ミラノ・コルティナ五輪のフィギュアスケート団体で、2大会連続の銀メダルを獲得した日本。坂本花織(25)=シスメックス=…

 ミラノ・コルティナ五輪のフィギュアスケート団体で、2大会連続の銀メダルを獲得した日本。坂本花織(25)=シスメックス=や三浦璃来(24)=木下グループ=を、足元で支える職人がいる。スケート靴のメンテナンスを担い、大阪市内に本店を置く「小杉スケート」の田山裕士さん。選手の足の形や感覚、こだわりに合わせて刃の研磨などを行い、活躍をサポートする。「日の丸を掲げてほしい」と願った選手たちの縁の下の力持ちだ。(取材・構成=大谷 翔太)

 田山さんの愛称は「ロバ」さん。店内にいると、選手が次々と「靴の研磨、お願いします」と入ってくる。今大会では、女子の坂本や千葉百音(木下グループ)、ペアの三浦らの靴を担当。トップ選手との関わりは20年近くになる。

 「(2010年バンクーバー五輪銅メダルの)高橋大輔が始まりです。(浅田あ)真央ちゃんや(織田)信成たちが出てきて、日本のフィギュアスケート黄金期が始まった。僕がトップ選手と関わるようになったのも、その時期あたりからだと思います」

 坂本、三浦、そしてペアの森口澄士(すみただ、木下アカデミー)は、それぞれ小学生の時からメンテナンスを担う。拠点をカナダに置く三浦は、今でも年に1度、靴を作りに田山さんのもとを訪れるという。

 「璃来は、2024―25シーズンで使っていた靴が最初、カナダでセッティングした物でした。それが体に合わず、ちょっと調子が悪かった。彼女の足には個体差があるにも関わらず、普通の人が履くとベストな形に作られていたから合わなかった。真っ直ぐ氷の上に立つことが、難しかったと思います。12月の全日本選手権の1週間前に、璃来の足に合うように調整したら『めっちゃ、滑りやすくなった!』と。それが今季も使っている靴で、調子をキープしてくれているのかなと思います」

 靴にただ真っ直ぐブレードを付ければ、氷上で真っ直ぐ立てる訳ではない。X脚やO脚など、人それぞれにクセがある。人、靴、ブレード。田山さんは「この3点を結合させて、真っ直ぐ立てるようにする」と言う。坂本は昨年12月末、刃の研磨に訪れた。

 「花織は五輪用に、ブレードを換えました。あの子も試合が多く、だいぶ摩耗していたので」

 試合の度に刃を研げば、その分すり減る。田山さんはタイミングを見計らい、刃のの交換を提案するという。研ぐ作業は1ミリ単位。選手の滑りに直結する、心血注ぐ作業だ。

 「特に気をつけるのは、母指球のあたりからトウまでの間のカーブ。ここのカーブを使って、スピンをくるくる回ります。エッジが摩耗してくると、カーブがフラットになってスピンが回りにくくなります。1・5ミリ削れたら、交換のタイミングでしょうか。試合が多い選手は換えるタイミングがなく、大変です」

 坂本とは、作業をしながら雑談をする。今季限りでの現役引退も、それとなく分かっていた。

 「『いつまでやんねん』と聞いた時に『次の(ミラノ)オリンピックかなぁ』と。『まぁ、せやなぁ』と話していました。花織も、もう25歳。女子選手だと長い方。よく頑張っていると思います」

 多くの現役選手と関わる田山さんだが、以前、高橋大輔さんが試合中に靴のアクシデントに見舞われ、それ以降は「心臓に悪い」ライブでは見なくなったという。そして「今は、どこでも結果は見られるので」と微笑む。選手への思いを問われると、短い言葉にエールを込めていた。

 「日の丸を、掲げてほしいなと思います」

 日本は、坂本、りくりゅうの大活躍で2大会連続の団体銀メダルを獲得。田山さんが念を込めて研いだ刃に乗り、まだまだミラノの銀盤で躍動する。