(12日、ミラノ・コルティナ冬季オリンピック〈五輪〉スキー男子モーグル決勝) たった一つの誤算だった。 メダルを懸けた…
(12日、ミラノ・コルティナ冬季オリンピック〈五輪〉スキー男子モーグル決勝)
たった一つの誤算だった。
メダルを懸けた決勝2回目。スタート台に向かう堀島行真(トヨタ自動車)の表情に、焦りがにじむ。
「少し想定外だった」
決勝1回目で得点が伸びなかった。上位8人で争う2回目の滑走順は得点の低い方から。5位の堀島は、後ろに4人を残した状況で滑り出すことが決まった。
優勝候補の28歳に選択肢はなかった。「攻めるしかない」
「金メダルを取るために」と、自身3度目の五輪に全てを捧げてきた。
2年前の5月、日本を飛び出し、家族と一緒に拠点をノルウェーに移した。首都オスロにある欧州最大級の室内スキー場で1年を通して練習を積むためだ。
「1日のスケジュールも細かいところまで考えた」。子どもの頃から大会に出るほどの腕前という将棋を指す時のように、2年後の2月12日の決勝から逆算した日々が始まる。
試合予定と同じ時間帯に練習し、イタリアの雪質や気候も調べた。栄養学を勉強し、体づくりのためのカロリー計算も徹底した。
五輪会場に到着した後も抜け目はなかった。練習でも「決勝2回目」を想定し、有力選手の直後を滑った。天気予報で「決勝は曇り」と分かれば、あえて視界を狭めた。「見栄えも大事」とゴール後のガッツポーズの練習も繰り返した。
ただ、全てが決勝2回目を「最後に滑る」想定だったという。ライバルの得点を確認した上で、披露する技の難度を決めるはずだった。
シナリオが崩れ、覚悟を決める。
勢いよく滑り出すと第2エアで、軸を斜めに4回転する大技「コーク1440」を今大会で初めて出した。欧州で磨いてきた技だ。が、空中で体が右に流され、着地がわずかに乱れた。
2大会連続の銅メダルだった。4年間の歩みを考えれば、「価値は全然違う」。
ただ、こうも言った。「金メダルを取るイメージはできていたけど、今日という、この日に合わせられなかった。五輪で勝ちきる力がなかった」
表彰式から30分ほどが経ったころ、堀島は取材の合間にリンゴをかじった。「この時間に補食すると体にエネルギーが入る」。
4年後へ、雪辱を果たす戦いはすでに始まっていた。(山口裕起)