怪我に泣いた昨季からの脱却を目指す中日・松木平優太 これほどまでに、自分という存在が脆く思えたことはなかっただろう。6年…

怪我に泣いた昨季からの脱却を目指す中日・松木平優太

 これほどまでに、自分という存在が脆く思えたことはなかっただろう。6年目を迎えた中日の松木平優太投手が沖縄での春季キャンプで1軍組で充実の汗を流している。順調なアピールを続けているが、ここまで上ってくるまでには「本当に終わったな」と振り返るほどの苦しく、険しい道のりだった。

 2020年育成ドラフト3位で入団。4年目の2024年に育成から支配下へと這い上がると、念願の1軍デビューを果たし、初勝利も手にした。待望の若手スター誕生かと周囲も盛り上がったが、輝かしい未来予想図は故障と不運によって一変した。

 同年は2軍の読谷キャンプでスタートしたが、2日目にいきなり1軍へ抜擢された。高いレベルに直面し「正直、焦りしかありませんでした。何をしているんだろうという思いが毎日ありました」と当時を振り返る。その言葉には華やかな1軍マウンドの裏側で、孤独に己の限界と戦い続けた22歳の苦悶が刻まれている。

 迎えた昨季は春季キャンプ中に右足首を負傷。期待に応えたい一心で痛みを隠して投げ続けたが、限界があった。「もう無理です」。コーチに伝えた時の無力感は今も忘れない。リハビリの間も試合はチェックしたが、それは自分がいなくてもチームは戦えるという現実を突きつけられるような“苦痛の時間”でもあった。

「背番号が変わった年でしたし、期待もしてもらっていた。大丈夫かな、やばいな、もうクビかなと……。やはり焦りが一番大きかったです」

 一度は育成契約の厳しさを味わっているだけに、一歩間違えれば崖っぷちに立たされる恐怖を常に抱えていた。苦しみながらも逃げずに自分と向き合い続け、1軍復帰を果たしたのは9月だった。

どん底で見た「親友の背中」と、覚悟を込めた2026年の誓い

「フォームも球も戻ってきたなという感覚が掴めたところで、1軍に呼んでいただきました」。ようやく差し込んだ光。しかし、運命はまたしても残酷だった。

 先発機会をもらったが、3イニングを無失点に抑えたところで、右手のマメを潰して無念の降板を余儀なくされた。「評価ガタ落ちだな。本当に終わってしまう……」。

 重なる不運に、どん底まで落ち込んだ松木平の脳裏には、またしても「クビ」の2文字がよぎった。支配下を勝ち取ってもなお、結果を残せなければ居場所はない。プロの厳しさを思い知らされた1年だった。

 辛い時期に、自分に最も近い場所で刺激を与え続けたのが同期の高橋宏斗投手だった。1軍でエースの道を突き進み、3月のWBCでは野球日本代表「侍ジャパン」にも選出された親友。祝福の連絡を入れながらも、心の中では「正直、やばいな」と強い焦燥感に駆られていた。

 それでも必死に悔しい、歯痒い、全ての感情を自分の糧にして今季へ準備してきた。2026年の松木平の表情に迷いはない。今は体も万全だ。「仕上がりはめちゃくちゃ良いです。キレもいいし、球の強さもあって、自信を持って投げられています」。

 不運も、怪我も、焦りもすべてを飲み込んで2026年のマウンドに立つ。絶望の中で何度も頭をよぎった「クビ」の恐怖は、マウンドで相手をねじ伏せるための「覚悟」へと昇華された。真価が問われる6年目。自らの右腕で運命を切り拓く。(木村竜也 / Tatsuya Kimura)