<イタリアの風>開会式前日の5日夕方。ミラノ中心地のエンリコ・トーティ通りには、人集りができていた。どうやらここは、聖火…
<イタリアの風>
開会式前日の5日夕方。ミラノ中心地のエンリコ・トーティ通りには、人集りができていた。どうやらここは、聖火リレーのルートのようだ。せっかくなので見物しよう。そう思ったのだが…。予定の通過時刻を過ぎても聖火ランナーはやって来ない。スタッフは「30分遅れで進行中なの」という。先日の移動でも電車の遅延で痛い目にあったが、また遅れているのか。私は胸の内で嘆いていた。
そんな中、遠くから歓声が聞こえてきた。「ついに来たか」。油断していた私はとっさに一眼レフを構えたが、目の前に現れたのは猛スピードの黒色の自転車。男性が手を振りながら、全速力で過ぎていった。沿道の人は期待を裏切られたわけだが、誰も文句は言わない。「ははは」と笑いが起き、冷え込み始めた夕暮れの街にぬくもりが宿った。私も自転車にまたがる男性の後ろ姿を撮影しながら、自然とほほ笑んでいた。
20分後にようやく聖火ランナーが来ると、人々は興奮気味に見届けた。イタリアには「心の満たされる人は富にも勝る」とのことわざがある。遅延も自転車の男性も、広い心で受け止めればいい。今を楽しむことが大切なのだ。ちょっぴり適当だけど、陽気でにぎやかな国での五輪。私も誰かの心を満たせるような取材に努めたい。【藤塚大輔】