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 バスケットボール男子日本代表の桶谷大(だい)新ヘッドコーチ(琉球ゴールデンキングスHC)の下、元ワシントン・ウィザーズのアシスタントコーチで現シーホース三河のライアン・リッチマンHCとともにACを務めることになった吉本泰輔氏。現在はNBAデンバー・ナゲッツ傘下のGリーグチーム、グランドラピッズ・ゴールドのACを務めている。

 その吉本氏と偶然会いたければ、所属チームのゴールドが滞在している町で日本人選手の試合があるかを調べることだ。もしあったなら、その試合で吉本氏に会える確率が高いと言っていいだろう。

 ニューヨーク・ニックスのACを務めていた昨年もロサンゼルスに遠征に来ていたかと思えば、当時ハワイ大学のジェイコブス晶(現フォーダム大学)がロサンゼルス郊外で試合があることを自ら調べ、配車アプリを使って観戦に行った。「若手の登竜門」と言われるNBAサマーリーグでニックスの指揮官を務めていたときも、忙しい合間を縫ってJr.NBAショーケースのメンバーに選ばれていた中村颯斗(当時四日市メリノール学院中学校3年/現在東山高校2年)の試合会場に顔を見せた。また現在ボストンカレッジに所属するテーブス流河が高校のオフシーズンにAAUチームでプレーしていたときも、試合時間や試合会場を知るのが困難な同大会でテーブスが出場していた試合に足を運んでいた。

 NBAに6年間所属した千葉ジェッツの渡邊雄太に関しては、母校のフォーダム大学からプレップスクールでプレーしていた渡邊の「リクルートを手伝ってくれないか」と言われたことをきっかけにジョージワシントン大への進学後は直接会って話すようになるなど長いつきあいだ。

 ロサンゼルス・レイカーズの八村塁の所属していたゴンザガ大学はワシントン州だったため観戦機会はあまりなかった。ただし、ブルズ在籍時にポートランドへ遠征した際、ゴンザガ大も同地で試合があったため試合会場に向かい顔を合わせた。以降はNBAの試合で会うたびに話をしている間柄だ。

 昨年のサマーリーグでは、自らのニックスでプレーしていた馬場雄大(現長崎ヴェルカ)はもちろん、シカゴ・ブルズの河村勇輝の試合にもインディアナ・ペイサーズの富永啓生(現レバンガ北海道)の試合にも、吉本氏の姿があった。

「ヘッドコーチになることが目標。自分になり得る最高のヘッドコーチになりたい」。そう語る吉本氏は、アメリカで奮闘している日本人選手を常に気にかけている。

 2001年に渡米した吉本氏は、ニューハンプシャー・テクニカル・インスティチュート大学(短期大学)から全米大学体育協会(NCAA)3部のジョンソン&ウェルズ大に編入し、3年生時には同大初のトーナメント進出も果たした。卒業後は「バスケットボールに関わる仕事がしたい」と、同大で1年間ACを務め、コーチを目指すことを決心。その後フォーダム大学の大学院に進学し、教育学を学びながら男子バスケットボールチームでマネージャーを務め、DIレベルの指導法も習得した。

 卒業後の2009~11年、ニュージャージー・ネッツ(現ブルックリン・ネッツ)でビデオコーディネーターのインターンをし、2011年にはウクライナ代表チームのビデオコーディネーターとして、NBAで16年あまり手腕を振るった名指導者マイク・フラテロ氏を支えた。同氏は吉本氏について「彼の労働論理の高さは素晴らしい。疲れを知らず、仕事を成し遂げるためにあらゆる時間を費やしていた。彼のようなビデオコーディネーターこそが、我々が求めていたものだった」と話したが、それは同代表のACで、ブルズのACでもあったエド・ピンクニー氏も同じだった。

 そしてピンクニー氏が当時ブルズを指揮していたトム・シボドーHCに「凄いビデオコーディネーターがいる」と話したことで、ブルズのビデオコーディネーターとしてのキャリアがスタート。すると今度はシボドーHCが吉本氏の勤勉ぶりを気に入り、以降ミネソタ・ティンバーウルブズのHC兼バスケットボール運営部門代表になったときもニックスのHCになったときも吉本氏を自らの側に置いた。ニックスでの2年目からは吉本氏をサマーリーグのHCとして送り、3年目からは吉本氏をHC補佐からACに任命、選手育成も兼任させた。

 年間最優秀コーチ賞を2度獲得した名将は、吉本氏について「努力家で頭がいい。非常に高いリーダーシップ能力を持っており、優れた指導者」と愛弟子について語る。また吉本氏がナゲッツのマイケル・マローン元HCの下でビデオコーディネーターをしていた2015-16シーズン、同チームのACを務めていたウィザーズのウェス・アンセルド元HC(現ブルズAC)は、「いつも私たちが考えることの先回りをしていた。彼はまさにコーチ陣の心を読める人材だった。彼には、コーチがいつ、どんな情報をどのように必要とするかがわかっていて、我々が『この情報が必要だ』と思った時には、いつもそれが出来上がっている状態にしていた」と当時を振り返った。

 これまで12年間をともにしたシボドー氏から学んだことについて、「一つだけを挙げることはできない。彼がやっているすべてのこと、彼のすべてのやり方、それら一つ一つには理由があり、結果に繋げている。彼には毎試合、チームをしっかり準備させようという情熱がある」と熱く語る吉本氏。NBAで培った土台を日本に持ち込む時が、ようやく訪れた。

■プロフィール

吉本泰輔(よしもと・だいすけ)・

1981年5月23日生まれ、大阪府出身。愛称は「ダイス(Dice)」。2001年に大商学園高校を卒業後、アメリカへ渡る。ニューハンプシャー・テクニカル・インスティチュート大学(短期大学)を経て、ジョンソン&ウェルズ大学でプレー。卒業後はフォーダム大学の大学院で教育学を学びつつ、コーチの道を歩み始めた。

【主な指導歴】

・2011〜2016年:シカゴ・ブルズ(ビデオコーディネーターなど)

・2016〜2020年:ミネソタ・ティンバーウルブズ(HC補佐など)

・2020〜2025年:ニューヨーク・ニックスAC

※2021年〜2024年にかけて、4年連続でニックスのサマーリーグチームでHCを務めた

・2025年9月〜:Gリーグ グランドラピッズ・ゴールドAC

・2026年2月〜:男子日本代表AC

文=山脇明子