ミラノ・コルティナ五輪フィギュアスケート団体で、日本は栄えある2位に輝いた。北京オリンピックに続く銀メダルだったが、今…
ミラノ・コルティナ五輪フィギュアスケート団体で、日本は栄えある2位に輝いた。北京オリンピックに続く銀メダルだったが、今回は「狙って取った」もので、あらためて実力を見せつけた。
シングルでは、坂本花織がショート、フリーともに1位で、世界女王アリサ・リュウも蹴散らした。鍵山優真もショート1位で、超人イリア・マリニンを制している。また、ペアのりくりゅうもショート、フリーどちらも1位で、圧巻の演技だった。総合力に勝るアメリカにはわずか1点及ばなかったが、最後の最後まで激闘を繰り広げた。
これで日本は"アメリカと並ぶフィギュアスケート大国になった"と断言できるだろう。2014年にソチ五輪でフィギュア団体が始まった時(日本は5位)、金メダルを大国アメリカと争うなど考えられなかった。まさに隔世の感がある。
ミラノの観客席では、そこら中で日の丸が振られていた。異国まで来て応援する熱心なファンに恵まれたことで、選手たちは技を革新できたのだろう。同時にライバル同士の切磋琢磨につながった。
フィギュアスケート団体の銀メダルを手にした日本の選手たちphoto by Sunao Noto / JMPA
今回、ミラノ五輪に出た日本人選手は精鋭ばかりだが、国内には彼らと比べて遜色のない日本人選手も控えている。年齢制限で出場できなかった島田麻央などは筆頭格だ。
団体が終わったあとの深夜のミックスゾーン。珍しくスペイン語が聞こえたので顔を向けたが、知り合いではなかった。オリンピックに来られる記者は世界でも限られているし、スペインでウィンタースポーツはマイナーだ。その時、不意に10年以上前に知り合いになったスペイン人記者が話していた言葉を思い出した。
「バルセロナのグランプリ(GP)ファイナルで(高橋)大輔を観たかったな。彼のフィギュアスケートは芸術だよ。なんであんなにリズミカルなステップをふめるのか。私はフラメンコギターの世界でそこそこのところまでいったが、彼は完璧に音を拾って体現できる」
スペイン人記者はそう言って日本フィギュア界のレジェンドである高橋大輔を絶賛していた。
【ハビエル・フェルナンデスが語った高橋大輔】
2015-16シーズンのGPファイナルはスペイン、バルセロナで開催されたが、すでに高橋は1度目の引退(2014年)をしてリンクを去ったあとだった。その記者はスペイン人フィギュアスケーター、ハビエル・フェルナンデスに注目が集まるなか、以前彼と同じ大会に出場して表彰台に乗った高橋に夢中になったという。
ハビエルは2010年の世界選手権で12位となり、高橋は1位だった。その後、スペイン人スケーターは2011年が10位、2012年が9位、2013年が3位、2014年が3位、2015年が1位、2016年も1位と、着実に順位を上げていった。高橋が引退の気持ちを固めていくのと反比例するかのように表彰台に乗り、世界王者になったのだ。
スペインは「フィギュアスケート不毛の地」と言われ、欧米のなかでは格下に扱われていた。ハビエルは突然変異だった。一方、日本はスペインと比べたらフィギュアの歴史があったが、アジア人男性選手として高橋がバンクーバー五輪で獲得した初のメダルは"風穴を開けた"点で先駆的だった。だからスペイン人記者は、高橋に親近感を抱いたのかもしれない。
ハビエルは平昌五輪でメダルを獲って、新たな扉を開いている。しかし2019年に自身が現役を退いたあと、後輩はなかなか続いていない。
一方、高橋は2018年、4年ぶりに現役復帰し、全日本で2位になる快挙を果たす。
〈年齢は記号でしかない〉
アスリートとして、その可能性を示した。それがどれだけ型破りだったか。常識を覆す者だけが時代を作れるのだ。
「それぞれの人に、それぞれの決断があるけど......」
高橋が現役復帰した当時、ハビエルに話を聞く機会があった。彼の"先人"へのリスペクトは熱かった。
「(高橋)大輔は気さくでいい男だよ。めちゃくちゃ、尊敬している。彼がリンクに戻ってきたのはそれだけの理由があると思う。きっと、衝動があったんだろう。だから、絶対に失敗はしない。繰り返すよ、絶対に、だ。なぜなら、あれだけのことを成し遂げた大輔が決断したんだから、1位であろうとビリであろうと、それはすでに成功なんだ」
2019年をもってシングルで2度目の引退をした高橋は、次は村元哉中とカップルを組んでアイスダンスに転向している。さらなる破天荒な挑戦に揶揄する声も上がったが、わずか3年で全日本選手権優勝を果たし、世界選手権ではトップ10にあとひとつと迫った。
高橋はフィギュア全体の人気を高め、閑古鳥が鳴いていたアイスダンス界を開拓し、裾野を広げた。ミラノ・コルティナ五輪の団体で銀メダルを取った"うたまさ"(吉田唄菜、森田真沙也)は、その道を辿ったカップルと言える。
また、カップル競技全体に脚光を当てたとも言える。昨年の全日本選手権で優勝した長岡柚奈、森口澄士のペア"ゆなすみ"も今回の五輪に出場する。森口は幼い頃から高橋に憧れてフィギュアを始め、アイスダンスに転向した高橋に触発され、同じカップル競技のペアで台頭した。
もちろん、高橋は長い日本フィギュアの歴史のなかのひとつのピースにすぎない。そこには幾多の選手や指導者が、あるいはファンが関わっている。今の繁栄はその結晶だ。
団体で銀メダルを勝ち取った日本のフィギュアスケートは、個人戦でも世界を魅了するだろう。