その一本のために、4年間を費やしてきた。 スピードスケーター、高木美帆。 31歳が集大成のミラノ・コルティナ冬季オリン…
その一本のために、4年間を費やしてきた。
スピードスケーター、高木美帆。
31歳が集大成のミラノ・コルティナ冬季オリンピック(五輪)で狙うのは、いまだ手にしていない1500メートルの金メダルだ。
2022年北京冬季五輪の高木はメダルラッシュだった。
金一つに、銀三つ。
18年平昌大会での三つのメダルと合わせると、計7個の五輪メダルを首にかけた。日本の女性アスリートでは歴代最多となる偉業を成し遂げたのだ。
しかし、華々しい活躍を果たした北京五輪を総括する会見で、当時27歳は「できたこと」より、「できなかった後悔」を口にした。
優勝候補の大本命として挑みながら、銀メダルに終わった1500メートルについて、「思い描いたような滑りができなかったっていうのは、私のなかで消えずに残っている」。
北京を花道に、引退する。それも現実的な選択肢の一つだった。
それでも、競技人生を見つめ直す中で、「もうちょっとスケートをやりたいと思っている自分がいる」と気づく。「北京五輪ほど燃やせるものというのは、自分の中にまだ持っていない。4年後の五輪に向け、答えが私の中にはない」と複雑な思いも漏らしていた。
22年6月、それまで活動の中心だった日本代表のナショナルチームを離れ、15年から師事してきたコーチのヨハン・デビット氏と二人三脚で活動をスタートさせた。翌年には、長く在籍した日本体育大学を離れ、新たな所属先へ移った。
そして、自身で「team GOLD」(チームゴールド)を結成。その頃には、ぼんやりとしていたあの日の後悔が、勝利への渇望なのだと自覚していた。
高木は明確に宣言する。
「ミラノの1500メートルをとりにいく」
大きく環境を変え、新たなスタイルでそれまでの自分を超えるチャレンジだった。当初は順風満帆にも映った。
ワールドカップ(W杯)でも着実に勝利を積み上げ、1500メートルでは22~23年シーズンに3勝、23~24年に5勝、24~25年に2勝を挙げた。24年の世界距離別選手権では1500メートルで初めて表彰台の真ん中に立った。
ただ、五輪シーズンを迎えた今、高木は逆風の中にいる。
年齢からくる衰えなのか、安定した強さは影をひそめている。
本人いわく「ラスト1周、私の中で動きが明らかに(悪い方へ)変わる感覚がある」。スピードを求めれば終盤で大きく失速し、失速を防ごうと滑りの技術に集中するとスピードに乗れない。
今シーズンはW杯5戦でわずか1勝。それでも、一筋縄ではいかないからこそ、この種目には魅力がある。
「翻弄(ほんろう)されているな、と。1500メートルは、最小限のエネルギーで最大スピードを出し、そのまま、どこまで失速させないでゴールまで行けるかという戦いになってくる。そういう繊細なところもある種目。私はたぶん、スピードスケートの中で、そういうスケーティング自体が、好きなのだろうなって感じている」
前回の北京五輪に引き続き、複数種目にメダルの有力候補として出場する。
2連覇がかかる1000メートル(日本時間10日未明)、2大会ぶりの王座奪還をもくろむ団体追い抜き(準決勝、決勝は日本時間17日深夜)で勢いに乗り、最後の出場種目となる1500メートル(日本時間21日未明)で悲願を結実させる。(松本龍三郎)