山中慎介インタビュー 後編今後のバンタム級戦線について(前編:井上尚弥のフェザー級転向は、山中慎介から見て「ベストなタイ…

山中慎介インタビュー 後編

今後のバンタム級戦線について

(前編:井上尚弥のフェザー級転向は、山中慎介から見て「ベストなタイミング」 昇級後に対戦が楽しみな選手は?>>)

 バンタム級で4団体を束ねていた井上尚弥(大橋)がスーパーバンタム級に上がり、その後を追うように2団体を統一していた中谷潤人(M.T)、元IBF世界バンタム級王者・西田凌佑(六島)も階級を上げ、バンタム級は新たな時代を迎えている。

 昨年11月のWBC世界バンタム級王座決定戦では、井上拓真(大橋)が那須川天心(帝拳)に判定勝利し、天心にプロ初黒星をつけた。さらに12月には、WBA王者・堤聖也(角海老宝石)がノニト・ドネア(フィリピン)との激闘を制し、5階級制覇を狙う井岡一翔(志成)もバンタム級転向初戦で快勝した。

 群雄割拠のバンタム級の行方は? 元WBC世界バンタム級王者・山中慎介氏に聞いた。


昨年11月、那須川天心(左)に初黒星をつけた井上拓真 photo by 山口フィニート裕朗/アフロ

【堤聖也が見せた

「負けない強さ」】

――2025年、バンタム級が一気に動きました。まずは山中さんが中継の解説を務めた、堤vsドネアの感想から聞かせてください。

「まずは試合の入りについて、堤はもともとスタートからポイントをガンガン取りにいくタイプではないですが、相手は一発のあるドネアなので非常に慎重に入っていました。対するドネアはキャリアと実力も十分ですから、距離感と手数だけでポイントをピックアップする術を知っている。

 実際に僕のなかでは、前半はほぼドネアのポイントでした。試合展開としてはわかりやすく、『前半はドネア、後半は堤』。そのなかで、どれだけポイントを回収できるかという勝負でしたね」

――前半は劣勢でも巻き返す、堤選手の「負けない強さ」はどこからきていると思いますか?

「打たれたら必ず打ち返す、なんなら、一度ダウンしてからスイッチが入るような感じですよね。これからも苦労する試合が多くなりそうですが、それが彼の持ち味です」

――ただ、ダメージの蓄積も心配です。

「そこは正直、心配しています。ドネア戦も、4ラウンドにダウンこそしなかったものの、かなり効かされた場面がありました。長く休んでもいいんじゃないかと思うくらいのダメージを負っていますよね。次の試合は、休養王者アントニオ・バルガス(アメリカ)との団体内王座統一戦が予想されていますが、バルガスも一発が強いでしょうから、ダメージを受けてほしくないですね」

【井岡一翔、井上拓真、那須川天心の今後は?】

――井岡一翔選手のバンタム級転向初戦はいかがでしたか?

「スピードや距離感、階級へのフィット感という部分では、問題なかったと思います。出来はよかったですし、もともと実力がある選手ですから。ただ、相手の実力を考えると、この1試合だけでバンタム級でどれくらいやれるかを判断するのはちょっと早いですね」

――井岡選手は、井上拓真選手との対戦を呼びかけていますね。

「そのカードが実現すれば、かなり勝負論のある試合になると思います。井岡には十分な実績がありますし、実力も申し分ない。一方の拓真も天心に勝利して勢いに乗っていると思いますよ」

――拓真選手は天心戦のプレッシャーを勝ち抜いたことで、さらに成長したのでは?

「相当なプレッシャーがあったでしょうね。負けたら連敗という状況で勝ち抜いたのは、めちゃくちゃ大きかったです。"井上尚弥の弟"ではなく、"井上拓真"という存在を世に知らしめて再浮上した。まだまだ強くなる余地があると思います」

――キックボクシング時代からの公式戦55戦目で初黒星となった、天心選手の今後についてはどう見ていますか?

