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 B1シーホース三河の勝利後、その試合のMVPが太鼓を叩く儀式「今日のビート」。2月8日のレバンガ北海道戦では、残り2秒のデザインプレーで劇的勝利に導いた指揮官自身がチームの総意でその場に立った。

 SNSで発信された、はにかみながら太鼓を鳴らすライアン・リッチマンヘッドコーチ(HC)の姿からは、控えめでチャーミングな人柄で選手・スタッフに愛されていることが垣間見えた。

 そんな指揮官が、男子日本代表のアシスタントコーチを兼任することになった。リッチマンHCとは、どのような人物なのか。

文=山田智子

■短期的かつ継続的に結果を出せる戦略家


 2月3日にアシスタントコーチ(AC)として男子日本代表への入閣が発表されたリッチマンHCは36歳と若い。だが、指導者としての実績は豊富だ。

 NBAワシントン・ウィザーズで10年にわたり、ビデオコーディネーターや、ACとして育成、戦術・分析を担当。その間、入団1年目の八村塁の指導を行い、ウィザーズ傘下のGリーグチームのキャピタルシティ・ゴーゴーで1シーズンHCを経験している。

 2023-24シーズンにシーホース三河のHCに就任。初めて住む異国の地、NBAとはルールの異なるリーグという逆境にありながら、「NBAでの経験と三河の選手やチームの歴史を柔軟に融合し、毎日カイゼンを重ねる」ことで、2シーズン連続でチャンピオンシップ(CS)出場を逃していた名門をわずか1シーズンで再建してみせた。

 昨シーズンは2年連続でCS出場を果たし、今シーズンもCS出場圏内につけている。加えて、1月に開催された天皇杯では8年ぶりにチームをファイナルへと導いた。

■選手の限界を引き上げる、優れたモチベーター


 世界最高峰の舞台で培ってきた緻密な戦術を駆使し、短期的に結果を出すクールな「戦略家」。一方で、泥臭い努力を認め、選手を鼓舞し、長期的にカルチャーを築く熱き「モチベーター」。二つの顔を併せ持つリッチマンHCの思考はいたってシンプル。「チームの最大化」に集約される。

「どのチームでも、どの選手と一緒に仕事をしても、目指すところは同じ。選手の特徴を知り、その可能性を最大限に引き出す方法を学ぶことが、コーチングの醍醐味なのです」とリッチマンHCは語る。そして、個々の可能性を最大化するため、「選手やスタッフを鼓舞し、自信をつけさせ、その人の限界をもう一段階引き上げていく」ことがコーチの喜びであるとも。

 その象徴が、日本代表にも名を連ねる“三河のエース”西田優大だ。守備では宇都宮ブレックスのD.J・ニュービル、三遠ネオフェニックスのデイビッド・ヌワバなど外国籍選手のマークを任せ、オフェンスではクラッチプレーを託す。リッチマンHCは「モンスターになれ」「日本を代表する2WAYプレイヤーになれる」と、攻守両面で高い負荷を与え続けてきた。失敗も成功も経験させながら、自らの力で壁を乗り越えようとする西田の背中を押してきたのだ。

 8日の北海道戦、終了間際に西田が元NBAプレーヤーのジャリル・オカフォーの上から決め切った逆転のステップバック3ポイントシュートは、まさにその積み重ねの結晶だった。きっと西田は、この覚醒を日本代表でも再現してくれるだろう。

 待望の代表復帰を果たしたシェーファーアヴィ幸樹もそうだ。前十字靭帯断裂の大ケガを負い長期離脱していた彼を「Xファクター」として待ち続けた。復帰後は、日本人ビッグマンが出場機会を得るのが難しいBリーグで、「数字に表れない、チームのためになる細かいことをやり続ける選手」と信頼してコートに送り出している。

 また、大学時代にリッチマンHCの指導を受けた元NBAプレーヤーのジェイク・レイマンは、「彼は選手としての成長に極めて重要な役割を果たした。彼と再びプロの舞台で一緒に成長したい」と、2023年から三河へ加入した。

 今シーズン、日本人全員を含む12選手が契約を継続した事実も、彼の下での成長を選手が確信している証左だろう。

■心地よい「リッチマンマジック」


 モチベーターとしてのリッチマンHCの“手腕”は、ファン・ブースターやメディアにも及ぶ。リッチマンHCはアウェー戦の試合前に観客席を周り、「がんばろまい」と三河弁で声をかけながら、遠くまで駆けつけてくれたファン・ブースターに感謝を伝える。メディアに対しても、毎シーズン終了後の記者会見で、1年間の取材に対する感謝と労いの言葉をかける。

 そうして、誰もが知らぬ間に彼の“魔法”にかけられる。自分の限界を越えてでも、彼の力になりたいと思ってしまう。

 ライアン・リッチマンとは何者なのか? 

 就任当初から取材し続けている私も、まだよくわからない。もしかしたら、選手からメディアまで、彼の巧妙な戦術にはめられているのかもしれない。だが一つ確かなのは、その魔法は不思議と心地よいということだ。

 三河でも、日本代表でも——リッチマンマジックは、これからも人々を巻き込んでいく。

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