【マリニン超えは確実かと思われたが......】 2月10日(現地時間)のミラノ・コルティナ五輪、フィギュアスケート男子…

【マリニン超えは確実かと思われたが......】

 2月10日(現地時間)のミラノ・コルティナ五輪、フィギュアスケート男子ショートプログラム(SP)。最終滑走者の鍵山優真(オリエンタルバイオ/中京大)は滑り終えた瞬間、照れ笑いのような表情を浮かべた。「あ、やっちゃったな。『あちゃー』という感じでした」苦笑する。


男子SPで2位発進となった鍵山優真

 photo by Sunao Noto / JMPA

 演技後半、トリプルアクセルでミスがあった。着氷でエッジの後ろ部分が氷に引っかかり、ステップアウトする形になり減点。しっかりと身体が回りきっていたからこそ起きるアクシデントだった。

「それでも全体的に見れば、できた部分が大きかった。トリプルアクセルもそれほど落ち込むような失敗ではなく、すぐに立て直せるものだったかなと思います」

 3日前に団体SPを滑った疲労はなかったという鍵山。その演技には、団体の時に感じられた動きの硬さはなく、むしろキレがあった。演技開始直後の右足を蹴り上げる振り付けも、鋭さと高さがある動き。

 そこからスピードを一気に上げ、最初の4回転トーループ+3回転トーループと次の4回転サルコウはいずれも高い加点を得る。直前に滑ったイリア・マリニン(アメリカ)はノーミスで108.16点を出していたが、鍵山も団体で出した108.67点の更新は確実と思わせるような、スピード感あふれる滑りをしていた。

【観客にスキップして帰ってもらえるように】

 だが、後半に入ってのトリプルアクセルの惜しいミス。その原因について「ちょっと回転を抑えきれず、回りすぎてしまいました」と鍵山は振り返る。

「身体はめちゃくちゃ動いていました。公式練習が終わってからは時間がなかったので、ずっとリンクで休憩していて。試合までいつもより短い時間ということもあり、身体が公式練習のままキレキレに動いていたので、ジャンプでも自分が思う以上に浮き上がったのかなと思います」

 この日は午前から昼過ぎまで同じ会場でショートトラックの競技が行なわれていたため、公式練習の開始は午後3時30分から。鍵山らの最終組は5時55分まで練習し、試合は6時30分が第1組の開始で、最終組は夜10時過ぎからのスケジュールだった。通常なら公式練習後は一度ホテルで休んでから再び会場に戻るが、今回はそれが難しい状況。そんなタイムスケジュールを嫌ったのか、マリニンは公式練習を欠場していた。

 鍵山は、トリプルアクセルで2.40点の減点となったが、気持ちの動揺もなくそのあとも勢いを加速させた。ステップシークエンスは団体と同じように観客をあおる仕草を見せ、大きな歓声を受ける。その滑りにジャッジ9人中8人がGOE加点で満点の5点をつけただけではなく、最後のコンビネーションスピンもスピードを落とさずに高い加点を得る。最後まで集中を途切れさせない演技だった。

 その得点は103.07点。ミスがあったなかでの2位発進は本人も納得できるものだった。直前に演技をしたマリニンの得点は当然わかっていた。

「正直に言えばショートの点数は、イリア選手を相手にする場合はどれだけ近くても遠くても、フリーの演技に対してまったく参考にはならない。だからまずは自分のできるものを最大限やろうとだけ意識しました」

 そう話す鍵山は、マリニンのフリーでの別格の強さを承知する気持ちもあっただろう。それでも、最初から盛り上がる観客のなかで滑りきった自分の演技に関して納得の表情を見せる。

「すごくうれしかったですね。直前のイリア選手がカッコいい曲だったのに対して、自分はすごく明るい曲調。最終滑走というのもあって観客のみなさんは僕の演技が終わったら帰るわけだから、みんなが楽しい気持ちで、スキップでもして帰ってもらえるように。そして僕も一番楽しく終われるようにというところを意識して滑りました。それとともに4回転ジャンプなどのしっかりやるべきところも集中しながらやった。うまくバランスを取りながらできたと思います」

【4回転フリップ投入で決戦の舞台へ】

 マリニンとは5.09点差で、団体のフリーのようにマリニンがミスを連発し得ることを考えれば、逆転の可能性は十分ある。さらに、欧州選手権を欠場して五輪に合わせてきたアダム・シャオ・イム・ファ(フランス)もジャンプの回転が鋭くなり、スケーティングや身体の動きも勢いを増している。表彰台争いはこの3選手に絞られる展開になってきた。

 鍵山は、団体からの連戦をしっかりと想定して準備をしてきた成果を感じているといい、冷静な気持ちで3日後のフリーも迎えられそうだ。

「団体と同様に、金メダルはもう自分のなかではオプションというか、あとからついてくるものだという意識です。どんな時でも結果というのはあとからついてくるもの。フリーでは4回転フリップも久しぶりに投入するのでしっかりと調整しながら、とにかく悔いのない演技をするのが一番の目標です」

 前回の2022年北京五輪は、先輩の羽生結弦や宇野昌磨に引っ張られるなかでの戦いで、銀メダルを手にした。だが、今回は自分が日本のエースとしてチームメイトを引っ張っていく立場になった。

 そんななか絶対に試みたいと考える、フリーでの4回転フリップ。それはマリニンの強さと存在感を認めたうえで、自分自身の本当の立ち位置を確認しようとする戦いでもある。決戦への準備と覚悟は、団体と今回の納得のSPで十分に整ったと言える。