試合…

 試合開始まで1時間を切ったころだっただろうか。昨年の6月以来の再会に韓国女子バスケットボールリーグ(WKBL)のKBスターズの酒井彩等と挨拶を交わしていたとき、同チームのカン イスルがこちらに気づくと、笑顔で歩み寄り、独学で学んでいるという日本語でこう切り出した。

「サラは、このチームで、……重要! 重要な選手です。ベテランだから競った試合でも落ち着いています」

 その言葉に「うれしぃ」とつぶやく酒井の横でイスルは「オフェンスもすごくできます」と、続けた。

 

 昨夏の「FIBA 女子アジアカップ」で女子韓国代表のキャプテンを務め、KBではエースを担うイスル。彼女の言葉だけでもアジアクォーター枠でKBに今シーズンより加入した酒井に対するチームの信頼度が高いことは伺える。

 実際、開幕からここまで酒井は全試合に出場(2月2日時点)。1試合平均で28分56秒のプレータイムは、イスル、そして韓国代表のポイントガードでもあるホ イェウンに次ぐ3番目の数字だ。

 酒井と再会したこの日の試合も、26分20秒とチーム一長い出場時間で勝利に貢献。その試合では2得点3アシスト2リバウンドと決して大きな数字を残したわけではないが、酒井がコートにいるとパスがよく回り、テンポ良いオフェンスを生み出す。イスルが『落ち着いている』と表現するのが頷けるように、緊迫した場面でも的確なパスや自らのシュートと状況判断に優れたプレーでチームを引っ張った。こうした数字に現れないところの働きも大きいが、これについて酒井は試合後、このように語った。

「最初は、チームから毎試合2ケタ得点でアシストは5本以上、スティールも…といったように目標の数字を提示されていました。でも、(シーズンの)途中で監督と話をしたときに、『数字に残らないないところで仕事をしてくれているのはすごく分かる』と言ってくれて。選手たちも同じように言ってくれたので、そこからは、そういったことも自分自身の持ち味かなと思ってやっています」

 所属するKBは、フォワードのイスルを筆頭に2シーズン振りにWKBLに復帰した193センチのセンター、パク ジスなど得点力の高い選手が多く、ガードからセンターまでバランスの良い布陣だ。その中でガードを務める酒井は、「自分で攻めていいし、点を取りに行ってもいいと言われていますが、私が打つよりは、ガードとしてその試合で(シュートの)確率がいい人にボールを渡した方がいいかなと思っていて、シュートが当たっている人がいれば、そこにパスを出そうということは意識しています」という。もちろん、チャンスがあれば自らも得点を狙う積極性は忘れてはいないが、ガードとしては得点パターンの選択肢を多く持ちたいという考えだ。

「違和感なくやれているのが不思議で、結構馴染んでいる感じはあります」という酒井は、 バスケットIQも高い選手。試合では自らの役割を淡々と、そして卒なくこないていくが、そんな様子はWリーグでプレーしていたときと変わらず、実に彼女らしいといえる。

「キャリア的にも日本のWリーグでやってきた経験と自信は一応あるので、それで余裕を持ってできているのかなと思います」と、酒井。桜花学園高校(愛知県)卒業後に入団したアイシンウィングス(入団時はアイシン・エィ・ダブリュ)で11シーズン、Wリーグを主戦場に戦ってきたキャリアもまた彼女の活躍の支えとなっている。

 そんな酒井は、異国の地に来て、改めてファンダメンタルの重要性を感じているそうだ。

 バスケ王国愛知県出身、昭和ミニバスで服部幸男氏、若水中学校では杉浦裕司氏、桜花学園では井上眞一氏と、各年代でファンダメンタルに重きを置く名将たちからバスケットを教わってきた。そうした小学生時代から身に付けたファンダメンタルは、今でもしっかりと生かされており、「ディフェンスでは日本の方がしつこさがあるけれど、こっちは(相手ディフェンダーの)手足も長いし、ちょっとしたコンタクトが強い。それでも、(それに対して)いなせているというか、かわすことができるのは、小学校からやってきた経験とかファンダメンタルが生かされているなと思います」と、言う。

 そしてこうも発した。「パス一つとっても大事だなと思っていて、今だと(193センチの)ジスへのパスも、ファンダメンタルをやってこなかったら、(ジスの背が)大きいからこそ狙い過ぎてしまってドンピシャのパスができなかったんじゃないかなと思います」

 KBは今シーズン、アジアクォーター枠では酒井のみの獲得のため、日本人選手は一人。当初は心細さがあっただろうが、今は「ある意味、コミュニケーション取らなきゃいけない環境に来てよかったのかなって思っています」と、頼もしい言葉も。

 また、新たな気づきもあったようで、「韓国の選手たちは、感情をワっと口に出すことがあるんです。最初はびっくりしたけれど、それで周りの選手たちも気持ちが上がっていくから、そうやって口にすることも一つのポーズ(姿勢)として大事なんだと思いました」とも語った。

 酒井自身、憧れの選手でアイシンウィングス時代はチームメートだった吉田亜沙美(現・三菱電機コアラーズ)とは、今でも連絡を取っていて、ピック&ロールでの細かい動きなどを相談することもあるという。

「毎試合見てくれているみたいで。心配なんですかね(笑)」と語る表情はうれしそうだ。

 KBは2月2日の試合に勝利し、6連勝中。6チーム中2位に付け、1位のハナ銀行にも迫る勢いだ。序盤は欠場もあったパク ジスの調子も上がってきており、上昇気流に乗っているところ。そんなチームに酒井の存在は欠かせない。「思い切り、何も考えずにやれているというのが楽しいです」という日本から来た司令塔は、チームの“重要な”ピースとして、新たな仲間たちとともに頂点を目指す。

文=田島早苗

【動画】KBスターズ 酒井彩等