(10日、ミラノ・コルティナ冬季オリンピック〈五輪〉フィギュアスケート男子ショートプログラム) 最終滑走だった。「楽し…
(10日、ミラノ・コルティナ冬季オリンピック〈五輪〉フィギュアスケート男子ショートプログラム)
最終滑走だった。「楽しい気持ちでステップして、(それを見て)帰ってもらえるように」。トリプルアクセルの着氷が乱れ、客席から悲鳴が上がった。が、鍵山優真はすぐに気を取り直す。弾むように踏んだステップの得点は、出場29人で最高だった。
昨季は苦しんだ。世界選手権で銅メダルは手にしたが、ジャンプから崩れることも多かった。
昨年4月、東京での国別対抗戦が終わった後、ホテルに戻って父・正和コーチの部屋で2人きりで話をした。
父には反省があった。「マリニンを見過ぎた」。全種類の4回転ジャンプを操るイリア・マリニンに対抗しようと、高難度ジャンプを詰め込んだプログラムを用意したが、「優真の一番良いところをなくしてしまっていた」。
ジャンプは無理に入れない。スケーティングと表現力で魅了する。2人の方針は固まった。
カナダに住む振付師ローリー・ニコルに、鍵山は17歳から教わってきた。ニコルは氷上にオレンジ色のペンで線を描き、その上をゆっくり滑るように、と言う。どこに体重をかければ、美しく滑ることができるのか。細部まで詰める。
半世紀も前のスケーターのビデオを見せてくれる。「超きれい」な動きのもの。「できなくていいから、やってみて」。最初はできなくても、何回かやっているうちにできるようになってくる。
「今はアクロバティックだったりとか、パワフルみたいなスケートが多い。それもいいと思うんですけど、昔は昔で超美しい」。ニコルとスケートを探求する時間が、鍵山はたまらなく好きだ。
滑る喜びを感じさせるような演技を、ミラノで披露した。
マリニンに得点では及ばなかった。だが、鍵山は沈んでいない。「あきらめているわけじゃない。1番をめざす」。でも、「全力でやりきったと思えれば、何位であろうと受け止めます」。(内田快)