森林監督が部活動の意義について語った(C)CoCoKARAnext 2023年夏の甲子園で慶應義塾高校(神奈川)を107…

森林監督が部活動の意義について語った(C)CoCoKARAnext

 2023年夏の甲子園で慶應義塾高校(神奈川)を107年ぶりの日本一に導いた森林貴彦監督の著書「成長至上主義のチームデザイン」(東洋館出版社)が野球界の枠にとどまらず、スポーツの指導者やファンの間で好評を得ている。勝利至上主義ではなく、成長至上主義でチームを見ることの大切さ、「勝ち」だけではなく「価値」を作ることの重要性を説いた一冊だ。スポーツは、部活動は、今後どのように社会的価値を高めていくべきなのか。インタビューを前後編の2回にわたってお届けする。

――部活動について様々な議論が行われている中で、森林監督は部活動の持つ教育的価値に、教室では手に入らない様々な価値が見出せると本書で書かれています。

森林 部活動をめぐる環境はなかなか厳しいものがあって、教員側からすると「ブラック部活」とも呼ばれるように、労働の大変さが指摘されています。高校生にとっても体罰や部内いじめといったネガティブなニュースには事欠かない状況です。今ここで、きっちり部活動の意義や役割を示していかないと、どんどん縮小されてしまう。ポジティブな側面を伝えていくことは重要だと思っています。

――教室では手に入らない成長の機会がある、と。

森林 一つはスポーツマンシップ。さらに最近の言葉だと「インテグリティ」…高潔さですよね。さらには負けても、困難を乗り越える力…「レジリエンス」と呼ばれるものです。これらは教室ではなかなか伝えきれない、身につけることができないことだと思っています。指導者側や部活動に携わる側が、「こういったものが身につきますよ」と伝えていかないと、「部活いらないじゃん」「授業を増やせばいいじゃん」となってくる。教室だけでは伝えられないことが、部活動では学べるんだという意義は、しっかり主張していくべきだと思います。

――現代は子どもが失敗しづらい環境があります。大人が、失敗しないように先回りして、レールを敷く傾向もある。そういう意味でもスポーツでは、失敗も含めた成長への様々な経験ができますよね。

森林 社会に出る前に、スポーツを通じていろんな失敗や試行錯誤、仲間との衝突、様々な疑似体験ができると思うんですよね。スポーツって、スポーツそのものを味わう、楽しむこともできるけど、スポーツを通じての教育や成長も大いにできる。そこが大事なところだと思います。本来の学校は、生徒に思いっきりいろいろチャレンジさせてみて、失敗させてあげられる場のはずなんですが、今は教員も「最短距離で答えの出し方を教える」、保護者も「失敗するよりはうまくいった方がいい」、本人達も「恥ずかしい思いをするぐらいなら、みんなの後についていって、後でもいいから正解を出したい」といったふうに、失敗を回避する方向にみんなが行ってしまいがちです。

――コスパにタイパ。極力、無駄を省く現代人の思考が根底にはあるのかもしれません。

森林 そこを部活動や学校、スポーツという場で大いにチャレンジする。その結果、一時的に失敗に見えるかもしれませんが、それをまた糧にして次の成功に生かすために使う。「失敗」って言うと、誰もが避けたいものですが、次の成功のための過程であり材料。そう捉えていけばいいと思うんですよね。

――「失敗したくない」から「失敗してもいいからチャレンジする」となれば、新しいことをやってみよう、変革を志そうと、若者が一歩踏み出すマインドも醸成されます。

森林 これからAIが全盛となる中で、若い人がやる前にネットで調べて、「こうやればうまくいく」「こうやれば失敗しない」と失敗を回避する風潮はさらに高まっていくでしょう。でもスポーツは、自分の身体を使って表現するので、自分の身体をどう操作できるかとか、頭の中だけでは解決できないんです。

――リアルとバーチャルはまた、別物ですからね。

森林 AIに「140キロの球をどうやったら打てますか」と聞けば答えてくれるけど、自分の身体でできるかと言えば、分かっていたってできない。それを身体でどう表現するかというのは、スポーツの大事な部分です。身体表現において、失敗はつきもの。試行錯誤があって当たり前です。失敗を含めて、上達や成長のプロセスを楽しむことができれば、AIやタイパ、コスパの時代に、スポーツや部活動の価値が見直されるようになると思うんですよね。【後編につづく】

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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