今季からJ2藤枝を率いる槙野智章監督(38)のインタビュー第2回は、チーム内競争の重要性について。簡単に「正守護神」を…

 今季からJ2藤枝を率いる槙野智章監督(38)のインタビュー第2回は、チーム内競争の重要性について。簡単に「正守護神」を決めない理由などを明かした。(取材・構成=伊藤 明日香)

 始動した1月5日から1か月が経過。同16日から25日にかけて行われた鹿児島キャンプでは、非公開を含め4試合を行った。昨季の藤枝はJ2リーグ15位。攻撃的サッカーを掲げながらも決定力に欠け、41得点はリーグ14位だった。槙野監督が掲げるのは、造語である「Mirageo(ミラージオ)」だ。「Mirage(迷彩)」「Neo(新時代)」「Go(行く)」を掛け合わせ「どこから攻めてくるか分からない、幻のような攻撃」をチームに落とし込み、得点力の上積みを狙う。

 「選手それぞれの良さが見えましたし、同時にチームとしての課題も見つけることができました。そういう意味では、課題と向き合いながら取り組んでいる段階だと思います」

 今季初実戦となった17日のJ1福岡戦では、1本目から地元・富士市立高出身のルーキーFW山崎絢心(けんしん)を起用。若手同士の競争を促した。山崎は右ウィングで起用され、推進力のあるドリブルを披露。槙野監督が重視するボール保持を軸とした攻撃的なスタイルの中で、存在感を見せた。明大卒のFW真鍋隼虎は、大学時代は2トップの一角に入ることが多かったが、1トップでも適応を見せ、キャンプ期間中の4試合で3ゴールを決めた。

 「(新加入の)若手5選手(うち大卒4人)は本当に面白い選手ばかりです。彼らが今いる選手たちを脅かさなければ、チーム力は一気に上がらない。キャンプでは、自分のポジションを奪いにいく姿勢を率先して見せてくれました」

 競争の波はGK陣にも及んでいる。昨季限りで六反勇治氏が現役を引退。今季J3の山口から田口潤人が加入し、4人体制となっている。昨季は北村海チディが全38試合でゴールを守ったが、簡単には「正守護神」を決めない。キャンプ期間中もGKの序列に固定観念を持たず、出場時間はほぼ均等に与えた。

 「『誰が正守護神か』と決めつけるのが一番良くない。主力か控えかが見えた瞬間に、選手の成長は一気に止まります。うまく競争させながらマネジメントしていかなければいけない。チディはこれまで一番手としてチームを引っ張ってきましたが、その意識が強すぎると、逆に伸び悩むこともある。選手の幅を広げていくことが大切で、その意味ではチディにとってもチャンスだと思います」

 指揮官が重視するのはマネジメントだ。「チームと円滑に動くこと」「選手と良い関係性を築くこと」「街との連係」。中でも、選手との向き合い方に最も力を注いでいる。

 「チームを強くするのはもちろんですが『槙野さんに言われて変われた』と思ってもらえる選手が増えたらうれしい。僕自身も、いろんな監督から刺激を受けてここまで来ました」

 目線は常に、その先にある。

 「選手にはこのクラブに居続けることだけでなく、上のステージ、日本代表や海外を目指してほしい。自分が、そのキッカケになれたらと思っています」

 指導の中で大切にしているものもある。現役引退からJクラブ監督就任まで、3年間の準備期間を設けた。タレント活動をこなしながら、神奈川県1部リーグの品川CCで指導に携わり、現場経験を積んだからこそ、得た経験もある。

 「スタイルを貫く姿勢は大事だと思います。(品川CCで)自分のやり方で結果が出ず、変えたことがありました。その時に選手から『槙野さんがやりたいのは、これじゃないでしょ』と言われて、目が覚めました。やはり目の前の勝ちを優先して変えるのと、その1か月後、2か月後に自分たちがどうなるかを考えながらやるのは違う。百年構想リーグの結果を求めに行くサッカーだったら、2026―27年シーズンは失敗すると僕は思っている。我々が今やろうとしているのは26―27年シーズンでJ1に昇格することです」

 練習やミーティングでは、端的でインパクトのある言葉を意識する。藤枝の始動ミーティングでは、現在のクラブを「残留で満足している5合目」と表現。上位進出を8合目、優勝・昇格を山頂に例え、現在地と目標を明確に示した。

 「いろんな監督の下でやってきましたが、残る言葉と残らない言葉がある。1時間話しても『結局何が言いたかったんだっけ』という人もいれば、10分でもしっかり頭に入ってくる人もいる。どう伝えたら飽きさせず、理解してもらえるかを考えながら、言葉を選んでいます」

 J2・J3百年構想リーグで東Bグループに入った藤枝は8日、初戦をホームで岐阜と戦う。昇降格のない特別大会は、26―27年シーズンを見据えた準備期間と位置づける。対戦相手には、カズことFW三浦知良が加入したJ3福島や、同じ静岡を本拠地とするJ2磐田が名を連ねるが、リーグ内で最も対戦してみたいチームとして挙げたのがJ2大宮だ。

 「現役時代は長く浦和でプレーし、対戦相手としても経験があります。オーストリアの大手飲料メーカー、レッドブルがクラブを買収してから良い選手も増えました。ここに打ち勝たないと次のステージは見えてこない。雰囲気も含めて、非常にやりがいのある相手だと思います」

 大宮は2024年途中にレッドブルの買収を受け、同年はJ3で優勝。昨季はJ2で6位に入り、J1復帰を視野に入れている強敵だ。槙野監督の視線の先にあるのは、残留ではない。その覚悟を示す舞台が、まもなく幕を開ける。

 ◆槙野 智章(まきの・ともあき)1987年5月11日、広島市生まれ。38歳。広島の下部組織から2006年にトップ昇格。10年冬にドイツ1部ケルン、12年に浦和へ移籍。22年に神戸へ加入し同年に現役引退。J1通算415試合46得点。10、15、16年J1ベストイレブン。日本代表では18年ロシアW杯メンバーに入り、国際Aマッチ38試合4得点。