「ベルト獲得を急ぐよりも、少し試合経験を積ませてもいいんじゃないかと思います。これからも伸びていく選手ですし、負けを経験してどうボクシングと向き合っていくのか楽しみです。ただ、バンタム級は、日本人で実力のある選手たちが下から突き上げてきますからね。天心といえども、うかうかはしていられないですね」

――そんな天心選手と、フアン・フランシスコ・エストラーダ選手(メキシコ/49戦45勝4敗28KO)による「WBCバンタム級挑戦者決定戦」が行なわれる、という話が出てきましたね。

「エストラーダの骨格やサイズ感は、身長163cm、リーチ168cmで、バンタム級だと少し小さいかなという印象です(天心は身長165cm、リーチ177cm)。年齢も35歳で、ピーク時よりは少し落ちてきた感があります。とはいえ、あれだけのキャリアを誇る選手ですから、天心にとっては厳しい相手ですね」

――天心選手は拓真選手に敗れましたが、WBCのランキングは2位。同1位のエストラーダ選手との挑戦者決定戦という流れは妥当でしょうか?

「ランキングの順位でいえば、そういう組み合わせになりますよね」

――WBAでは、ランキング1位のノニト・ドネア選手(フィリピン)と、同4位・増田陸選手の対戦が決まりました。そちらも挑戦者決定戦となりますが(「U-NEXT BOXING5」3月15日、横浜・BUNTAI)、山中さんの"神の左"を継承する者とも言われる増田選手への期待値は大きいのでは?

「そうですね。増田がKO勝利を飾って、ドネアに引導を渡すという可能性もあるんじゃないか見ています」

【ひとつ下の階級に「最大の脅威」】

――バンタム級の勢力図はどうなると予想しますか?

「日本人が強い階級であることは間違いないですし、話題は尽きないですよね。ただ、中谷のように『この階級を突き抜けて上がっていく』ような圧倒的な強さを見せる選手が見当たらない、という感じはします。逆に、実力が拮抗していて勝負論があるカードが多いとも言えますね」

――もし、WBA・WBC・WBO世界スーパーフライ級統一王者の"バム"ことジェシー・ロドリゲス選手(アメリカ)がバンタム級に上げてきたら、どうなりますか? これまでの戦績は23戦23勝16KOです。

「バムがバンタム級に上がってきたら、一気に主役の座を奪われる可能性はあります。井岡にも勝っているフェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)にも完勝しましたからね。バムは、かつてのローマン・ゴンサレス(ニカラグア)やエストラーダのような完成度があります」

――ロドリゲス選手のサイズ感(身長164cm、リーチ170cm)はいかがですか?

「サイズは少し懸念点ではありますけど、普段はめちゃくちゃ体重が重いらしいんですよ。実は以前、帝拳ジムに遊びにきていた彼を間近で見たことがあるのですが、オフの状態でも体の厚みがすごかった。あのフィジカルと技術があれば、間違いなく今後、バンタム級の"ラスボス"になります。彼がバンタム級の戦線に絡んでくることになれば、日本の王者たちにとって最大の脅威になるのは間違いないでしょう」

【プロフィール】

■山中慎介(やまなか・しんすけ)

1982年滋賀県生まれ。元WBC世界バンタム級チャンピオンの辰吉丈一郎氏が巻いていたベルトに憧れ、南京都高校(現・京都廣学館高校)でボクシングを始める。専修大学卒業後、2006年プロデビュー。2010年第65代日本バンタム級、2011年第29代WBC世界バンタム級の王座を獲得。「神の左」と称されるフィニッシュブローの左ストレートを武器に、日本歴代2位の12度の防衛を果たし、2018年に引退。現在、ボクシング解説者、アスリートタレントとして各種メディアで活躍。プロ戦績:31戦27勝(19KO)2敗2分。