている人がいますし、少数ながら中国系のムスリムもいます。

 インド系や中国系の人は、英国植民地だった時代に錫鉱山やゴム園などの労働者として連れてこられた人たちの末裔です。

 イスラムの教えによってムスリムは酒を飲んではいけないのですが、東南アジアでは比較的戒律が緩いのでムスリムでも酒をたしなむ人がいます。また、中国系の人は何でも食べて、何でも飲む人たちですから、もちろん酒も大好きです。

 だから、街中でも日本と同じように酒を売っているだろうと思ったのですが、少なくとも僕が泊まった安ホテルの周りではなかなか酒が手に入らず、近所を歩き回りました(同じクアラルンプールの中でも地域によって違いがあるような気がします)。

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