ノルディックスキー・ジャンプ男子のエース、小林陵侑(29)=チームROY=は、なぜ遠くに飛べるのか? 22年2月に北翔…
ノルディックスキー・ジャンプ男子のエース、小林陵侑(29)=チームROY=は、なぜ遠くに飛べるのか? 22年2月に北翔大、神戸大、理化学研究所などの研究チームがスーパーコンピューター「富岳」を使ってこの問いに答える分析をした。長らくジャンプの研究を重ねてきた北翔大の山本敬三教授は、常識を超えたスタイルが実はビッグジャンプを生み出す要因だと説明。高い完成度と評される「陵侑式」ジャンプの秘密を聞いた。(取材・構成=松末 守司)
ジャンプ競技の一連の流れの基本は、時速約90キロで、助走路を滑り、飛び出し口(カンテ)を踏み切って空中に飛び出し、着地する。単純そうに思えるが、テイクオフから着地までの約4~5秒間という短い時間の中で、正確性と高い技術が求められる。非常に繊細かつ奥が深い競技だ。
22年に一連の動きをモーション・キャプチャー(3次元動作解析装置)を使いデジタル化し、小林と他選手のデータを分析した研究結果が発表された。北京五輪ノーマルヒル金メダルの小林のジャンプスタイルは「我々の常識とは少し違う」と、山本教授は驚きの結果だったことを口にする。
小林の特徴は2つある。
【飛び出し】
踏み切ると背中をピンと伸ばした姿勢で飛んでいく。この形だと、踏み切った直後に風の抵抗を受けやすくなり、多くの選手はこの抗力(空気抵抗)を減らすために、体を曲げて抑えようとする。実際、データを見ると小林は踏み切り直後、確かに抗力が他選手よりも急激に増大している。
当然、他選手がこのスタイルで飛べば失速してしまうが、小林は空中姿勢への移行をわずか0・4秒でやってのけるためすぐに抗力が抑えられている。さらに他選手が空中で後半になればなるほど揚力(進む方向に対して上向きに働く力)が減少していくのに対して、増えていくことも分かった。
【気流の乱れが少ない】
気流を立体解析した画像を他選手と比較すると明らかに異なる。他選手は乱れた曲線が多いものの、小林は直線に流れ、上向きの力が生まれている。「空中への移行が速いのでその後にもっといい状況をつくれている」と山本教授はいう。
昨年、ジャンプ台に16台のカメラを設置し、踏み切った直後の約0・2秒間で採取した1000にも上るデータを解析したところ、主に「揚力獲得型」「バランス型」「抗力抑制型」3つのスタイルに分類されることが分かった。小林は「揚力獲得型」で、山本教授も「動作とは別に、空中で細かい姿勢制御などを行って揚力を得続けているんだと思う」と話す。体を曲げて空気抵抗を減らしていく二階堂蓮(24)らの「抗力抑制型」。「バランス型」は、2つの型の中間点にあたる葛西紀明(53)らがいるという。
強さの秘密。結論は常識にとらわれない「陵侑スタイル」だ。「だれもがこの形で飛べば飛べるわけではない。小林選手はこのスタイルが一番合っているということ」と山本教授。五輪連覇へ磨きに磨いた唯一無二の飛行をミラノの夜空に描く。